箱根から15時間、リレー形式で「温泉」を運ぶ!? 箱根の歴史やグルメを紹介

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2024年10月04日 16:10  J-WAVE NEWS

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箱根に関する歴史や魅力、独自の風習について、作家・文献学者の山口謠司さんが語った。

山口さんが登場したのは、J-WAVEでオンエア中のコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。放送日は7月8日(月)〜11日(木)。同コーナーでは、地方文化のなかで育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口氏が解説していく。ここではその内容をテキストで紹介。

また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが箱根を訪ね、そこに暮らす人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。

箱根駅伝を走り抜くための食事とは?

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画像素材:PIXTA

箱根町は富士箱根伊豆国立公園の中央にあり、都心からのアクセスがよい観光・温泉地として知られている。ゆっくり温泉につかったり、美術館をめぐったり、大自然のなかでのんびりしたり、思い思いの楽しみ方ができるのが魅力だ。

山口:新宿駅から小田急線のロマンスカーに乗れば箱根湯本駅まで約1時間30分で到着します。東京在住の方は、箱根は行こうと思えば、すぐに訪れることができる距離です。僕もフランスやイギリスから友だちがやってきて「温泉に行きたい」なんて言われると、ロマンスカーに乗って箱根に向かいます。日帰りで十分楽しめるし、おいしいご飯を食べて、お風呂に入ってちょっとのんびりして帰ってくる。とてもいいところだと思います。

箱根といえば「箱根駅伝」をパッと頭に思い浮かべる人も多いはず。

山口:箱根駅伝は「東京箱根間往復大学駅伝競走」が正式名称で、毎年1月2日に往路として東京・大手町から箱根まで、翌日1月3日に復路として東京まで走ります。それぞれ5人ずつの選手がたすきを繋いでいきますが、往路が107.5km、復路が109.6km……合計11時間くらいかかるのでしょうか。頭数で割りますと、1人あたり1時間10〜20分くらいを走るんですけど、箱根まで走るのってすごいことだなと改めて思います。

2024年に第100回大会が行われたということで、来年2025年は101回目になるそうです。ところで駅伝という言葉、今は英語で「マラソンリレー」と訳されるそうですが、つい最近まで「エキデン」が国際語として使われていたそうです。これからもぜひ「エキデン」と言ってもらいたいと思いますけどね。

尋常じゃないほどの体力を消費する駅伝。日頃の食事も走り抜くためには大事になってくるという。

山口:長距離を走る場合、筋肉と肝臓に糖質をたっぷり蓄えておかないと、走れないそうです。駅伝は正月に行われますが、選ばれた選手は走る日にちが決まると、1週間前から徐々に食事を調整していくそうです。

僕は専門家ではありませんので詳しいことはわかりませんが、そのなかでも白米を食べる量を少しずつ減らしていって、1日前には白米を食べないようにするそうです。その代わり、お肉をたくさん摂るようにする。そうすると、筋肉と肝臓に十分な糖分を蓄えることができ、脳が麻痺しない形で筋肉を動かせるような調整ができるそうです。

“長距離ランナーの孤独”とはよく言いますが、僕もたまに走ったりしますけど、走り終わったあとに得られる快感というのは、真っ白になるような喜びに包まれているような状態なんだそうです。

僕は本物の走り手ではないのでよくわかりませんが、長距離を走り切ったあとは何にも変え難い喜び、あるいは快感というものがあるそうです。体と脳の関係もあると思いますが、駅伝をやっている友だちは、「走り終わったときには白米をお腹いっぱい食べたくなる。それを食べるともう一度走りたくなるんだ」と言います。そんな過酷だけど、走り終わったあとに快感を覚える「エキデン」。ぜひ、国際語として今後も残していただきたいものですね。
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画像素材:PIXTA

箱根から江戸城にお湯を運んでいた歴史

山口さんいわく、江戸時代にも駅伝のようなものが行われていたそうだ。

山口:箱根・熱海から温泉を小走りで運ばせていた献上湯のお話しをしようと思います。我われは行こうと思えば、今はどこへでも温泉に行くことができます。ただ、江戸時代に将軍と呼ばれた人たちは「ちょっと温泉に行ってくるから」とは言えない環境でした。

ただ湯治という意味でも温泉につかることはとても大事だと言われていました。お湯を献上することを「献上湯」と言うんですけど、当時、大きな樽に源泉から出たお湯を入れて江戸城まで運んでいたそうです。

1日入ったところで湯治は意味がありません。江戸時代の将軍は、14日間続けて湯治を行っていたそうです。温泉のお湯は箱根か熱海かの2か所と決まっていました。距離的にはあまり変わりありません。富士山から湧いているお湯ですね。

源泉の湯の温度は90度あったそうだ。これを8人がかりで運んでいたという。

山口:江戸城に到着するには小走りで向かっても、15時間かかるそうですけど、90度のお湯が15時間ほど樽のなかで揺らされて、ちょうど着いた頃に45度になっているそうです。

