団地の「若返り」に貢献 無印のリノベが、若年層にウケている納得の理由

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2024年10月06日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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「無印の団地」の狙いに迫る

 無印良品が、都市再生機構(UR都市機構)と共同で「MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト」を進めているのをご存じだろうか。住戸をリノベーションし、賃貸物件として供給する同プロジェクトは2012年に始まり、現在では1200戸以上を供給している。随所に無印らしさを表現するリノベーション物件は40代以下の若年層に人気だという。


【画像】すごく無印良品っぽい! リノベーションした室内を見る(10枚)


 果たしてどのような目的で、団地という一見「古臭い」テーマに取り組んだのか。無印良品の住宅事業を担うMUJI HOUSE社(東京都文京区)に取材した。


●団地の魅力に目を向けて、プロジェクトが進んだ


 MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクトは、UR都市機構と無印良品のMUJI HOUSEによる共同事業として2012年に始まった。UR都市機構が保有する団地の賃貸物件をリノベーションして貸し出すプロジェクトだが、物件の設計とPRはMUJI HOUSEが手掛ける。


 関西の3団地からスタートし、翌年には関東に進出。現在では61団地で約1200戸を供給している。地域は北海道から九州まで全国にわたり、関東では高島平団地や洋光台団地などでリノベーションを行っている。担当者によると1団地当たり数十戸程度を担っているという。プロジェクトのきっかけをMUJI HOUSEに聞くと、次のような回答があった。


 「UR都市機構では高齢化が進む団地の活性化を模索していました。一方、無印側は公園があり、日当たりにも優れるという団地の良さに注目していました。少し手を加えるだけで活性化できると考え、プロジェクトのスタートに至った次第です」


 1960〜70年代に開発が進んだ大規模団地は、老朽化が課題ではあるが住民が多く、全面的な建て替えは難しい。一方で敷地内に公園があり、建物同士のスペースが確保されているなどその環境の良さが再認識されつつある。


 今回、千葉市花見川区にある花見川団地を取材した。1968年に入居を開始した同団地は賃貸5742戸、分譲1530戸からなる巨大団地である。最寄りの京成線・八千代台駅からはバスで約10分、徒歩30分程度の距離に位置する。なお、八千代台駅から上野駅までのアクセスは45分前後、東京駅までは50分前後である。


 プロジェクトでは、花見川団地の36戸を賃貸物件として供給。モデルルームを内見した印象は「無印らしい」の一言に尽きる。白壁に床は茶色のフローリングと麻畳で構成し、色合いは店舗で見かける無印良品の家具に近い。


 「リノベーションでは無印良品で販売する家具の色や素材に合わせて違和感のないように設計しており、無印らしさを意識しています。また『壊す』のではなく、使えるものは残すことを基本にしているのも特徴です。天井や壁などの構造はほとんど変えず、キッチンやトイレなどの水回りを新しくしています」(MUJI HOUSE担当者)


 モデルルームの壁は、従来のものから白に塗装し直した。柱・鴨居も以前のものをそのまま活用している。ふすまはダンボール製のものや樹脂製の半透明のものに置き換えた。明かりが見える半透明のふすまは圧迫感を抑える効果があるという。


 床は合板フローリングや麻畳に更新。室内の随所に置いた無印良品の家具は確かに部屋にマッチしている。賃貸物件に家具は付かないが、インテリアアドバイザーによる相談は受け付けているという。


●変えたところと、変えなかったところ


 団地の物件は天井が低く、収納スペースが不十分なため、狭くなりがちだ。リノベーションでは狭さを解消する工夫が随所に見られる。


 キッチンは脚のない「持出しキッチン」とし、ゴミ箱や食器棚などを収納できるスペースを確保した。脚のない構造は真新しい印象を与える。モデルルームではキッチンを従前より短くした分、新たに洗濯機を設置できる空間を残している。


 押入は基本的に以前の場所から変更していないが、モデルルームではそのうち1つを打ち抜き、部屋同士を行き来できるようにしている。完全にスケルトンにするのではなく、残せる部分はできるだけ活用しながらリノベーションしていることが分かる。コストを抑えられるメリットもあるのだろう。


 なお、技術的に更新が難しい浴室はメタル水栓などの導入にとどめている。また、リノベーション物件は団地内の一部の部屋に限られるため、同プロジェクトを通じて建物外観の更新は行っていない。


●40代以下の住人が大半 団地の「若返り」に成功


 こうしたリノベーション物件は若年層を呼び込み、団地の活性化に貢献しているようだ。MUJI HOUSEの担当者は次のように話す。


 「リノベーション物件では入居者の75%が、子育て世帯を含む40代以下の方々です。加えて、1200戸ある物件のほとんどが入居済みとなっています。無印のデザインが支持を受けており、古いものを生かす考え方が共感を生んでいるようです。団地特有の日当たりや風通しの良さを評価する意見もよくお聞きします」


 花見川団地や東京都の高島平団地などは、高齢化率がおよそ45%とされる。構造の古さから、団地を住まいの選択肢から外す若年層も少なくない。そうした中で7割以上が40代以下という点は「若返り」に成功しているといえ、驚かされる。無印のブランド力も影響しているのだろう。


 同プロジェクトでは、花見川団地商店街のリノベーションも行っている。以前の建物を残しつつ再塗装し、住棟番号の表示も新たなものに取り替えた。共用部には高木とストリートファニチャーを設置している。団地の商店街は古さが否めないのが通常だが、花見川団地商店街はどこか若者の街のような雰囲気を受けた。


●企業コラボは、団地の生き残りに重要


 同プロジェクトについて、MUJI HOUSEは空室が少なく需要が大きいことから、今後も物件数を伸ばす方針だという。具体的な数値目標はないが、既に手がける団地内で戸数を増やすほか、これまでよりも比較的新しい団地への進出を模索する。


 これら物件の人気は、無印良品のブランド力やPR力に起因すると考えられる。一定のファンを抱える企業とのコラボは有用だ。こうした点を理解しているのだろう、UR都市機構は賃貸住宅に関してイケアとのコラボも行っている。


 高齢化や老朽化が問題視される団地だが、リノベーションすれば活用できる物件もある。また、地価や物件価格、賃貸家賃が上昇する都市部において、団地は重要な住宅供給機能を果たしている。若年のファミリー層や外国人労働者の住居となっている団地は意外に多く、UR都市機構と企業のコラボは、団地が抱える課題を解決する一つの正解例といえるだろう。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



このニュースに関するつぶやき

  • 「星型住宅(テトラポッドみたいな)の団地」……最近見なくなりましたね�Ԥ��Ԥ��ʿ�������(´・ω・`)�Ԥ��Ԥ��ʿ�������
    • イイネ!2
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