敷金を取り戻すための4つのポイントを弁護士が解説 「原状回復ガイドライン」の活用法も詳しく紹介

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2024年10月11日 10:50  弁護士ドットコム

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賃貸物件を借りるときにおさめることが一般的な「敷金」。退去時には敷金が返ってくるつもりでいても、さまざまな理由で引かれて一部しか戻ってこないケースもあるようです。弁護士ドットコムにも敷金に関して様々な相談が寄せられています。 「退去時にクロスや清掃費用として約6万〜18万敷金から支払うことが契約書にかかれている」「ペット禁止の物件で2日友人の犬を預かったら1月分の敷金の支払いを求められています」など、さまざまな理由で敷金からの支払いを求められるケースがあるようです。


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退去時に敷金がきちんと戻ってくるように、借主が知っておくべきことは何でしょうか。不動産の問題に詳しい佐々木一夫弁護士に聞きました。



●1.敷金は「全額返還」が原則



——敷金は、そもそもどういう役割があるのでしょうか?



敷金というのは、賃貸物件に入居する時に、いわば「保証金」として大家さんに預けるお金のことです。家賃が払えなくなったり、部屋を傷つけたりした時のために、大家さんは敷金を保管します。



本来なら、何も問題がなければ退去時に全額返金してもらえます。しかし、ここでトラブルが起きがちです。大家さんと借りる側で「どこまでが通常の使用による傷みで、どこからが借りた人の責任か」という線引きが曖昧なことが多いためです。



中には借りる人の知識不足につけ込んで、大家さんが敷金を返さないケースもあります。借りる側も自分の権利をしっかり知っておいて、おかしいなと思ったら、きちんと主張することが大切です。



● 2. 原状回復は「全て元通りにしろ」ではない



——退去する時の「原状回復」はどこまで必要でしょうか?



「原状回復」という言葉だけ聞くと、「元通りにしないと」と思ってしまいますよね。でも、実はそこまで厳しくありません。



基本的に、普通に生活していて自然に起こる傷みや、年月が経って古くなるのは、借りた人の責任ではありません。こういう傷みを「通常損耗」とよび、法律でも借りた人の責任ではないと決まっています(民法621条)。



例えば、「壁紙が日光で色あせた」「家具の跡が床に残った」という程度では、借りた人が直す必要はありません。



——原状回復の費用を借りた人が払わないといけないのは、どんなときですか?



大きく分けると、借りた人が払う必要がある場合は2パターンあります。



1つ目は、借りた人に責任がある傷や損傷の修繕費用です。たとえば次のようなケースです。



・引っ越しの時に家具をぶつけて、壁に穴を開けた
・子供が壁に落書きした
・タバコのヤニで壁が黄色くなった(※賃貸期間や程度によります。)
・ペットが柱を引っかいて傷だらけになった



こうしたことは、「普通に暮らしていたら起こらない」ということで、借りた人が直す必要があります。



2つ目は、契約の時に「これは借りた人が負担するよ」と約束した場合です。ただし、これには注意が必要で、明確な合意がされている場合だけ有効な約束ですし(最高裁第二小法廷H17.12.16判決)、そもそもあまりに借りる人に不利な約束は無効になることもあります。



例えば、「通常損耗も借主が原状回復する。」という定めがあるだけでは不明確な合意で約束は無効になると思われます。 また、クリーニング代を払うと約束したけど、その金額があまりにも高すぎる場合は、支払わなくてよい可能性があります。



大切なのは、「これって本当に私が払う必要があるの?」と疑問に思ったら、しっかり確認することです。後で紹介する「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考にするのも良いですよ。





——原状回復しなければならない場合でも、その費用を全額負担しなければならないのですか?



いいえ、そうではありません。



設備は、新品の時から年月を経るごとに価値が下がっていきます。例えば壁紙であれば、6年も経てば残存価値1円になるといわれています。残存価値1円のものを交換するのに、何万円もの金額を支払って原状回復するのは、逆に大家さんが得をすることになってしまいます。



もちろん、壁紙そのものの値段だけではなく施工費等もありますので、借主が支払わなければならない金額が残存価値を上回る金額になることもあるのですが、少なくとも壁紙張替費用等の全額を支払わなければならないわけではないことは覚えておきましょう。



● 3.国交省の「ガイドライン」をおさえる



——どんなガイドラインですか?



