日本企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)について、全体の何割が取り組んでいるのか。この先、どのぐらい増えそうか。市場調査とは別の観点でその割合や、行政機関と民間企業の比率を推し測れる話を聞く機会があったので、今回はその内容を取り上げたい。
NECは2024年10月7日、機関投資家や証券アナリストを対象として開催した「NEC IR Day 2024」で同社のDX事業に関して説明した。本稿では、執行役 Corporate SEVP 兼 Co-COO(最高執行責任者)の堺 和宏氏によるITサービス事業全体の話と、執行役 Corporate SEVP 兼 CDO(最高デジタル責任者)の吉崎敏文氏による同社のDX事業ブランド「BluStellar(ブルーステラ)」に関する話から、筆者が興味深く感じた内容をピックアップし、日本企業のDXへの取り組み状況を探る。
●NECが見る「ITサービスを取り巻く環境」とは
まず、堺氏がITサービス事業を取り巻く環境について次のように説明した(図1)。
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「国内のIT市場については2023年度(2024年3月期)以来、モダナイゼーション(リプレイスメント/効率化)領域が堅調に推移し、2024年度(2025年3月期)はさらにそのCAGR(年平均成長率)が上昇していることから、モダナイゼーションの需要が今後3〜4年は堅調に推移すると見ている。また、DX支援領域については2025年度(2026年3月期)以降に成長度合いが大きくなるだろう。この点については、クラウドへの移行が進んだ企業においてDXの取り組みが活発化し、成果が出るようになると見ている」
図1のグラフで注目したいのは、DX支援において「ITサービス」だけでなく「ビジネスサービス」がこれから伸びると描かれていることだ。この割合が今後大きくなっていけば、NECとしても事業変容していく形になるだろう。
次に、同氏は国内IT市場の環境と成長戦略として、図2を示しながら、それぞれのビジネスユニットについて次のように説明した。
「パブリックビジネスユニットは、行政サービスのモダナイゼーションの動きが本格化してきており、これに対して、ガバメントクラウドへの移行や自治体情報システムの標準化への準備を進めている」
「エンタープライズビジネスユニットは、すでに本格化しているモダナイゼーション需要が継続し、大型案件も増加している。さらにDX案件も徐々に増えつつあり、今後はBluStellarを中核としたコンサルティングとデリバリー体制を強化するとともに、DXを進めるお客さまとの共創活動を強化する」
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「クロスインダストリービジネスユニットは、消防防災関連の更改需要など、ベース事業の領域が増加している。一方で、コアDXの新事業として取り組んで来たスマートシティーやインフラ協調モビリティは社会実装が遅れており、2024年度および2025年度の目標を見直して新たな長期戦略として建て直す」
その上で堺氏は、「国内IT事業では、2023年度までコアDXとして推進してきた成長事業を2024年度からBluStellarブランドとして再定義した。ITサービスについては既存の事業領域をしっかりと維持しながら、投資とリソースをBluStellarに集中し、売り上げ拡大と利益率改善を図る」と力を込めた。
なお、BluStellarの概要については、2024年6月3日掲載の本連載記事「NECの取り組みから探る『ユーザー企業がDXを成功に導く3つの要件』」を参照していただきたい。
●日本企業のDXの取り組み比率は17〜19%と推察
「BluStellarは、全社の(2025年度までの)中期経営計画の達成に向けたキードライバーだ」
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こう強調したのは、BluStellar事業を担う吉崎氏だ。2022年度(2023年3月期)には全社売上高3兆3130億円のうちBluStellar事業の売上高は2376億円だった。それが、2025年度には全社売上高3兆5000億円のうち4935億円に成長する見込みだ(図3)。今後、BluStellar事業の割合が増えていけば、先にも述べたようにNECは大きく事業変容していくだろう。
吉崎氏はBluStellar事業の推移について、図4を示しながら次のように説明した。
「BluStellar事業は、オファリングを含めた商材と(子会社の)アビームコンサルティングを中心としたコンサルティング起点ビジネスの2つで構成されている。2022年度より営業利益を黒字化し、2023年度も堅調な成長を続けている。売り上げはBluStellar事業全体で当初の中期経営計画を上回る成長を見込んでおり、2025年度で営業利益率11%以上の実現に向けて順調に推移している」
最後に、今回のNECのBluStellar事業を巡る話の中で、筆者が最も興味深く感じた図を挙げて、どこに注目したのかを述べる。図5が、それである。
特に図5右側に記されている数字に注目してほしい。これらの数字は、図2で紹介した国内IT市場に向けたビジネスユニットのうちパブリックとエンタープライズの売上高に占めるBluStellar事業の比率を記したものである。それによると、パブリック領域では2023年度は9.1%で2025年度には13.5%に、エンタープライズ領域では同じく19.1%から25.7%になる見通しだ。
NECのITサービス事業は国内有数の規模であるため、これらの数字は日本のパブリック領域およびエンタープライズ領域におけるDXの取り組み比率を表しているとも見て取れるだろう。パブリックとエンタープライズでこれだけの差があるのは、DXの動きを取材している筆者の印象も同様だ。
ちなみに、NECと同様に国内有数規模のITサービス事業を展開している富士通も、先頃開催したIR DayでITサービスに相当するサービスソリューション事業において、同社のDX事業ブランド「Fujitsu Uvance」の売り上げ比率が、2023年度で17%、2025年度は30%になるとの見通しを明らかにした。2023年度を見ると、NECのエンタープライズ領域の数字と変わらないことから、つまりは日本企業でDXに取り組んでいる企業の割合は全体の17〜19%といったところが現状とも推察できる。
両社にとってはこの割合がDX事業推進のバロメーターになるだけに、今後も前面に出していくだろう。日本企業のDXの取り組み比率という観点からも引き続き注目したい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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