● マツダはかつて、ある海外の有名女優をイメージしてクルマを作ったことがありました。さて、そのクルマとは?
ヒント:女優さんの出演作品は…
マツダがイメージしたのは、映画『カサブランカ』でハンフリー・ボガートと共演した女優さんです。
――正解は次のページで!● ○問題をおさらい!
正解はこちら!
○【答え】マツダ「ペルソナ」
答えはマツダ「ペルソナ」です。
そのコンセプトはインテリア・スペシャルティ。“五感に美しい”をテーマに、乗る人の感性重視、感覚優先の設計を基本としました。
クルマは乗る人の五感にどこまで優しくなれるか。どこまで美しく、豊かになれるか。単に外観や走りばかりでなく、従来の大量生産的なクルマづくりでは見落とされがちだったインテリアや目の届かなかった細かい部分にまで気を配り、内面的な豊かさを重要視したのです。
何よりも画期的だったのは、インテリアデザインを先行させたことです。乗る人とクルマが直接触れ合う室内は、実は最も尊重されるべきであり、本当に居心地のいいインテリアが出来上がれば、それを包むエクステリアもさらに美しく映えるはず、という考え方でした。
そのインテリアは、まるでラウンジのよう。インパネ周りを含めて大きな分割ラインを極力廃したことで、スッキリと広く見せています。デザイナーは床置き型のテレビや足のないベッドなど、当時の家具の流行からヒントを得てデザインしたそうです。このゆとりが、前席と後席が一組の応接セットであるかのような統一感を生みました。さらにシートには、すべて本物の縫製をほどこした手縫いの本革を採用するとともに、すっきりとシンプルで無駄を省いたデザインにしているのも大きな魅力となっています。
こういったイメージの源泉となったのが、女優のイングリッド・バーグマンでした。彼女の持つ優雅さが、デザインのもとになったのです。
ここからはカタログに記された一文を引用しましょう。少し長いのですがお付き合いください。
「クルマの進歩をスペックの数値でしか語れないとしたら、それはクルマ自体にとっても、またクルマを愛する私たちにとっても、不幸なことだと言わなければならないでしょう。数値は進歩を裏付けるものであって、決して目的であってはならない筈です。肌で感じ、眼で、そして心で計れる驚きや喜びや楽しみ。それらがあっての進歩。数値を絶対的なものとし、崇拝するようなクルマ造りではなく、心で受け止められるクルマ造り。言わば、私達の感情や生理にとって、意義の高いクルマを造ってみたい。という志がこのペルソナ開発の根底に流れていました」
こう始まる一文は、そのイメージの共有として「ひとりの美女の1枚の写真を用意」したと続きます。
「その美女こそが、世に誉れ高き“イングリッド・バーグマン”だったのです。ただ美しいというのではなく、彼女のように気高く、優雅さに満ち溢れたクルマを造ろうという“少年っぽい”話からスタートしたのです。設計図の助手席には、いつも絶世の美女バーグマンが座っており、彼女に失礼のないように、また彼女に相応しいデザインや色や機能や性能とは、どんなことだろうという緊張感が常にありました」
最初のセンテンスはこんな風に結ばれています。
「ペルソナはイングリッド・バーグマンに捧げられたクルマと言えるかも知れません。つまり、それはモノの中に美意識の存在を求める人々に捧げられたクルマ。と意訳していただければ、と願うのです」
コストなどの制約はあったでしょうが、ここまで思い切ってインテリア先行でデザインされたクルマは珍しいでしょう。こういった思いが実は、今のマツダのインテリアデザインにつながっているのかもしれません。乗る人のことを考え、その人たちが周囲からどう見えるのか、そしてどう快適に過ごすことができるのかを考える。これが、今のマツダのデザインに根付いている思想のひとつでもあるのです。
それでは、次回をお楽しみに!
内田俊一 うちだしゅんいち 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験をいかしてデザイン、マーケティングなどの視点を含めた新車記事を執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員。 この著者の記事一覧はこちら(内田俊一)