バルセロナで絶好調のラフィーニャが拓いた新境地 「第二トップ下」とは?

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2024年10月07日 07:30  webスポルティーバ

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西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第17回 ラフィーニャ

日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。今回は、バルセロナで今季新境地を拓いたラフィーニャに注目。ウイングでありながらトップ下のプレーもする、新しいプレースタイルを深掘りします。

【今季は"第二トップ下"】

 ラ・リーガ9試合で5ゴール4アシスト、8月のリーガ月間MVPにも選出されたラフィーニャが絶好調だ。

 昨季までは右ウイングでプレーしていたが、ハンジ・フリック新監督の下では左ウイングにスイッチ。ただ、ウイングというより第二トップ下とも言うべきプレースタイルで新境地を拓いている。

 今季のバルセロナの特徴として、中央のオーバーロード(過負荷)がある。センターフォワード(CF)のロベルト・レバンドフスキ、トップ下のダニ・オルモだけでなく、左ウイングのラフィーニャも中央へ移動。さらに2ボランチのひとり(主にペドリ)も加わる。

 4人も集結してしまうと互いにスペースを潰し合ってしまうのではないかと思うかもしれないが、そこは伝統の高い技術を駆使したパスワークがある。素早いパスワークでプレスを外すと、相手ディフェンスラインがフリーズする。最終ラインの前で瞬間的にせよフリーになる選手がいるので、ラインを上げることもできず固まってしまうのだ。

 そのフリーズしたラインの裏を攻略、または相手が中央に寄ってきたら空いたサイドへ展開する。右はラミン・ヤマルが張っていて、さらに右サイドバック(SB)のジュール・クンデも加勢。左は左SBが幅をとっているが、サイドアタックは右が強力だ。

 中央への人数投入はフリック監督の新機軸ではあるが、バルセロナの伝統とも合致している。リオネル・メッシ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケツの4人によるパスワーク、中央突破は黄金時代の象徴だった。

 温故知新の新戦術では、トップ下でプレーできる選手がふたりないし3人必要なのだが、第二トップ下としてのラフィーニャの存在が決定的だった。

【サイドからの中央へのコンバートは出世コース】

 ウイングから中央へのコンバートは昔から成功例は多く、古くはリーベルプレート(アルゼンチン)の右ウイングだったアルフレッド・ディ・ステファノ(1950年代に活躍)がレアル・マドリードでは「偽9番」としてスーパースターに上り詰めているし、マンチェスター・ユナイテッドとイングランド代表のプレーメーカーとして名を馳せたボビー・チャールトン(1960年代に活躍)も元ウイングだった。

 クリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシ、ネイマール、ベルナルド・シウバ、コール・パーマー、フィル・フォーデンなど、サイドアタッカーがCFや攻撃的MFとして大成するパターンはスーパースターへの出世コースなのかもしれない。

 10代でプロデビューする逸材は、最初はウイングで起用されがちである。サイドの1対1で、持ち前の技術とスピードを気兼ねなく発揮させようという狙いだろう。やがてゴールゲッターやプレーメーカーとしての才能が目立つようになった段階で、中央のポジションへ移される。

 ただ、優れたウイングが、必ずしも優れたゴールゲッターやプレーメーカーに変身できるわけではない。

 タッチラインを背にできるウイングは基本的に背後を気にしなくていい。180度の視野でプレーすればよく、スペースもある。一方、中央のポジションとなれば前後左右から敵が来るし、スペースも時間も限られる。判断とプレー選択の点ではサイドと中央はかなり違いがあり、サイドでいい選手でも中央に適性があるとは限らず、むしろ違う能力を要求される。

 プレシーズンマッチでラフィーニャが4−2−3−1のトップ下で起用された時は、ダニ・オルモが来るまで(※8月9日に契約)の「代役」ではないかとも思った。ところが、ラフィーニャはすぐに中央での適性を示していた。

 狭いスペースでもワンタッチで前を向ける。相手を背負っても受けられる。素早くボールをリリースして周囲を活かす。さらに前線へ飛び出してゴールを奪い、決定的なパスも供給する。守備時の切り替えの速さ、献身的な姿勢もフリック監督の構想に合っていた。

【新境地のポジション・役割で万事収まる】

 ラフィーニャのトップ下適性が確認されると、ダニ・オルモがフィットした段階で左ウイングに起用されるようになった。第二トップ下だ。

 これはフリック監督の戦術の重要な役割であるだけでなく、選手の組み合わせにおけるラストピースにもなった。もし、ラフィーニャが従来の右ウイングしか適性がなかったら、ヤマルかラフィーニャかの選択をするしかなかったからだ。ふたりの共存という意味でも、好都合なコンバートだったと言える。

 左サイドから高速のクロスボールでレバンドフスキにチャンスを与え、中央ではダニ・オルモやペドリと連係。空いたスペースを見つけて間髪入れずに走り込むセンスも、縦への攻め込みを重視する新監督の戦術にフィットしている。

 ブラジルのポルト・アレグレの出身だが、ユース年代のトーナメントでデコに見いだされ、ポルトガルのヴィトーリア・ギマランイスでプロデビューしている。デコはブラジル人だがポルトガルに渡って成功し、その後バルセロナでもプレー。ポルトガル代表の10番も背負った名手だった。

 言語が同じということもあり、ブラジルの若手選手にとってポルトガルリーグは登竜門的な位置づけになっている。ラフィーニャも名門スポルティングを経て、レンヌ(フランス)、リーズ(イングランド)、バルセロナ(スペイン)とステップアップしていった。

 バルセロナでは左利きの右ウイングとして主力としてプレーしていたが、ヤマルの台頭もあって今季はポジション確保が危ぶまれていた。そのタイミングで新境地を拓いたのは本人にとっても大きかっただろう。

 バルセロナ1年目はリーグ7得点、2年目は6得点、3年目の今季はすでに5ゴール。早々に自身の最多得点を塗り替えるのは確実で、このペースなら20ゴールを超える。

 ネイマールが長期欠場中のブラジル代表にとっても、新しく生まれ変わったラフィーニャは朗報に違いない。

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