「嘘じゃないか?」と思う方もいると思いますが、学者の研究によって、本当だということがわかっています。2樽で合計340リットルを持っていくと、水で薄めず45度くらいの温度で手足を伸ばして、首までつかれるくらいになるのだそうです。

毎年、秋の10月になると14日間毎日、熱海の人、あるいは箱根の人が江戸城にお湯を運んでいくという。

山口:1644年から1706年まで、徳川三代将軍の家光から5代将軍・綱吉の頃まで「献上湯を2週間毎日運んでいた」という記録が残っているんです。

それにしても8人がかりで14日間、リレー形式でお湯を運ぶなんて、屈強な男の人たち……まさに駅伝と同じですね。ずっと運んでいたら体力も消耗して、お腹が空くんじゃないかなと思うんですが、そんなときは温泉卵を食べていたそうです。「温泉卵を同時に持って行った」と記録のなかに書いてあったそうです。

箱根大涌谷の黒たまごなど、箱根は温泉卵も名物として知られている。
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画像素材:PIXTA

山口:温泉卵っておいしいですよね。温泉のミネラル分がなかに染み込んだ感じがするからでしょうか。普通のゆで卵とは違うありがたさみたいなものを感じます。僕が一番好きなのは、長崎県の雲仙の温泉地獄で作られた温泉卵。硫黄の匂いがすっごく染み込んでるんです。食べるだけで頭のなかがポワーンとしてきます。

でも温泉ってそんな風な“ポワーン”とできる魅力がありますよね。温泉ってありがたいと思いますし、お腹が空いたらぜひ温泉卵を。おいしいですよ。

ジョンレノンが滞在した箱根のホテル

山口さんは箱根の歴史あるクラシックホテルを訪れたそうだ。

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山口:箱根にある「富士屋ホテル」のメインダイニングルームは「ザ・フジヤ」という名前です。1878年に富士屋ホテルが創業されるにあたり、創業者の山口仙之助さんはフランス料理をベースにしながら「富士屋ホテルの味をここで提供できるように」、ザ・フジヤを作ったと言われています。どこでも食べられるようなありきたりなフレンチのコースではなく、富士屋ホテルの味を今でもいただくことができます。

例えば「玉子入りトマトグラタンスープ」。レシピを紹介しましょう。ベシャメルソースのもとになるルーブランというものがありますが、中火でバターを溶かして、小さな泡が出てきたら火を止めて、薄力粉を加えて木べらでかき混ぜると、3〜4分くらいでトロミが出てきます。ここにトマトピューレを入れて、水分を飛ばすくらいまで煮込みます。

そしてブイヨンを沸騰させてなかに入れます。20分くらい弱火で温めるんですけど、この間に食パンにチーズを乗せてキツネ色になるくらいまで焼いておきます。それらを耐熱の器に入れまして、トマトピューレを入れたものを流し込みます。

生卵を割って入れて今度はオーブンに入れます。卵が半熟になるくらいで火を止めます。こんな風にひとりひとりのために作る玉子入りトマトグラタンスープ。これは大まかなレシピですけど、もちろんトマトソースの味とか、ピューレを作る秘密は教えてくれません。ただ食べると100年くらい変わっていない「ザ・フジヤ」の味だということが伝わってきます。

富士屋ホテルには「ザ・フジヤ」だけでなく洋食レストラン「カスケード」もある。

山口:カスケードはフランス語で「滝」という意味ですけど、カスケードに行くと、天井に鳩の彫刻がいっぱい飾ってあります。1920年、国際連盟が作られたときに作られたのがカスケードですが、その当時の国際連盟の加盟国の数に合わせた木彫りの鳩なんだそうです。そのなかに1羽だけ赤い目の鳩がいました。

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真っ白い鳩は平和を意味しますが、赤目は日本を現しているんです。そういう世界の平和を願う意味が込められたものが、富士屋ホテルにあるんです。

1932年には映画俳優のチャールズ・チャップリン、1937年には作家のヘレン・ケラーも富士屋ホテルを訪れている。1978年にはジョンレノン一家が長く滞在していたり、各国の要人がこのホテルの時間を楽しんだ。

山口:そんな歴史ある富士屋ホテルにはクックブックもずっと残っていて、そのなかでは玉子入りトマトグラタンスープなどのレシピを見ることができます。そして富士屋ホテルが提供しているもので、ほかではなかなか味わえないおいしいもののひとつが「食パン」です。箱根の天然水が“食パンのおいしさの秘密”と言われていますが、この食パンを使った「ツナステーキサンド」「クラブハウスサンド」はたまらなくおいしいそうです。

富士屋ホテルの料理長・北村雅之さんのモットーは「記録より記憶に残る料理」。時代が変わっても“あのとき、誰とあれを食べたな”と思い浮かべることができる料理ということですね。それが富士屋ホテルが提供するお料理なのかもしれません。

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東京からも近い箱根。箱根に行ったら、おいしいお店がたくさんありますけど、国道1号線を開拓して作られたクラシックホテル「富士屋ホテル」、ぜひ一度足を運んでみてください。温故知新といいますか100年、150年のタイムスパンで歴史を見るような目を、このホテルで養ってほしいと思います。

(構成=中山洋平)

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