メッシのドリブルは「後出しジャンケン」 松井大輔がピッチに仕掛けられた「罠」を徹底解剖

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2024年10月10日 07:30  webスポルティーバ

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【新連載】
松井大輔「稀代のドリブラー完全解剖」
第2回:リオネル・メッシ

「前回紹介した三笘(薫)が理論型ドリブラーだとすれば、メッシは典型的な感覚型。ただ、メッシは何でもできる特別な選手なので、単なるドリブラーではありません。すべてのプレーがセットになっているので、強いて言うなら、メッシのドリブルは『メッシ』と表現したほうがわかりやすいかもしれませんね(笑)」

 開口一番、リオネル・メッシのドリブルについてそう説明してくれたのは、現在横浜FCフットボールアカデミーサッカースクールのコーチとして「対人強化クラス」を担当する元日本代表の松井大輔氏だ。現役時代、自身も感覚型ドリブラーだったと振り返る松井氏の目から見て、メッシのドリブルにはどんな技術が隠されているのか。

   ※   ※   ※   ※   ※

 ありとあらゆるチームタイトルと個人タイトルを手にし、「サッカー史上最高の選手」との呼び声が高いメッシは、37歳になった現在もインテル・マイアミ(MLS)でプレー。アルゼンチン代表としても今年のコパ・アメリカ優勝に貢献するなど、あいかわらず世界中のサッカーファンを魅了している。

 松井氏が言うように、メッシはボールを自由に操り、ドリブル以外にもパス、シュート、トラップなど、すべてが別次元。メッシにしかできないプレーを披露してきたが、そのなかでも少年時代から傑出していたのが、誰も止めることができない「ドリブル」だった。

 かつて名将アーセン・ベンゲルはメッシを「まるで"プレイステーション"のようだ」と表現したが、今回、あらためて松井氏がメッシのドリブルを分析。注目すべきポイントを解説してくれた。

【足を出した時にはもう遅かった...】

「メッシのドリブルがなぜ特別かと言えば、常に体からボールが離れないからです。どんな状況でも正確なタッチでボールを自分のコントロール下に置いていながら、トップスピードになってもそれが乱れない。

 ボールと体を絶妙にシンクロさせながらトップスピードで向かってくると、対峙する相手は自分の間合いも取れないし、ボールを奪いにかかれない。しかも、ボールを奪うために足を出せば、逆を取られてあっという間に置き去りになってしまいます。

 いつもメッシの間合いでボールを運んでいるので、相手からすると『足を出した時にはもう遅かった......』という感覚になってしまうわけです。

 結局、メッシのドリブルは特別なボールテクニックが前提になっていて、まるでボールが体の一部のように自在に操れることが最大のポイントですね。トラップ、パス、シュートなど、すべてのテクニックが秀でているのも、その前提があるからです」

 メッシのドリブルの基盤となっているポイントを挙げたうえで、松井氏が続けたのは、メッシならではのドリブルテクニックだった。

「特にドリブルスピードが上がった時に見て取れるメッシの特徴は、相手の重心がどっちに傾いているのかを見極めながら相手をかわしていることです。それは相手が複数人いる場合も同じで、いつも瞬時に相手の重心を見て、逆をとっている。

 僕自身もそうでしたが、その見極めは何度もドリブル突破を狙うなかで感覚的に習得していくもの。ですが、少年時代のメッシのプレー映像を見ると、もうその段階でそれが身についている。わかりやすく言えば、相手が食いついてきたら、その逆側に抜き去る──という『後出しジャンケン』のようなドリブルです。

 もし相手が食いついてこなければ、食いつかせるようにボールをさらす。ただし、普通はボールをさらす場合、自分と相手のちょうど中間くらいにボールをわざと置くものですが、メッシの場合、いつもボールが自分のコントロール下にあるので、相手にはさらしているように見えても、メッシからするとさらしたつもりもない。

 そこに『罠』があるわけです。

【メッシのようなドリブルを習得するには?】

 それともうひとつ、メッシのドリブルのカギになっているテクニックが、ステップです。

 ドリブルで相手を抜き去る瞬間は、右側に抜く場合は左足、左側に抜く場合は右足のステップが重要になるので、左利きのメッシの場合は、右足のステップがポイントになります。

 一般的には、トントンっと細かく2ステップを踏むのがコツとされています。ですが、メッシのステップは見極められないほど細かくて速いのが特徴で、そこに相手の逆を取り続けられる秘密が隠されています。

 その細かく速いステップをしながら、何度もボールをタッチして、トップスピードでも自分の間合いをキープするので、相手からするとボールを奪う隙が見つけられない。メッシが左利きなので、左を消そうとしても、ワンフェイントを入れられると、どうしても体勢が崩れてしまい、メッシに逆を取られてしまいます。

 さらに、メッシには二手、三手先を読む能力もあって、ドリブル以外にも、パス、シュートという高性能な武器もある。だから、メッシは『誰にも止められない選手』なんです」

 松井氏の解説から判断すると、メッシのドリブルはメッシだけのものなので、誰にも真似はできないと言えるだろう。

 ただ、もしメッシのようなドリブルの習得を目指す場合、何をすればいいのか──。子どもを指導する場合のポイントを、最後に松井氏に聞いてみた。

「もちろん、教えることによって第2のメッシを作ることは難しいと思います。ただ、相手の逆を取る時に大事なボディバランスや細かいステップなどは、たとえばダンスなどをして身につけることも、ひとつの方法だと思います。

 あるいは、ボールを手で持ったままボディフェイントを繰り返し、対峙する相手の重心を傾けてから逆を取る──というトレーニング方法もあります。足でボールを扱うわけではありませんが、子どもたちにメッシになった気分を味わわせることはできると思います。

 もうひとつは、たくさんボールタッチしながら、自分の間合いでドリブルし続けるトレーニングも大事です。たとえば、たくさんボールに触りながら、自分の2メートル範囲内でドリブルし続けてみるのもいいと思います。

 子どもの頃からそういったテクニックを身につければ、メッシになれなくても、メッシのドリブルに近づけるはずです」

(第3回につづく)


【profile】
松井大輔(まつい・だいすけ)
1981年5月11日生まれ、京都府京都市出身。2000年に鹿児島実業高から京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)に加入。その後、ル・マン→サンテティエンヌ→グルノーブル→トム・トムスク→グルノーブル→ディジョン→スラヴィア・ソフィア→レヒア・グダニスク→ジュビロ磐田→オドラ・オポーレ→横浜FC→サイゴンFC→Y.S.C.C.横浜でプレーし、2024年2月に現役引退を発表。現在はFリーグ理事長、横浜FCスクールコーチ、浦和レッズアカデミーロールモデルコーチを務めている。日本代表31試合1得点。2004年アテネ五輪、2010年南アフリカW杯出場。ポジション=MF。身長175cm、体重66kg。

このニュースに関するつぶやき

  • 「後出しジャンケン」はにわかにサッカー業界で流行ってる言葉だと思う。が、前提として「まず仕掛ける」が必要。この例だと→ボールと体を絶妙にシンクロさせながらトップスピードで向かってくる
    • イイネ!2
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