「福岡の屋台DX」が好調 LINEや生成AIを導入して、どうなった?

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2024年10月15日 06:41  ITmedia ビジネスオンライン

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福岡の「屋台DX」が好評

 福岡市が誇る「屋台文化」に変化が起きている。福岡市役所では、福岡市屋台基本条例の制定から10周年となる2023年6月に、同じく設立10周年を迎えたLINEヤフーコミュニケーションズ(当時はLINE Fukuoka)とともに「屋台DX」を開始した。


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 屋台のLINE公式アカウント(FUKUOKA GUIDE)を開設して、9軒の屋台がある長浜屋台街の個別情報(おすすめメニューなど)を紹介するほか、営業情報や混雑状況を見える化した。


 2024年7月には、DXの対象を福岡市内にある約100軒の屋台に広げ、機能もリニューアル。生成AIを活用し、おすすめ屋台を教えてくれるAIおいちゃんなどの検索機能を盛り込んだ。リリースから約2カ月でLINEの友だちが約7000人増え、想定以上の反響があるという。


 屋台DXの狙いや特徴、効果を福岡市の山喜多洋一氏(経済観光文化局文化まつり振興部まつり振興課 にぎわい振興係長)に聞いた。


●長浜屋台街の復活に合わせ、DXを開始


 福岡市の屋台は終戦後の混乱の中で誕生し、存続の危機を経て街との共生を探ってきた歴史がある。転機となったのは、全国初の事例となった2013年の福岡市屋台基本条例の制定で、「市の責務」「屋台営業者等の責務」とともに「利用者の責務」を定め、条例に則って屋台街を営業している。


 福岡市の屋台街は、店舗数が多い「天神エリア」(約50軒)と「中洲エリア」(約30軒)、小規模な「長浜エリア」(9軒)と「その他エリア」(7軒)があり、合計で約100軒が営業している(2024年9月時点)。最初の屋台DXは、繁華街から少し離れた長浜屋台街からスタートした。


 「DXの開始以前、長浜の屋台は2軒しか残っていませんでした。しかし、2023年6月に新しい事業者を公募して、新たに7軒が加わり、合計9軒で復活することになりました。再スタートを切る長浜屋台街を盛り上げるためにも、まずこのエリアからDXを始めることにしたんです」


 ちょうど復活のタイミングであることに加え、長浜エリアは気軽に立ち寄れる繁華街の天神・中洲エリアと異なり、わざわざ足を運ぶ必要がある。利便性を良くすることで、長浜へ足を運んでもらう狙いもあった。


●第一弾のDXで実施した4つの施策と成果


 第1弾の屋台DXで実施した主な取り組みは、以下の4つとなる。


(1)屋台LINE公式アカウントの開設


 屋台のLINE公式アカウント(FUKUOKA GUIDE)を開設し、長浜屋台街のおすすめメニューなど個別情報を紹介。より正確に説明すると、同アカウントは以前から存在していたが、休眠状態になっていた。屋台の情報発信を行う公式アカウントとして復活させたのだという。


(2)営業状況の見える化


 野外の決められた区画内で営業する屋台は、毎日店舗を設営して営業する必要がある。そのため雨などの悪天候で営業を見送ったり、早めに営業終了したりする屋台があり、営業状況を把握しづらい。


 そこで、LINE上でリアルタイムで営業状況を見える化した。屋台に設置したIoT電球を通じて通電(点灯)を自動的に感知し、「まもなく営業開始/営業中/営業時間外」の3段階で営業状況を知らせている。


(3)混雑状況の見える化


 長浜屋台のうち1軒「明太中毒」では、混雑状況をリアルタイムで確認できるようにした。店内を撮影した画像をAIで解析し、混雑状況を3段階で表示する。これは試験的な取り組みとして1軒に限定したそうだ。


(4)スタンプラリー


 長浜屋台街に足を運んでもらうきっかけ作りとして、屋台内に設置した二次元コードを読み取るとプレゼントがもらえるデジタルスタンプラリーを期間限定で実施した。3軒ハシゴをすると、さらに一品がサービスされる。


