【連載】有村智恵のCHIE TALK(第10回・後編)
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有村智恵がヤマハとクラブ契約を結んだのは2017年。そこから長年に渡り、有村プロのクラブをフィッターとして支えているのが、ヤマハRMXブランドディレクターの梶山駿吾氏だ。前編に続き、トッププロを支えるクラブフィッターの役割を深堀していく。
>>前編を読む
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【生粋のフェードヒッターと歩んできたヤマハ】
有村 ヤマハさんのクラブで、好みの音に「出会えたな」と思って契約させていただいたのですが、あともうひとつ、ヤマハさんはもともと藤田寛之さんと谷口徹さんという"生粋のフェードヒッター"が契約されていた会社だった。私もフェードヒッターとして、昨今のちょっと捕まりが良くて飛ぶドライバーが主流の時代に、フェードヒッターが好むクラブを探すのは簡単ではなかったんです。ヤマハさんはそういったフェードヒッターの意見をずっと聞いている人たちだから、すんなり「じゃあこうしてみようか」というアイデアが出てきて。藤田さん、契約されてもう何年ですか?
梶山 藤田さんは30年くらいですね。なので、契約選手を探す時も、この選手いいなってなっても「ドローヒッターか〜!」と思うこともあります。
有村 女子プロはもともとドローヒッターの方が多かったから。
梶山 (ドローヒッター、フェードヒッターの)どちらも大変ではあるんだけど、感覚的に、ニュアンスが伝わって、言っていることが理解しやすいのは、やっぱりフェードヒッターの方が多い。
有村 それは本当に藤田さんのおかげですよね。私も本当にあやかっています。あやからせていただいております。
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【有村プロのアイアンには苦労している】
――有村プロから梶山さんに聞いてみたいことはありますか?
有村 今までで一番大変だった私からの要望と、他の選手からの要望で、「これ大変だったな」というのはありますか?
梶山 有村プロで大変だったことって結構あって、一番は難しい(笑)。有村プロは、感覚に間違いがないから大変なんですよ。
例えば、単純にゴルフクラブって言っても14本あって、有村プロも(ヤマハのクラブを)10何本かな?使っているけど、それぞれの感覚、打った時のフィーリングを揃えなきゃいけない。アイアンも7番を打って「いいです」と言っても、よくあったのが、「6番がうまくいかない」とか「ピッチングが」とか。
有村 うんうん、あった。確かに。
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梶山 アイアンセットを渡せばいい、っていうプロもいるんだけど、(有村プロは)一番手一番手の感覚で言うから、アイアンセットで渡しているというよりは、ドライバーを一本、6番アイアンを一本、7番アイアンを一本みたいな、一本ずつ作っている感覚になるんです。ちょっとマニアックな話になるんですけど、アイアンの形状もロフトを曲げたりすると多少見え方も変わるので、その見え方、アイアンの顔を揃えるのには結構神経質になります。アイアンで苦労しているかな、有村プロには。
有村 アイアンは私の生命線だから、そうかもしれません。
梶山 それこそ今日(撮影現場に)ありますけどね。あなた専用に作ったアイアンセットが。
有村 そうですね。プロトタイプを作っていただいて。
梶山 とにかく有村プロ好みに作った、形状もウチの商品にはない形状です。顔の形にもいろいろあって、大事なのは、構えた時にどう見えるか、この歯の部分をいかにフェードが打ちやすい形にするか。
有村プロ自身が言ったわけじゃないんだけど、フェードを打っていくにはここを削らないと、とか、ここに丸みがあると(フェードを)打ちにくい、みたいな感覚があって。有村プロのクラブの場合、リーディングエッジはかなりまっすぐ。通常はちょっとカーブして逃げる顔をしているんだけど、ここはまっすぐでここ(先)から逃がす。フェーダーなので、左に引っかかるイメージは嫌だけど、リーディングエッジから丸いとフェードが打ちにくい、とか。
有村 打ちにくい!
梶山 というのがあるので、そういう細かなことを全部形にしたのがこのアイアンです。
有村 大事にします(笑)。
【あなたは特徴的なんですよ】
――有村プロは、他にリクエストした内容を覚えています?
