日本で「面白いマンガ」が生まれ続けるのは、なぜ?

1

2024年10月14日 07:51  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

マンガ界、新たな天才に影響を与える

この記事は『漫画ビジネス』(著・菊池健/クロスメディア・パブリッシング)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。


【その他の画像】


 日本の週刊漫画雑誌のつくり方の特徴として、漫画家1人、編集者1人を基本とする制作ユニットが挙げられます。これは、大量の作品をつくるうえで、低いコストでたくさんの作品を産みだす体制でもありますが、同時にこの体制ゆえに生まれた副産物があります。それは、作品をつくる人数が少ない分、作り手のエゴがむき出しになった作品が生まれやすいということです。


 マンガのつくり方は、大きく分けるとマーケットイン型でつくられるものと、プロダクトアウト型でつくられるものがあります。前者は、流行しているストーリーの型に当てはめてつくられるもので、最近でいうと、いわゆる「異世界転生」や「悪役令嬢」といったジャンルが該当します。


 ちなみに、「異世界転生」というのは、主人公が事故などのきっかけを経て、別の世界に行くことで物語が始まるような作品のこと。「悪役令嬢」も「異世界転生」から派生したジャンルですが、女性の主人公が別の世界の物語の悪役として転生する作品のことを指します。


 後者のプロダクトアウト型は、漫画家の個人的体験や嗜好(しこう)を掘り下げ、物語として昇華させていくようにつくられるものです。日本の伝統的な漫画雑誌の編集部では、どちらかというとこちらを重視してきました。


 例えば、週刊少年ジャンプ編集部によるマンガの指南書では、編集部の役割として「人それぞれにある『自分はこういうものが好き』『こんなことが描きたい』『これなら描ける』という衝動に火をつけること」と述べています。


●新たな天才に影響を与える


 また、『ONE PIECE』の尾田栄一郎さんは、マンガを描くこととは、「自分のパンツを脱ぐ」ようなことだと述べたとも言われています。エッセイマンガ『ヒット作のツメアカください!』(天望良一/集英社)で取材された際に述べていました。


 これは90年代の一部ジャンプ志望者の間でよく言われていたことでもあるそうです。格好つけたり、恥ずかしがったりせず、他の人が見せないような自分の本当の性癖を描く必要があるということです。


 たくさんの人の手を介して、川を流れて角の取れた丸く整った石のようなものではなく、荒々しい原石のような、人のエゴがむき出しになった作品ほど、読み手を強くひきつける。そういう思想のもと、漫画家と編集者は、余人を交えず、とことんこだわりを詰め込んできました。


 マーケットイン型のほうが手堅くヒットを生み出す傾向にあるのですが、時代を変えるような前例のない作品はプロダクトアウト型から生まれます。さらにいえば、数多くいる漫画家のうち、天才が描いたプロダクトアウト型の作品こそ、メガヒットの原石なのです。


 なぜなら、天才の作品というのは、連続的に発展していく凡人の発想を飛び越えて、跳躍した発想のもと、新たな表現を生み出して後の世に続く新たな天才に影響を与え続けていくのです。


●なぜ、日本に面白いマンガが生まれ続けるのか?


 天才が描いたプロダクトアウト型の作品だけがメガヒットする。それならば、天才だけをスカウトしてきて、作品をつくれば、大量に作品をつくらなくてもすぐにメガヒットが生み出せるのではないか。そう思われるかもしれません。


 しかし、天才というものは、いきなり1人だけをピックアップしても出現しないものです。まるで、神のいたずらのようにランダムに出現するのです。だからこそ、裾野を広くして、試行回数を増やさなければなりません。


 さらにメガヒット作品を産んだ天才は、時代のヒーローとなり、世の中の憧れの的となります。その天才に憧れた次の世代の天才がまた新たなメガヒット作品を生み出していく。


 こうして、天才たちにより輪廻のように作品が紡がれ続ける。この連鎖こそが日本の漫画業界でメガヒットが生まれる理由です。


 2024年3月1日に、『Dr. スランプ』『ドラゴンボール』を生み出した、漫画史を象徴する漫画家・鳥山明さんが逝去されました。手塚治虫に端を発した日本の天才漫画家たちの系譜の中でも、鳥山明さんは象徴的な天才といえると思います。


 彼の作品が存在した以前と以後で、世のマンガ作品がガラッと変わるような大きな影響を与えました。


 世界中のファンが彼を亡くしたことを悼み、市井のひとたちは、大きなイラストを描いたり、パリのサッカー場では、伝統の「サンジェルマン」と「マルセイユ」戦の中でも、ファンによる巨大なコレオグラフィー(ボードなどによる人文字)が形づくられました。


 世界中のメディアがこの訃報を報じ、国内の著名人はもちろん、フランスのマクロン大統領まで弔意をX(旧Twitter)で示しました。巨星が墜ちたことが広く偲(しの)ばれました。


 世の中が偉大な才能を失った悲しみに暮れるなか、私はある一筋の天才たちの系譜を見つけました。


●天才から天才へと才能のリレー


 集英社の広報部から発表された、鳥山さんへの訃報。このなかにあった、『ONE PIECE』の尾田栄一郎さん、『NARUTO』の岸本斉史さんからの言葉に、はっとさせられたのです。


 「漫画なんて読むとバカになるという時代からバトンを受け取り大人も子供も漫画を読んで楽しむという時代を作った一人でもあり漫画ってこんな事もできるんだ世界に行けるんだ、という夢を見せてくれました。突き進むヒーローを見ているようでした。」(『訃報』尾田栄一郎)


 「僕も先生のような作品を作りたい! 先生のようになりたい! と、先生の後を追いかけるように漫画家を目指すうちにその喪失感もなくなっていきました。漫画作りが楽しかったからです。先生を追いかける事で新しい楽しみを見つける事が出来ました。先生はいつも僕の指針でした。」(『訃報』岸本斉史)


 鳥山明の跡を継いでメガヒット作品を生み出した2人が、いかに強くこの偉大な先人の影響を受け、その存在を追いかけたのかが切々と書かれています。


 輪廻のようにして、天才から天才へと才能のリレーが行われる営みが、漫画という裾野の頂を高く、より高い次元にいざなうものだと私は考えます。


(菊池健、一般社団法人MANGA総合研究所所長/マスケット合同会社代表)



このニュースに関するつぶやき

  • 真マジンガーだったかで、新たなロボットマンガが生み出されていく連鎖が書かれてて面白かったな・・「俺ならもっとすげえのにできるぞ!・・描いちまってもいいんだよな!」ってノリで・・
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

ランキングゲーム・アニメ

前日のランキングへ

ニュース設定