なぜ軽自動車は選ばれるのか 「軽トラック」がじわじわ広がっている理由

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2024年10月04日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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日本でなぜ軽自動車が生まれたのか

 日本の自動車業界は、現在のところほとんどの利益を輸出で稼いでいる。国内需要がないわけではない。しかし、しぼんでいく市場の中で投資には限界がある。それゆえ、利益率の低い商品となり、ユーザーにとっては値引きなどの駆け引きも難しくなっている。


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 もっとも、コロナ禍や半導体不足を経て、納車が半年から1〜2年も待たされるようになった今では、国内の乗用車販売は値引きよりも納期が優先される商談に変化している。


 そのため以前よりも利益率は高くなっている印象だが、実際の収益はディーラーによってさまざまだ。自動車メーカーは空前の利益を出しているが、競争が激しいエリアではディーラーは厳しい。


 コストパフォーマンス重視のユーザーは、とっくに普通車を見限り、軽自動車へとシフトしている。軽自動車は普通車とは異なり、自動車税や重量税などの税制面で依然として大きな優遇措置があり、近年は装備も普通車並みで快適なクルマがそろっている。


 そもそも軽自動車が誕生したのは、クルマが高価で庶民には手が届かない存在だという問題への対策だった。


●軽自動車は日本の“国民車構想”から誕生


 戦後の復興によって先進国、なかでも敗戦国ではまず簡素な構造のミニカーが作られ始めた。それらは小さく質素で、乗員数や荷物の積載能力も乏しいものだった。


 そこで国民車構想が掲げられ、ドイツではフォルクスワーゲンがビートルを、イタリアではフィアットがチンクエチェント(500)を、英国ではBMCがミニを開発、生産。世にクルマを広めていく。


 日本では小規模なメーカーやこれから自動車の生産を始める企業に対し、軽自動車の規格を当時の通産省が定め、四輪車製造への道筋を作る。そしてバイクメーカーだったスズキがスズライトを発売したが、価格は45万円。当時の庶民にはまだ高く、富士重工業(現スバル)がスバル360を36万円で発売し、ようやく多くの人に届けられるようになっていった。


 大卒の初任給が1万円だった時代に36万円だった軽自動車は、現在の価値に換算すると800万円近くとなる。それくらいクルマを所有するのは大変で庶民の憧れだった、ということだ。


 そこから経済成長と連動して軽自動車は手に入れやすくなっていく。スズキがアルトを46万円で発売した頃には、大卒の初任給は10万円程度まで上昇していた。


 となれば、初任給の4カ月分で手に入るのだから、軽自動車でなくても分割払いで普通車や輸入車を手に入れようとする人も増えていく。そうやって軽自動車が手に入りやすい存在になっていく一方で、普通車も大衆の足として普及していく。


 軽自動車が完全に普及すると、需要は地方の通勤用、近所の買い物用といった用途で使われる、いわば都市部での自転車に近いものになった。そんな実用一辺倒の乗り物から、軽自動車を魅力あるものに変えたのが、1993年に登場したスズキのワゴンRだろう。


 それまでは軽バンの乗用車仕様しか用意されていなかった軽自動車に、室内は狭くなるもののあえてボンネットを与え、ミニバン的なスタイリングとすることで、遊び心を感じさせるイメージで大ヒットとなったのだ。これによって後にハイトワゴン(車高が高いワゴン車のこと)という新たなカテゴリーを作り上げるのである。


●排気量とボディサイズを拡大して進化


 軽自動車はこれまで幾度もエンジンの排気量やボディサイズを拡大し、安全性や快適性を向上させていった。その生い立ちをたどれば、「軽自動車はクルマであって、クルマでない」という特別な存在であることが分かる。


 地方在住者にとって移動のためにクルマは欠かせず、1人1台のカーライフでは軽自動車が中心となるのは当然だった。


 最低限のスペースと実用性を備えていた軽自動車は、4人が広々とくつろげ、荷物もたくさん積めて、燃費もいいクルマになった。常に3人以上で移動するのでなければ、まったく不満を覚えないほど快適である。


 よって、こんな便利で経済的な乗り物は他に存在しないのだ。これを「脅威」と受け止めた海外の自動車メーカーは、軽自動車の税制は不平等だと外圧をかけ、軽自動車枠を撤廃するよう政府に働きかけたこともあった。


