地域の魅力を発掘する「ローカルディグ構想」とは? NoMaps2024で見つけた新たな地域共創のカタチ

0

2024年10月09日 11:01  マイナビニュース

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
「テック・エンタメ・クリエイティブで世界をめっちゃ面白くする複合型フェスティバル」として、北海道・札幌を舞台に2016年からスタートしたNoMaps。今年は9月11〜15日の5日間、札幌市内を中心に20カ所以上の会場で開催されました。



CONFERENCE、EDU(教育)、SPORTS、WELLNESS、GLOBALなど14のカテゴリで展開されたコンテンツは、連携事業を含め200以上!


その中からSOCIAL(社会課題)分野の「新たな地域共創のカタチ、ローカルディグ構想〜地域の魅力の発掘・再発見〜」のセッションの模様をレポートします。

「ローカルディグ」ってなんだ?



札幌市民交流プラザで開催されたセッションのテーマは「新たな地域共創のカタチ、ローカルディグ構想」。入場無料の会場には地域おこしや地域づくりに興味を持つオーディエンスが集まりました。



ステージの登壇者は3人。まずモデレーターの田中健人さん(NTT東日本 地域循環型ミライ研究所)がプロジェクトの概要を説明します。



田中: NTT東日本の地域循環型ミライ研究所は、昨年2月に立ち上がった新しい組織です。地域の魅力や資源を活用した新しい地域活性のモデルを構築するために、全国各地で複数のプロジェクトを進めており、「ローカルディグ構想」はそのひとつとして今年6月にスタートしました。


「DIG」とは「掘る」という意味の英単語。ヒップホップ界ではレコードショップで掘り出し物を探すことを「ディグる」と表現するなど、スラングとして使われており、そこからヒントを得て地域の魅力を発掘する活動を「ローカルディグ」と名づけたそうです。



具体的には「地域の人の記憶や思い出、伝承などを聞き書きするフィールドワークを通して、その土地固有の魅力や物語を発掘・再発見して、地域活性化につなげていく活動」だと、田中さんは説明します。


なんだか面白そうではないですか。がぜん興味が湧いてきます。



続いてマイクを受け取ったのは、共創パートナーの木野哲也さん(ウタウカンパニー代表取締役)。



北海道白老町の飛生(とびう)アートコミュニティー、沖縄の大宜味村を歩いて巡る屋外写真展、札幌のまちなかに巨大なパッチワークの布を広げる大風呂敷プロジェクトなど、写真をスクリーンに次々と映しながら、これまで企画・運営を手掛けてきたプロジェクトをスピーディーに説明しました。



木野: 僕は有形無形の地域の資源とアートを掛けあわせるような仕事をいろんな地域でやってきました。今回、情報通信企業のNTT東日本さんが僕らと同じ現場目線で地域との共創を目指すというので、一緒に取り組んでみようと思いました。


もうひとりのパートナーは阿部千春さん(北海道庁 縄文世界遺産推進室の特別研究員)。今回のローカルディグの舞台となる函館市南茅部地域で、中空土偶の国宝指定に携わり、北海道・北東北の縄文遺跡群のユネスコ世界遺産登録では推進役を果たしました。



阿部: 南茅部は函館の市街地から東へ車で1時間ほど。海岸線に沿って30キロほど細長く続くエリアに、約90カ所の縄文の遺跡があります。一般的に人々の定住を可能にしたのは農耕と牧畜ですが、縄文文化は漁労などの狩猟採集だけで定住を実現し、それが1万年も続いたところに特徴があります。世界的に注目を集めていますが、その価値や魅力をより広く伝えたいとプロジェクトへの参加を決めました。


地域の魅力を掘り起こすには?



