クレジットカード会社と通信大手による新たなポイント経済圏競争が、大手コンビニチェーンを巻き込む形で激化している。三井住友カードは10月15日から、セブン-イレブン・ジャパンと提携し、スマホのタッチ決済で最大10%のポイント還元を開始する。一方、KDDIは同月2日、ローソンとの連携を強化した「Pontaパス」を立ち上げ、週替わりの割引クーポンなど多彩な特典を提供して対抗する。
両陣営とも、スマートフォンを活用した決済とポイント還元に注力しており、コンビニ業界が異業種間競争の主戦場となっている。セブン-イレブンの約2万1000店舗、ローソンの約1万4600店舗という巨大な店舗網を舞台に、カード会社や通信事業者が顧客の囲い込みを図る構図だ。
消費者にとっては還元率の向上や特典の充実という恩恵が期待できる一方、各社は膨大な個人の購買データを獲得できる。今回の提携強化によって、両陣営が描く戦略とは何か。
●セブン、Vポイント採用で業界地図に変化
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三井住友カードは10月15日から、セブン-イレブン・ジャパンと提携し、スマホによるタッチ決済で最大10%のポイント還元を始める。これは単なる高還元サービスの開始にとどまらず、業界の勢力図を塗り替える可能性を秘めている。
これまでセブンは、独自のポイントシステムであるセブンマイルを採用し、共通ポイントへの対応を避けてきた。一方、ライバルのローソンはPonta、ファミリーマートは楽天ポイントやdポイント、Vポイントと提携するなど、大手共通ポイントを積極的に導入してきた。
今回の提携により、セブンの顧客は実質的にVポイントをためる手段を得ることになる。利用者はセブン-イレブンアプリの会員コードを提示し、三井住友カードのスマホタッチ決済で支払いを行うと、9.5%のVポイントが付与される。さらに、セブンマイルをVポイントに交換することで、還元率が最大10%となる。
三井住友カードの大西幸彦社長は「スマホのタッチ決済の便利さを実感いただくことで、さらに利用が広がると期待している」と話す。同社によると、セブンでの三井住友カードによる決済の約5割がすでにスマホのタッチ決済だという。
この高還元率サービスには期間の定めがない。三井住友カードのマーケティング本部長、佐々木丈也専務執行役員は「一時的なキャンペーンということではなく、両社の中長期的なキャンペーンとして実施するもの」と説明する。
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今回の提携は、セブンの戦略に大きな転換をもたらす。これまで独自路線を貫いてきた同社が、大手共通ポイントとの連携に踏み切ったことで、コンビニ業界におけるポイントサービスの勢力図が大きく変わる可能性がある。
セブンとVポイントの連携は、両社にとって大きなメリットがある。セブンは全国約2万1000店舗の巨大な店舗網を持ち、Vポイントは国内約8600万人の会員を抱える。この組み合わせにより、両社は顧客基盤の拡大と購買データの獲得を見込めることになる。
●KDDIがPontaパスで先行、auブランドからの脱却も
コンビニと連携してポイント経済圏を広げようとする動きは、実はローソンに出資したKDDIのほうが先行している。KDDIは10月2日、従来の「auスマートパス」を刷新し、「Pontaパス」としてサービスを開始した。
Pontaパスは、月額548円で提供される有料会員サービスだ。ローソンで使える週替わりクーポンを提供し、毎月600円相当以上のクーポンが利用可能となる。さらに、au PAY(コード支払い)利用時のPontaポイント還元率を上乗せするなど、ローソンとの連携を強化している。
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KDDIパーソナル事業本部の繁田光平氏は「最低でも3000円以上のお得が返ってくる」と強調する。ローソンのマーケティング責任者、勝田暁氏も「人気商品や定番商品、季節商品などを展開する。からあげクンだけでも月間3個の無料クーポンを提供する」と意気込む。
注目すべきは、KDDIがこのサービスで「au」ブランドを外し、「Ponta」ブランドを前面に打ち出した点だ。KDDIの繁田氏は囲み取材で、この戦略について次のように説明した。「auという形になると、どうしてもその対象が限られるように思われてしまう。まずは、ローソンに行きやすい、使いやすいサービス名にしたかった」
