バレーボールリーグの世界最高峰を目指す「SVリーグ」が開幕 大河正明チェアマンが「プロ化」について語った

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2024年10月10日 10:01  webスポルティーバ

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SVリーグ大河正明チェアマン インタビュー前編

 バレーボールの国内リーグ「2024-25 大同生命SV.LEAGUE」が、男子は10月11日に、女子は翌12日にスタートする。リーグとしては1994年から「Vリーグ」、2018年から「V.LEAGUE」と運営方式を変えてきたが、今回は「2030年に世界最高峰のリーグになる」ことを掲げて装いを新たにした。

 今回はその仕掛け人であり、一般社団法人SVリーグチェアマンの大河正明氏にインタビューを実施した。Jリーグの常務理事、Bリーグのチェアマンや日本バスケットボール協会の専務理事・事務総長なども務めた大河氏が考える、リーグに必要だった変化とは。

【全試合が中継されることの意義】

――SVリーグの開幕が迫ってきましたが、今の心境はいかがでしょうか。

「今年の6月末まで、私は大学(びわこ成蹊スポーツ大学)の学長職に就いていたので、そちらを退職してバレーボールに専念したのは7月1日から。『時間がまったく足りないな』と思いつつ、サッカーやバスケットボールのリーグでの経験を発揮したいと取り組んできました。月並みですが、今はほんとうにワクワクしていますし、ドキドキしていますね」

――開幕戦(10月11日 サントリーサンバーズ大阪vs.大阪ブルテオン)はテレビの地上波放送が決まっています。振り返ればBリーグの開幕戦もテレビ中継されて、かなりのインパクトがありました。

「昨今は『若者のテレビ離れ』とよく言われますが、今回の地上波ゴールデンタイム放送は、パートナー企業のみなさまへの訴求において大きな意味を持っています。たとえば、支援に手を挙げていただいている企業の要職の方々に対して、地上波ゴールデン生中継というのは、リーグの価値を表わす何よりの指標になりますからね」

――同時に、「J SPORTSオンデマンド」によるSVリーグの男女全試合LIVE配信も決まりました。

「今回、J SPORTS様にSVリーグを取り上げようと思っていただけたことを、非常にうれしく思っています。どうしてもOTT(オーバー・ザ・トップ/インターネットを通じたコンテンツやサービス)事業は、提供する側からしても利益を含めて難易度が高いことは私たちも理解していました。ただ、これは先ほど申し上げた内容と逆になりますが、今後はスポーツも地上波放送(テレビ)からネット配信の時代へと移っていくでしょう。そのことも見越して、今回たくさんのオファーをいただき、最終的にJ SPORTS様にお世話になることが決まりました。とてもありがたい話ですね」

【プロ化のために必要だった意識】

――リーグ自体は過去に変革を施してきましたが、今回のSVリーグは注目度の高まりと同時に、「何が変わったのか?」という目もこれまで以上に注がれると思います。

「まずSVリーグ創設にあたって、サッカーやバスケットボールのプロリーグが発足した時との大きな違いは、『なぜ変わらなければいけないか』という意識自体がない点でした。バレーボールのリーグはプロ化しておらず、事業面でも中途半端でしたが、一方で日本代表は人気が高く、国際舞台でも結果を出していたことが実状だったわけです。

 たとえばサッカーの場合だと、Jリーグが発足した当時は日本代表がW杯にも五輪にも出場できず、『実業団リーグの体制を捨ててプロ化しないと強くなれない』という大義名分がありました。バスケットボールのBリーグも、国内のリーグが二分化していたことで日本は国際大会への出場停止処分を受けており、『現状を変えない限り制裁も解除されない』という事情があった。いずれも『変わらざるを得なかった』わけです。

 それらに比べると、日本バレーボール界は『変わらなければいけない』という意識が希薄だったと言えます。そこで、SVリーグを立ち上げるにあたって各チームへ伝えたのは『プロか、アマチュアかというのをいったん抜きにして考えても、チケットを売っていますよね?』ということ。お客様がチケットを購入して来場する限りは、試合内容だけでなく、演出なども含めた"サービス業"としてお客様を満足させるものを提供する責務があるわけです。その意識を真っ先に変えてほしい、と訴えました」

