野球・鎌田祐哉さん、東明大貴さん|台湾最多勝投手も「住宅ローン」を猛勉強 不動産会社に転身した元プロ野球選手が明かす転職後の努力<後編>

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2024年10月10日 11:42  ベースボールキング

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 鎌田祐哉(45歳)と東明大貴(35歳)には3つの共通点がある。どちらも元プロ野球選手で、30歳を過ぎてから引退し、現在は東京都練馬区の城北不動産で勤務している。プロ野球選手として培った「強み」も活かしつつ、ビジネスマンとしての日々を送っている。

 30歳を過ぎてから初めて「一般企業」に勤務したのだから、それなりのハードルはあったはずだ。不動産会社は結果が求められる業種で、要求される知識も多岐にわたる。しかも今の彼らは数千万、億単位の商談を日々こなしている。

 特に鎌田は名門・早稲田大出身で、日本の台湾のプロ野球で合計12年プレーした右腕だ。プライドを捨てた「つもり」でも、入社直後は年下の上司から厳しく指導を受ける日々に苦しんだという。しかしそんな苦労を乗り越えて、二人はプロ野球とは全く違うグラウンドで、ネクストキャリアを切り開いている。インタビュー後編は彼らのキャリア、苦労と努力について語ってもらった。



――― 新入社員時代は、それぞれどんなスタートでしたか?

東明:野球選手は名刺を渡す習慣がないので、まずは名刺の渡し方から教わりました。他にも分からないことばかりでしたし、そもそも「何が分からないか分からない」ような状態でした。今まで何も気にしたことがないところを、気にしなければいけなくなりました。




鎌田:当時の課の先輩も野球が好きな人で「ついて来い」と言ってくれました。聞いたり見たり、分からないことは質問したり、追いかけて覚えていった感じです。

――― 鎌田さんは城北不動産に入社して11年目ですが、これまでどういう仕事をされてきたんですか?

鎌田:売買仲介営業を8年やって、今は用地の仕入れをしています。売買仲介営業は「B to C」でしたが、今は「B to B」です。土地を仕入れて事業収支計画を立てて、プレゼンをして、家の間取りも考えたりします。ちなみに東明と同じ部署です。

――― 売買仲介は対個人で、家は一生の買い物と言われるくらい高額ですから、「信頼してもらう」「任せてもらう」ことが必要になりますね。

鎌田:本当に説明の内容が色々あって、家屋のこともあれば、住宅ローンもありますよね。それに練馬で家を買いたい方に対して、練馬について知らなかったら「この営業マンは使えない」と思われてしまう。学区についてや、あそこのスーパーは何時から何時までとか、公共の施設なども全て知っておかないといけません。僕はまず住宅ローン、金利について学ぶことから入りました。お金についての説明ができないとダメだと思って、そこを徹底的に勉強しました。

――― どう勉強するんですか?

鎌田:銀行さんからローン担当の方が来るので、分からないことは全て聞きます。どの銀行は何が得意かとか、どのお客さんがどの銀行にハマるかとか、そういうパターンが色々あります。「こっちは金利が良いけど、こちらは違うメリットがありますよ」とか、すぐに計算機を叩いて説明できれば、お客さんは納得してくださいます。




――― 元プロ野球選手というキャリアで得をするところはありましたか?

鎌田:業務が分かってきて、お客さんや業者さんに自信を持って話ができるようになったときは、野球選手だったことがすごくプラスになります。野球が好きな人は多いので、興味を持ってくれるし、間違いなく印象に残るので。

東明:ある程度厳しい環境を過ごしてきたので、いい意味で「スルースキル」があるのかもしれません。

鎌田:分かる! 野球選手のときは分からなかったけど、普段仕事をしている中で、「俺、ストレスに強いんだ」と思います。

東明:切り替えは早いかもしれません。

鎌田:人が「ああヤバい。どうしよう……」と悩んで立ち止まってしまうところを、「仕方ない、次に活かして前に進もう」で済ませられるメンタルはあります。

――― 仕事上の「失敗エピソード」はありますか?

鎌田:大きな失敗はないですけど、入社した頃はギリギリセーフは結構ありました。例えばお客さんからお金をいただく決済日の前に用意しておかなければいけない書類を、分からずもらっていなかったことがありました。発行に普段は1週間くらいかかるのに、必死に走り回って検査機関に無理なお願いをして二日ぐらいで用意してもらいました。

――― 最近Netflixの『地面師たち』というドラマが話題になっていますけど、用地買収の仕事はそういう(詐欺にあう)リスクもありますよね?

鎌田:全てのリスクはありますけど、普通にしていたら大丈夫です。

――― 普段の取引では、どれくらいの金額を扱っているんですか?

鎌田:土地の仕入れは1億、1億5千万の間くらいが大きなところで、(一戸建ての)販売も1億前後くらいです。昔に比べると金額が上がっています。僕が入った10年ちょっと前は練馬区だと新築の一戸建てがおおよそ5千万台でしたが、今の相場は8千万とか9千万です。

――― 元野球選手はさすがに珍しいと思いますが、不動産会社は「転身組」の多いイメージがあります。

東明:比較的間口が広い、入りやすい職種ではあると思います。

鎌田:城北不動産は転身組も多いですね。




――― 逆に入ってからが大変な仕事なのでしょうか?

鎌田:基本的には数字が問われる仕事でなので大変です。不動産業界はどこも入れ替わりは激しいと思います。現在社員は20名くらいですが、今まで肩身が狭くて辞めていく人もいれば、逆に結果を残して「自分でできる」と考えて出ていく人もいましたね。

――― 入社後に「辞めたい」と思ったことはありますか?

鎌田:最初の頃はありましたね。1年目か2年目か。結果が出ないし、厳しく言われるし、上司は年下で……。プロ野球選手だったプライトを捨てたつもりでも、「プライドを捨てなさい」と言われたことをよく覚えています。でも気づいたら、大丈夫になっていました。

東明:辞めたいと思ったことはないですが、正直に言えば「働かなくて良いなら、働きたくない」という気持ちはあります(笑)

――― 最後に現役アスリートへのアドバイスをお願いします。

東明:選手を辞めたら、辞めたときに考えればいいと思います。まずは履歴書を送って、会社に入ってみる。ダメならダメで、辞めたらいいですよね。最初は何もできないけど、別にそれは恥ずかしいことではない。「できないので教えてください」というスタンスで入ればいいはずです。どの業種に入っても、勉強はしなければいけないし、覚えることはたくさんある。ただ新しく始めることに関しては、そこまで気にせず入っていいのではないでしょうか?

鎌田:似ているんですけど、僕は最初の部分だけ少し違います。アスリートにも時間はありますから、そこでネクストキャリアのことも考えていてもいいと思います。「野球を頑張っているから時間がない」というのは言い訳だし、「空いた時間で将来必要になりそうなスキルについて学んでみてもいいかな」と思います。

――― 現役時代に考えていたことで、「これは今生きている」という部分はありますか?

鎌田:具体的には分からないですけど「考えていた」というだけで、ちょっと違うところに自分のマインドを置けます。「野球だけをやってきて考えていないから分からない」と「分からなかったけど考えていた」の差が、その次の違いになるのかなと思います。

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取材=大島和人
撮影=野口岳彦
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