 実際、言い出しっぺの政府(当時の経産省)も、普通車に比べて税収の低い軽自動車は目の上のタンコブでもあったようだ。2014年にはついに軽自動車の税制に大ナタが振るわれる。


 2015年から軽自動車税が従来の1.5倍へと大幅に引き上げられたが、それでも年額1万800円(乗用車)という税額は普通車の半額以下だ。維持費用は相変わらず圧倒的に軽自動車の方が安い。


 そのため軽自動車でも十分、自分の目的を果たせると知ってしまったユーザーたちは、軽自動車から普通車へシフトすることなく、軽自動車を利用し続けているのである。


●ホンダが軽自動車に力を入れた功罪


 ホンダもスズキ同様、二輪車から軽自動車を経て普通車まで生産販売するまでに成長したメーカーである。


 ホンダは従来、スポーティーなモデルや斬新なRVなど、独自性のある普通車でヒットを飛ばしていた。一方、軽自動車の売り上げは低迷していた。


 そもそもT360という軽トラックで4輪メーカーとしてデビューを果たしたこともあり、アクティというホンダならではのミッドシップ構造の軽トラックを販売していた。ところが、オデッセイやステップワゴンといったミニバンなどのRV系に力を入れてヒットを生み出す一方で、軽自動車メーカーとしての存在感は希薄になっていった。


 そこでホンダは社運をかけて軽自動車を再解釈し、国民に支持される軽自動車を開発することにしたのである。その結果、生み出されたのが、N-WGN(Nワゴン)であった。


 従来の軽自動車ハイトワゴンの常識を超えた品質や乗り味を実現した結果、価格は高いが満足度の高いクルマが出来上がり、多くのユーザーから支持された。しかしながら、凝りに凝った構造と仕様が災いし、高コストとなってしまった。おまけにライバルは他社製軽自動車であったはずが、同じ店舗で販売する普通車からの乗り換えが続出したのである。


 初代のN-WGNはホンダに利益をあまりもたらさず、ディーラーにとってもお客さんは増えても収益は上がりにくい構造を招いてしまった。2019年に発売した2代目では、こうした問題点は改善され、販売店もメーカーも潤うモデルとなったようだ。


 ともあれホンダの影響もあって、乗用車の新車市場の4割は軽自動車が占める(もちろんスズキ、ダイハツの人気モデルもかなり多い)状況になっているのが、現在の日本の乗用車市場なのである。


 一方でトヨタのアルファードやランドクルーザーといった大型乗用車の人気も高く、残価設定やリセール性を見込んだ高額車両と軽自動車の二極化が進んでいる。これはクルマにどれだけお金を使うかというユーザーのカーライフに関する価値観の違いから来るものだ。


●軽自動車というモビリティーが再評価されている


 近年は軽トラックの実力が世界に広まりつつある。海外の牧場など、広大なスペースで足車にしているユーザーが急増中なのだ。「軽く、小さく、走破性が高く、荷物も積める」という軽トラックの利点と、小さなボディというかわいさが相まって、動画投稿サイトなどで大人気となっている。


 ホンダのアクティも海外で人気が高まっており、すでに十分使われた中古車が新車以上の価格で取引されるなどの現象も起こっている。以前は車幅を増やしたり、エンジン排気量を上げたりした海外専用モデルが設定されていたが、最近は軽自動車規格のまま輸出や現地生産をするケースもある。


 国内でも、小さく軽いという軽自動車カテゴリーを利用したスポーツカーの人気が再燃し、ジムニーなどクロスカントリーモデルも高い人気を維持しているが、この話題は広がりすぎるので、また別の機会に取り上げたい。


 石破新政権が誕生し、今後は軽自動車関連の税制が見直されるかもしれない。普通車と同じとはいかないまでも、軽自動車税などが再び引き上げられる可能性もある。


 可処分所得が増えない現在、将来の不安もあって軽自動車ユーザーが普通車へと乗り換える可能性は低い。この先もジワジワと普通車との維持費の差は縮まっていくだろうが、賢い日本のユーザーは軽自動車を選び続けるだろう。


 この先も軽自動車は、安全性も経済性もますます高められていくに違いない。日本が生んだこのユニークなカテゴリーは、日本から世界へジワジワと需要が広がりつつあるのだ。


(高根英幸)



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  • 軽トラ改造してるDQN多いですよねww
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