 1年間にわたって運用した結果、公式アカウントの友だちが9000人ほど増加した。福岡市内に住んでいる人がメインだが、他県在住者も多いという。利用者へのアンケートによれば、約6割が「サービスに満足した」と回答した。屋台利用者への聞き取り調査では、「LINEを見て来た」という観光客がチラホラ見られた。


 集客効果に加えて、店主と一緒に長浜を盛り上げようと取り組んだことで屋台全体の一体感も高まったそうだ。概ね良い成果が得られたが、混雑状況の見える化だけは難しさがあったと山喜多氏は言及した。


 「屋台は座席数が13席以下と限られており、回転率が早い特徴もあります。お手洗いで席を外しただけなのに『空き』と判断してしまったり、AIの解析直後にすぐ新しいお客さんが来店したり、実態とLINE上の表示が異なるタイミングがありました」


●1年後にリニューアル、生成AIも導入


 2023年の長浜屋台街での取り組みを経て、2024年7月にはDXの対象を福岡市内にある約100軒の屋台に広げ、機能もリニューアルした。LINEを使っての情報提供はそのままに、以下2つのサービスを提供している。


(1)営業状況の見える化


 屋台に設置したIoT電球が通電(点灯)を感知する仕組みはそのままに、その日に営業しているかどうかを知らせるシンプルな表示に変更された。


(2)AIおいちゃんが「おすすめ屋台」を案内


 福岡市内の約100軒の屋台から、「現在地」や「グルメ」などの条件で、お好みの屋台を検索する機能を追加した。さらに生成AI(ChatGPT)を導入し、「屋台常連の“AIおいちゃん”」とのやりとりを通じて、おすすめの1軒も選べるように。「同じ趣味の店主と話したい」など屋台ならではの質問にも回答する。


 「屋台の醍醐味は、目の前にいる店主や隣り合ったお客さんとコミュニケーションを取りながらグルメを味わうことだと思います。そうした文化を気軽に楽しめるように、店主のパーソナリティもAIに学習させて、AIおいちゃんを通じて情報を得られるようにしました」


●2カ月で友だちが7000人増加、反響は上々


 屋台DXが進化してから約2カ月が経過し、想定以上の反響が得られているという。


 「約2カ月でLINEの公式アカウントの友だちが約7000人増加し、2000人以上がAIおいちゃんの機能を利用しています。旅行者から最も多いリクエストはグルメ関連で、『ラーメンがおいしい屋台』は人気が高いですね。その他、『野球好きの店主がいる屋台』などの質問もあり、店主の特徴で選ぶ人も見られます」


 福岡市役所によれば、DXを含め屋台に関連した施策は概ね好調で、屋台の経済波及効果は2023年11月の調査で104.9億円にのぼる。前回調査した2011年12月の53.2億円と比較して約2倍に成長している。福岡市を訪れる宿泊客のうち、50.6%が屋台を利用しているそうだ。ちなみに、屋台の軒数自体は10年前と比較して約75%に減少している。


 屋台DXの展望としては、ひとまず現在の取り組みを2025年の3月まで継続予定だ。利用者に提供する屋台や店主の情報を随時アップデートし、AIにも定期的に学習させていくという。それ以降は、さらなる利便性の向上を狙ったアップデートを検討しつつ、屋台ならではのアナログ感は残していく方針だ。


 「現状のDXは十分な手応えを感じており、利用者だけでなく店主側からも『便利になった』と喜ばれています。一方でひたすら利便性の追求をしてしまうと、店主との対面コミュニケーションなど屋台ならではの良さが失われてしまうなと。昔ながらの価値は残しつつ、DXを進めていきたいですね」


 2017年からの公募により新たな屋台が参入し、バラエティーが豊かになり、DXによって利便性も高まっている福岡市の屋台街。長きにわたり築かれてきた屋台文化が、今後どう進化するのか要注目だ。


(小林香織)



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