3人の自己紹介がすんだところで本題のトークセッションがスタート。「ローカルディグ」で地域の魅力に向き合う楽しさや面白さについて話し合いました。



木野: 先ほど「地域の資源とアートを掛けあわせる仕事」と言いましたけど、僕は「アート」という言葉は使わないようにしています。どこか高尚なもの、暮らしとは関係のないものと、地元の人に距離を置かれがちだからです。代わりに使うのは「文化」。幅広くてひとことでは言えない概念ですけど、僕は「一人の人が生きて死ぬまで」が文化だと捉えています。それなら、おばあちゃんの残した味とか言葉とか、全部ふくまれるじゃないですか。「アート」と言うと一部の人しか興味を持ってくれないけど、「文化」ならみんなが関われると思っています。



なるほど。高齢化が進み、若い世代が少ない地域でも、多くの人に興味を持ってもらうための言葉選びが大切要なんですね。これは参考になります。



阿部: 縄文文化がなぜ栄えたかというと、豊かな自然環境があったからです。南茅部は目の前が海、背後は山、そして60本近い河川がある。食料も飲み水もすぐそばで手に入る一等地でした。そして縄文の人々は、自分たちの命は動物や植物に支えられたものとして捉えていました。こうした縄文文化の精神性は、ピラミッドや姫路城のようにモノとして目には見えません。だからこそアートの力、プラスそれをプロダクトとして商品化していくデザインの力が大事になるだろうと考えていました。



そうか、アートやデザインには、土地に眠っているカタチのない価値や魅力を、可視化してアピールする力がある。すごく分かりやすくて説得力があります。

一過性ではなく持続性のある活動にするために



ふだんは東京に暮らす田中さんと、地域のプレイヤーである木野さん、阿部さんがタッグを組んで取り組む、南茅部地区のローカルディグ。これから持続的に活動を続けていくにあたっての課題や工夫も話し合われました。


木野: 南茅部の漁師さんの暮らしと縄文文化、どちらも自然の恵みを糧にしているのは同じですけど、地元ではそれほど意識されていないのかもしれません。そこを埋めるには第三者、ストレンジャーの目線も必要なのでは。人から言われて自分の長所に気づくようなことがあると思います。



阿部: 世界遺産の縄文文化を誇りに思う人を地域にいかに増やしていくかが大事だろうと思います。加えて大切なのは、世界遺産を柱にヒト・モノ・カネが回るような仕組みをつくること。地域全体を屋根のない博物館「エコミュージアム」として捉えると、地域住民みんなが学芸員です。参加費をもらって山や海の体験メニューを提供したり、昆布に付加価値をつけて売ったり、地域にお金が落ちる仕組みも考えなくてはいけないと思います。



田中: おふたりの話をまとめられるキーワードになるかどうかは分かりませんが、ストーリーテーラーというか、地域のことを語れる人をいかに増やしていけるか、ということがポイントになるのではないかと思っています。


函館の南茅部エリアを実証地として始まるローカルディグのプロジェクト。地域の人々と信頼関係を構築しながら魅力の発掘を進め、随時「note」などで情報発信をしていく計画だとか。これからの活動がどのような広がりを見せるのか楽しみです。

地域課題の解決に向けたHOPとの協働



セッション終了後、地域循環型ミライ研究所の田中健人さんにお話を聞くと、今回NoMapsへの参加はビジネスプラットフォーム「HOP」の情報提供がきっかけだったそうです。



HOP(Hokkaido Open Platform)は、NTT東日本-北海道、北海道電力、北海道銀行、パーソルホールディングスが2022年10月にスタートした地域応援のためのプラットフォーム。



2023年6月には名称をHOPと定め、NoMapsとも連携し、「事業に役立つ情報やノウハウの共有」、「道内企業・組織・個人によるPRの場の提供」、「共通のテーマで語らい、横のつながりを形成できる場の提供」、「ビジネス上の課題解決のサポート」をミッションとして活動しています。



こうしたプラットフォームの運営も、地域活性化のモデル構築を目指す地域循環型ミライ研究所の取り組みも、その根底を担うのはICT。



住んでいる場所や世代の壁を越えて人々が出会い、つながり、相乗効果を発揮できれば、地図のない未来へ進むための新しい道が見えてくるに違いありません。



井上由美 いのうえ・ゆみ 函館生まれ、札幌在住。広告制作会社のコピーライターを経て2000年からフリーランスのライターに。好きなものはコーヒーとお酒、紙の本、海の匂いと波の音、犬、子ども、お風呂。嫌いなものは戦争と原発と大声。 この著者の記事一覧はこちら(井上由美)

    ニュース設定