借りる人にとってとても役立つものです。国土交通省が作った「お助けマニュアル」みたいなものだと思ってください。賃貸住宅を退去する時に、「誰が何を直すの?」「いくら払うの?」といった疑問に答えてくれます。



このガイドライン、どんなふうに役立つかというと、



・「これって私が直す必要あるの?」といった判断する時の物差しになります。 ・大家さんと話し合う時に、「ここにこう書いてありますよ」と主張する根拠として使えます。 ・退去する前に、「どのくらいお金がかかるのか」の予想を立てるのに役立ちます。 ・契約時に「この約束はおかしくないか?」と思った時の参考になります。



どんなことがルールとして定められているか、ごく簡単に説明すると、



・普通に使っていて自然に起こる傷み(通常損耗)は大家が負担する ・わざとだったり、乱暴に使ったりした結果起こした傷は借りた人が負担する ・物によっては、使った年数が長いほど借りた人の負担が減る ・契約で「これは借りた人が直すこと」と定めてあっても、借りる人に明確な説明がないと無効



ただし、これはあくまでガイドラインなので、法律のように絶対というわけではありません。ただ、裁判所でも参考にされることが多いので、知っておいて損はないですよ。



このガイドラインをうまく使えば、不当な請求から身を守ったり、公平な費用負担を実現できる可能性が高くなります。大家さんとのコミュニケーションもスムーズになって、トラブル防止にも役立ちます。



● 4. 大家との交渉は本人でも対応可能



——ガイドラインを見せて個人が交渉したとして大家は敷金の返還に応じてくれますか? 結局、弁護士に依頼する必要があるのでは?



交渉となると不安もあると思いますが、弁護士に頼まなくても自分で対応できる場合は少なくありません。



敷金が数万円から数十万円くらいだと、弁護士に頼むと費用倒れ、つまり敷金を全額取り戻しても弁護士費用でマイナスになってしまうことが多いでしょう。そのため、まずは自分で交渉してみるのがおすすめです。



特に理由もなく、通常の範囲内で住んでいたのに大家さんが敷金を返してくれない時は、たとえば次のように伝えてみましょう。



「敷金は、特に問題がなければ全額返すものですよね?」 「大家さんが言っている修繕費用、これって本当に私が払う必要があるんでしょうか?普通に使って自然に起こる傷みは大家さん負担じゃないですか?」



先ほど話した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考にしながら、丁寧に、でもはっきりと自分の考えを伝えてみてください。



それでも大家さんが聞く耳を持たない時は、「少額訴訟」という方法もあります。これは60万円以下の請求で使える簡単な裁判みたいなものです。普通の裁判より手続きが簡単で、弁護士なしでも対応できます。



ただし、この「少額訴訟」を使う前に、もう一度大家さんとしっかり話し合ってみることをおすすめします。意外と誤解が解けて解決することも多いんですよ。





——そもそも敷金トラブルを避けるために、日頃からどんな準備をしておけばよいでしょうか。



賃貸契約に関する基本的な法律知識を身につけることです。難しく考える必要はありません。先ほどお話した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を読んでおくだけでも、かなり違います。大家さんの言うことを鵜呑みにしないことも大切です。疑問に思ったら、しっかり確認してください。



入居時と退去時に、部屋の状態をしっかり記録しておくのも良い方法です。写真を撮っておくと、後で「もともとこうだった」と証明できます。「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」にもチェックシートがあるので、活用するとよいでしょう。




【取材協力弁護士】
佐々木 一夫(ささき・かずお)弁護士
弁護士法人アクロピース代表弁護士。東京都の神田と赤羽にオフィスを有し、主に企業法務、労働案件、交通事故、離婚、相続を扱っている。任意交渉のみならず訴訟案件を多く取り扱っており、法廷での訴訟活動に強みを持つ。

事務所名:弁護士法人アクロピース
事務所URL:https://acropiece-lawfirm.com/



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