これは、KDDIが通信キャリアの枠を越えて、より広範な顧客層の獲得を目指していることを示している。Pontaは約1.2億のID数を持つ共通ポイントサービスであり、auユーザー以外にもアプローチできる利点がある。繁田氏は、キャリアを問わず普及させることを目指していると強調した。
●KDDIとローソンの戦略
この動きは、KDDIとローソンが2月に締結した資本業務提携の一環でもある。両社は「リアル×デジタル×グリーン」を融合させた新たな生活者価値の創出を目指しており、Pontaパスはその具体的な施策の一つと位置付けられる。
KDDIとローソンの戦略は、高還元率を全面に打ち出す三井住友カードとセブンの戦略とは方向が異なる。繁田氏は「高還元率は目指していない。基本的な特典は用意するが、それ以上に商品開発などに力を入れている。われわれはこの部分により重点を置いている」とした。
さらに、KDDIは「povo」ブランドでもローソンとの連携を強化する手を打っている。年内に「povo Data Oasis」としてローソン店頭でのデータ容量チャージサービスを開始する予定だ。ローソンに訪れるだけで、1回当たり100MBの通信料がもらえる仕組み。これにより、KDDIはauブランド、Pontaブランド、povoブランドの3軸で、幅広い顧客層の取り込みを目指している。
繁田氏は長期的な顧客獲得戦略について、「まずはローソンの店舗への来店を促進し、お客さまだけでなく加盟店オーナーにもPontaパスの価値を実感してもらうことが重要だ。そうすることで、オーナー自身がPontaパスを推奨するような流れを作りたい」と述べた。
●ポイント経済圏の拡大と各社の思惑
今回のコンビニ業界を舞台としたポイントサービス競争の激化は、通信、金融の垣根を越え、小売りが経済圏の重要なピースになってきたことを示唆している。KDDIとローソン、三井住友カードとセブンという異業種連携の加速は、単なるポイント還元の域を越えた意味を持つだろう。
最後に、今回の発表で興味深かった点を3つほど挙げておきたい。
1つは三井住友カードとセブンの10%還元は上限ではないということだ。三井住友カードはセブンなどの特約店において、タッチ決済での7%還元に加え、家族を登録すると+5%、Oliveの各サービスを利用することでさらに+8%の合計20%まで還元率が拡大していた。
今回、タッチ決済での還元率が10%に引き上げられるが、家族登録やOliveによる上乗せも有効。ただし合計は最大20%還元までだという。
2つ目は三井住友カードによるプラスチックカードの還元率引き下げだ。同社は2025年1月から、プラスチックカードのタッチ決済の還元率を5%から1.5%に引き下げる一方で、スマホによる決済の還元率を高く維持する。佐々木氏は「プラスチックカードを持ち歩くわけでもなく、スマホでタッチする時代になってきている」と話す。
スマホのタッチ決済は生体認証による本人確認が行えるため、認証なしで使えてしまうプラスチックカードのタッチ決済に比べてセキュリティが高い。クレジットカードの不正利用は年々増加しており、その対策の一つと考えられる。
3つ目は、セブンのVポイント採用の裏側だ。三井住友カードは裏側でVポイントとセブンマイルのIDを連携させているため、システム的にはタッチ決済だけでセブンマイルをためられる環境にある。しかし、実際の運用では顧客が店頭でセブン-イレブンアプリを開き、バーコードを提示する必要がある。
この方式には2つの狙いがあると考えられる。1つは、セブン-イレブンアプリへの接触機会を確保し、クーポンなどの販促を行う余地を残すこと。もう1つは、直接Vポイントがたまる形式ではなく、いったんセブンマイルをためてVポイントに変換する仕組みを採用することで、セブンが完全にVポイント陣営に属することへのためらいを示している可能性だ。
これは、セブンが長年守ってきた独自路線と、共通ポイント採用による顧客利便性向上の狭間で揺れる姿とも解釈できる。同社が今後、Vポイントとの関係をどこまで深めていくかは、業界全体の勢力図に大きな影響を与える可能性がある。
(斎藤健二、金融・Fintechジャーナリスト)
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