パルワールド、任天堂への賠償は数百億円に? ソニー・アニプレックス協業の影響は

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2024年10月15日 06:31  ITmedia ビジネスオンライン

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 ゲームに関心がない人でも、「ポケモン似のゲーム」との評判は聞いたことがあるのではないだろうか。ポケットペア(東京都品川区)がリリースした『Palworld』は、インディーゲームであるにもかかわらず世界的な成功を収めた。発売からわずか1カ月で同作品は総プレーヤー数2500万人、推定売上高692億円を記録したとされる。


【画像】ポケットペアのプレスリリース


 大手ゲームメーカーではない小規模な会社が作り上げた、前代未聞の記録──「ゲーム事業には夢がある」と感じる人もいるかもしれない。ソニーやアニプレックスなどと協業しパルワールドのIP管理事業にも手を広げ、さらなる成長機会をうかがっているようだ。


 モンスター捕獲と育成を主な要素とするこのゲームは、リリース後すぐに海外では「銃が撃てるポケモン」という異名で話題となり、多くのゲーマーやメディアの注目を集めた。「丸パクリ」ではないものの、モンスター捕獲メカニズムやキャラクターデザインがどことなくポケモンを彷彿(ほうふつ)とさせるもので、著作権上のグレーゾーンでお金をもうけていると批判されていた。


 そしてついに2024年9月、任天堂とポケモン社がポケットペアに対して「特許権侵害」を理由に訴訟を提起したと明らかになった。なぜ「著作権」ではなく特許権を巡っての訴訟となったのか。また、ポケットベアが任天堂の“ライバル”ソニーと手を組んでいることで、何が起きるのだろうか。


●任天堂は「著作権侵害」訴訟を選んだ──賠償額の目安は


 今回の訴訟で焦点となっているのは、著作権ではなく特許権の侵害である点である。著作権は主に作品の表現形式を保護するもので、キャラクターのデザインやストーリーが対象となる。


 一方で、特許権は技術的なアイデアや発明そのものを保護するものであり、今回問題となっているのは、『Palworld』のゲームメカニズム、特にモンスター捕獲システムが任天堂の特許を侵害している点であろう。


 任天堂は「モンスターを捕獲するためのアイテムを投げる」という技術に関する特許を保有しており、この特許が『Palworld』で使用されていることが侵害にあたると主張している。


 同社が特許訴訟を選んだ理由として、特許権は技術的な仕組みやプロセスに対するより広範な保護を提供する点が挙げられる。


 著作権侵害の訴訟は、表現の類似性を立証する必要がある。「似ている」「似ていない」の水掛け論となってしまう可能性があり、任天堂としても敗訴のリスクは少なからず存在する。


 しかし特許侵害の場合は、特許庁に詳細に登録されている技術的なアイデアやメカニズムを、被告側が無断使用していることを示せばそれで足りる。客観的な証拠に基づいた訴訟を提起することで、任天堂側がより勝訴しやすい状況が生まれるわけだ。


 さらに、特許権の侵害が認められた場合、技術そのものの使用を禁止する強力な法的措置を取ることも可能だ。仮にポケットペアに対し、『Palworld』のゲームシステム全体に影響を与えるような判決が下されたとしよう。するとポケットベアは、単なるキャラクターデザインの変更ではなく、ゲームの根本的な仕組みを変えざるを得なくなるのだ。


 これらの点で任天堂は著作権侵害ではなく特許権侵害に基づく訴訟を提起したと考えられる。


 そして、気になるのが賠償額だ。特許権侵害に対する賠償額は一般に、侵害者が特許技術を使用して得た利益が基準となる。


 任天堂は過去にも特許権侵害訴訟を行っており、特に有名な例が『白猫プロジェクト』に対する訴訟だ。


 このケースでは、コロプラがスマートフォン向けゲーム『白猫プロジェクト』で、任天堂が保有する操作システムに関する特許を侵害しているとされた。任天堂は当初44億円(のちに96億9900万円に増額)の賠償を求めて訴訟を起こし、最終的には2021年に33億円をコロプラが任天堂に支払う形で和解が成立した。


 当時のコロプラは全社の利益が100億円程度であった。そのおよそ3割を賠償金として支払ったことになる。


 今回の場合、ポケットペアが得た700億円以上だ。仮に700億円のうち、相当な部分が利益となっていた場合は、150億〜200億円程度が賠償金額の最低ラインとなる可能性は否定できないだろう。


 では今後のシナリオはどうなるか。


 任天堂側が勝訴、あるいは敗訴する以外に、最も現実的なシナリオとして、コロプラの事例同様、ポケットペアが任天堂との和解を選択する可能性が挙げられる。これは任天堂としても、長期的な訴訟にかかるコストや時間を避け、和解金を支払うことでリスクを最小限に抑られるというメリットがある。


 また、もう一つの可能性として、ポケットペアが任天堂との法的争いを回避し、協業やパートナーシップに転じるというシナリオもありうる。ただし、この線はポケットペア側が任天堂のライバルであるソニーと提携したことによって薄くなった。


●ソニーやアニプレックスがIP管理することの批判


 ここで問題となるのは、『Palworld』のビジネスにおいて、ソニーやアニプレックスなどの大手企業が関与していることである。2024年7月、ポケットペアはアニプレックスやソニー・ミュージックエンタテインメントと提携し、『Palworld』をマルチメディア資産として育成する計画を発表した。


 任天堂の知的財産に酷似しているゲームを支援する姿勢は、法的に問題はないかもしれないが、企業のモラルや倫理観の観点から問題があるのではないかとの批判がある。ソニーやアニプレックスは、任天堂との対立を事前に予見できたにもかかわらず、プロジェクトを進めた。


 今回の訴訟によって、ソニーはレピュテーション(評判・信用)の毀損は避けられず、またポケットペアとしても任天堂との協業シナリオが見いだしづらくなる。リスクマネジメントが不十分であったと言わざるを得ない。


 『Palworld』は、600億円という莫大な売り上げを記録し、世界的な成功を収めた一方で、任天堂の特許を侵害したとして、多額の賠償金を求められるリスクに直面している。また、ソニーやアニプレックスがこのようなリスクを伴うプロジェクトに肩入れしたことによる影響も現段階では未知数だ。今後の展開に注目が集まる。


●筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO


1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら



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