有村 もうね、記憶がない(笑)。何を言ってきたかの記憶はないんですけど、確かに「アイアンが新しく出る」と言われて、打ってみて「このまま行けます」と言った記憶はないです(笑)。
梶山 アイアンではないね。
有村 だいたい、「ちょっとドローが出やすそう」という感想を言っていた気がします。そんな苦労をさせていたなんて......。
梶山 ウチに限らず、各社のアイアンの基本的な形状は、有村プロからするとちょっとドローが出やすそうに見えるはずです。あそこのメーカーのアイアンはドローが出やすそう、とかいうことではなく、有村プロの感覚的に、もっともっとフェードが出やすい形状じゃないと嫌だ、ということなんですよね。平たく言うと、あなたは特徴的なんですよ(笑)。
有村 平たく言われた(笑)。
たしかに、すくいやすい、拾いやすいアイアンって、ドローが出そうに感じるんです、私は。
梶山さんが言ったみたいに、リーディングエッジをちょっと削って、できるだけまっすぐにすると、どうしても拾いやすさは軽減されます。でも、ちょっと調子が悪かった時に、その形状で拾いやすいクラブが欲しいと言っていたこともあったくらいなので、大変だっただろうな。
――有村プロ用のモデルは、アマチュアが使いこなすには難しいんですか?
梶山 極端に難しくはならないんですけど、この刃の部分の話だけをすると、有村プロが言っていた通り、ここを平らにしちゃうと球の拾いは悪くなる。そういった意味でちょっと難しく感じる方もいるかもしれません。
我々メーカーも、プロに合わせたクラブだけを作らなければいけない、というわけではなく、(プロから)そういうフィードバックをもらいながら、(有村プロ用のような)こういうモデルが出来上がってくると、先々のモデルに反映させられるので、物は良くなっていくんですよね。現に、有村プロと契約してからもう7年経ちますけど、クラブの進化はかなり進んでいるので、お互い持ちつ持たれつだとは思っています。だから、たくさんわがまま言ってくれればいい(笑)。
有村 これからもたくさんわがままが出ると思うし、(これまでと)真逆のクラブって言うかもしれないですよね。
梶山 ここからは特にそうだと思う。
有村 だって今の話だと、拾いやすさの方が(今は)大事。
梶山 お子さんが生まれて体も変わっているし、これだけ長期間ツアーから離れていることは今までないので、おそらく、クラブは一から作り直しになるとは思います。
有村 私も今、まったくわかってないんですよ。今の自分にどういうクラブが合うかもわからないし。今まではすべてをゴルフに費やして、時間も費やして、体もしっかり作った状態のスイングで打っていたクラブだから、それができなくなった時に、どういうクラブを選んだらいいのかは、逆に私が教えてもらうじゃないけど、提案してもらいたいですね。
今はクラブの進化が進んでいて、私たちがクラブに合わせていかなきゃいけなくなってきているんですよね。昔、梶山さんともよく話していたんですけど、これからは、自分に合わせたクラブを作るというよりは、自分たちがクラブに寄っていく方向に切り替えていかないといけない。寄りすぎる必要はないんだけど、ちょっとでもそういう気持ちがないと、打てるクラブがなくなってしまうので、それに関してはクラブメーカーさんの知見をたくさんいただいて、こちら側が勉強させてもらわないと。
そういった意味では、(プロから)フィードバックをもらっているっておっしゃっていましたけど、私たちもたくさん教えてもらっていますから。それを、スイング、体の使い方、トレーニングに反映させている部分がたくさんあります。
(つづく)
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【Profile】有村智恵(ありむら・ちえ)
1987年11月22日生まれ。プロゴルファー。熊本県出身。
10歳からゴルフを始め、九州学院中2年時に日本ジュニア12〜14歳の部優勝。3年時に全国中学校選手権を制した。宮城・東北高で東北女子アマ選手権や東北ジュニア選手権、全国高校選手権団体戦などで優勝。2006年のプロテストでトップ合格。2007年は賞金ランク13位で初シードを獲得した。2008年6月のプロミスレディスでツアー初優勝。2013年からは米女子ツアーに主戦場を移した。2016年4月の熊本地震を機に日本ツアーへ復帰。2018年7月のサマンサタバサレディースで6年ぶりの優勝を果たすなど、JLPGAツアー通算14勝(公式戦1勝)をあげる。
2022年に30歳以上の女子プロのためのツアー外競技「LADY GO CUP」も発足させた。
2022年11月に、妊活に専念するためツアー出場の一時休養を表明。2024年4月に双子の男の子を出産した。