――実業団チームによる、いわゆる企業スポーツとして成り立ってきた背景がバレーボールの国内リーグにはありました。

「そうなんです。ですから、まずはそこから"モードチェンジ"を図りました。チームの運営会社の応援団を前にして試合をするのが目的ではなく、お金を払って見に来てくださる方々や、ユニフォームを含めて協賛金を払っていただいている企業の方々に満足いただけるチーム、そしてリーグになろうということを一番の主旨としました。その意識がいかにチームに伝わるかで、SVリーグ、日本バレーボール界が大きく変わると考えています」

――それに対して、どのような反応がありましたか?

「2022年9月に私は一般社団法人日本バレーボールリーグ機構(当時)の副会長に就任しまして、この新リーグ構想に着手したわけですが、最初の3カ月から半年ほどでしょうか......。チームとお話しさせていただくなかで『何を言われても事業化はしません』『(試合の運営は)県協会に委託しており、チームとしては何も関与していない』といった声があったのは事実です。

 ですが、昨年末から今年に入った頃から、総じて『変わらなければ』という声が非常に大きくなったと感じています。その象徴のひとつが東レアローズです。男女ともにチームを保有し、今季から男子は静岡、女子は滋賀とチーム名についたわけですが、運営法人を作りましたよね。それに際して、地域貢献活動や露出を増やしていくことに少しずつトライしています。

 さらに女子のデンソーエアリービーズも、活動拠点をこれまでの愛知県から福島県に移すことを決断しました。こうした、過去の国内リーグではなかった動きがいくつか見られます。この2年ほどでリーグ全体、各チームの意識面も大きく変化したと感じています」

【"選手推し"だけではなく"箱推し"も含めてファンを増やす】

――ここ数年、特に男子の日本代表は選手個々の人気も高まり、満員になる会場や対戦カードがあります。SVリーグでは男女ともライセンスの基準(ホームアリーナの収容人数など)は同じですか?

「基準自体は男女とも同じですが、いわゆる"集客基準"はまだ設けていません。ただ、ライセンス上で集客2000人以上、3000人以上と設定すれば、リーグやチームを運営していくうえで様相が変わっていく。いかに事業規模が大きくなったとしても、来場者が少なければ『SVリーグは成功した』とは言えないでしょうから、もちろん集客基準に関しては将来的に議論していかなければいけないと考えています。

 今季のリーグ戦を前に、SVリーグ各チームの代表の方々には『どれだけお客様に見に来てもらえるコンテンツになれるか。そこに全力を注いでいきましょう。それが私たちの価値そのものである』と伝えたい。その点において、特に男子に関しては、チーム自体がファンサービスに努めるようになり、試合の演出なども少しずつ魅力的なコンテンツに変わりつつあると言えます」

―― 一方で、女子はいかがでしょうか?

「どうしても、まだ実業団色が抜けていないチームもあるとは感じています。そこは意識から変えていかなければ、と思いますね。とはいえ、今の高校生世代や学生たちにも非常に将来性のある選手がいると聞いていますので、いずれまた女子の日本代表が今まで以上に世界で躍動し、さらにスター性のある選手も出てくると信じています。

 そのためにも今、女子は基盤固めをしたい。地域に根ざして、"選手推し"だけではなく、チーム全体を応援する"箱推し"も含めて、ファンの数を増やしていく努力が大事だと思います。ですから別途、女子プロジェクトを立ち上げたいと考えているところです」

(後編:SVリーグになって具体的に何が変わる? 「石川祐希選手でも『日本でやりたい』と戻ってきてくれる」リーグへ>>)

<プロフィール>
大河正明(おおかわ・まさあき)

1958年5月31日生まれ、京都府出身。銀行員時代にJリーグへ出向した経緯があり、退行後にJリーグへ入社。常務理事を務め、クラブライセンス制度の導入などに携わる。その後、Bリーグのチェアマンや日本バスケットボール協会の専務理事・事務総長などを務めた。2020年からびわこ成蹊スポーツ大学の副学長、学長を務め、2022年9月にVリーグの副会長に就任し、新リーグ構想に着手。今年7月、SVリーグチェアマンに就任した。

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