2024年9月に発生した「令和6年 奥能登豪雨」の被害に伴い、全国各地から災害捜索を行う多くの救助犬が能登半島に派遣された。
静岡県警の要請を受け、静岡県に拠点を置く救助犬団体「認定NPO法人 災害救助犬静岡」(@drdshizuoka)からも、隊員6名と救助犬4頭が出動。X(旧Twitter)やInstagramに投稿された現地での様子に、大きな注目が集まった。
猛暑のなか、海水や泥水に覆われた被災地で行方不明者を懸命に捜索する救助犬たち。そのなかに、中型犬であるウェルシュコーギーペンブロークの女の子、エマちゃんの姿があることに多くの人が着目。
6歳になるコーギーのエマちゃんは、令和6年1月に発生した能登半島地震の際も珠洲市にて捜索活動を行なった救助犬。その勇敢な姿に多くの称賛の声が寄せられた。
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犬がいる→被災地の治安にも貢献
「あら、コギちゃんもいるのね」
「コーギーって嗅覚すごいんだよね。頑張れ」
「小さい体で頑張ってくれてありがとう」
「コーギーちゃん、他のワンちゃんに負けずに頑張って仕事する姿最高です」
「ワンコさんがいると、治安上の貢献も大きいのでは?」
「勇敢で優しくて賢い子たち…本当に感謝です」
救助犬と言えば、シェパードやラブラドールレトリバーなどの大型犬の印象が強い。災害救助犬静岡さんに伺ったところ、コーギーなどの小柄な救助犬も活躍しており、「小柄な犬は狭い場所や体重が軽い方が良い場所などの捜索に適している」という。
「コーギーのエマちゃんは体高が低く、大型犬に比べて鼻の位置も低いため、低い場所の臭気に敏感に反応できます。また、人間が大好きな子なので、現地では待機中の救助隊員さんたちの癒しにもなっています」(認定NPO法人 災害救助犬静岡さん)
救助犬の安全を誰よりも考えているのは、犬の飼い主でもある「ハンドラー」
多くの瓦礫や汚泥が堆積した被災地の様子に、「肉球お気をつけて」「海外の災害救助犬のように靴を履かせて」といった、犬たちを心配する声も多く見受けられた。
すべての救助犬は「活動靴」を履く訓練を受けている。しかし、高温多湿な日本の被災地ではむしろ「靴」が犬の熱中症や滑落事故などを招く可能性が高いのだという。
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また、体高が低いエマちゃんに対しては、「瓦礫で腹部を怪我しないか?」という声もあった。
だが言うまでもなく、救助犬たちの安全を誰よりも考えているのは、犬たちの飼い主でもあるハンドラー自身だ。
ハンドラーも「大切な家族」に怪我をさせたくありません
「救助犬のご心配をいただけること、大変ありがたく思います。SNSでも犬たちの怪我を心配される声、たくさんいただきました。本来、犬は人間よりも運動能力の高い動物です。そして、訓練によってさらにその身体能力、危機管理能力、ハンドラーへの服従心(指示による制止や呼び戻しに応じること)も備わっているのが災害救助犬です。とはいえ、災害救助犬静岡の救助犬は各会員(ハンドラー)の大切な愛犬です。どのハンドラーも皆さんと同じ、1人の愛犬家です。
当たり前ですが、大切な家族に怪我をさせたくありません。現場では、ハンドラーは必ず自分の足元を確認しながら行動し、救助犬からも決して目を離しません。犬たちのどんな小さな反応や変化も見逃さないためです。そして犬を現場に投入する前には必ず、ハンドラー自身が現場に足を踏み入れて確認し、犬にとって危険なものがないかを見極め、投入を判断します。今回の出動でも、犬たちは皆、怪我なく元気に帰って来ることが出来ました」(認定NPO法人 災害救助犬静岡さん)
「決して犬に無理はさせません」
災害救助犬静岡さんの公式HPに、今回現場に出動したシェパードのシュティちゃんのハンドラーさんの手記が投稿されていたが、能登半島には今も1月に発生した地震の被害の跡が深く残っており、胸が痛む状況だったという。
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「今回も1月の出動時と同様に、道路状況が非常に悪く、徒歩での現場移動が多かったです。浜辺や河岸などの砂地では人間も足を取られやすく、歩きにくい現場もあり、捜索活動が大変でした。しかし私たちハンドラーは、どんなに過酷な現場でも、普段の訓練通り、平常心で犬たちに接しなければなりません。ハンドラーは救助犬と一心同体で捜索を行なっています。犬たちはハンドラーの感情の変化などを敏感に感じ取ってしまうからです。
そして、夏季は寒い季節よりも犬への負担が大きくなるため、いつも以上にハンドラーは犬の調子を注意深く観察し、捜索の継続が可能か、それとも休ませた方が良いのかを随時判断しています。決して犬に無理はさせません。これまでの出動でもそうでしたが、夏季の捜索では、時間と日陰を見つけては、犬のために積極的に休憩を取るようにします」(認定NPO法人災害救助犬静岡さん)
「災害救助犬」の活動にさらなる理解を
実は私たちが考えるべきなのは、災害大国である日本の救助犬団体のほとんどが、民間のボランティア団体であることだ。救助犬を牽引するハンドラーは我々と同じ、仕事を持つ一般人。多くのハンドラーたちは有給などを駆使して救助活動を行っているという。
さらに、たとえ公的機関からの出動要請であっても、被災地に向かう燃料費や滞在費、犬やハンドラーが心身を負傷した際の治療費などもすべて、寄付金やその団体の会費、自費などで賄われているのが現実だ。
「どの出動でも移動費、食費、宿営費等、多額の出動費がかかっています。それらは会の運営費から賄われますが、その費用は会員たちの会費、皆さまからのご寄付で成り立っています。今回の出動も、皆さまからの温かいご寄付がこれまでにあったからこそ出来たことです。温かいご支援に大変感謝いたします。SNSでもたくさんの応援、ご支援のお声をいただけましたこと、会員一同、心より感謝しております。ありがとうございました」(認定NPO法人 災害救助犬静岡さん)
犬に救助活動をさせることを否定的に捉える人もいるだろう。だが、興味がなければ集中力が続かない「犬」にとって、「救助活動」は大好きなハンドラー(飼い主)と共に行う楽しいゲームや冒険のようなものなのだという。
災害救助犬静岡さんがHPやSNSに投稿している訓練時の様子を見ても、犬たちがその優れた嗅覚や運動能力を活かして、「救助活動」を楽しんで行なっていることがわかるだろう。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ リュウ)