【ドラフト2024】注目野手を名物記者が語り尽くす 超目玉の明大・宗山塁は「守備に色気がある」 慶大・清原正吾の指名は?

1

2024年10月17日 10:10  webスポルティーバ

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

webスポルティーバ

写真

アマチュア野球名物記者ドラフト2024対談〜野手編

10月24日開催のプロ野球ドラフト会議に先駆け、『web Sportiva』ではアマチュア野球の現場で取材を長年続けている名物記者の対談を実施。スポーツ報知でアマチュア野球を担当する加藤弘士氏と、著書『下剋上球児』がTBS系列でドラマ化された菊地高弘氏による対談。今回は「野手編」をお届けする。各世代No.1のショートからロマン枠まで、ふたり独自の視点で語り尽くす。

【宗山塁は酔いしれるほどの守備とスター性の持ち主】

加藤 さぁ、10月24日のドラフト会議まであとわずかというところまで迫ってきました。今回はドラフト注目の野手編です。

菊地 今年の野手は楽しみですね!

加藤 では早速、今回のドラフトの超目玉と言っていいでしょう、明治大学の宗山塁選手についてお話を伺いたいと思います。10年に1度、いや、15年に1度とも言われるショートストップですが、彼の評価はいかがでしょうか。

菊地 先日、日本ハムのCBO・栗山英樹さんが宗山選手に対して「美しい選手」とコメントされていて。その言葉にヒザを打ったというか、まさに僕が宗山選手に対して感じている部分を言い表してくださったな、と。それぐらいプレー姿は美しく、絵になる選手なんです。彼を生で見たことがある方は、みんな同意してくれるのではないでしょうか。

加藤 輝きが全然違いますよね。幼き日から毎日欠かさずに練習をやってきた人間にしかまとえないようなオーラが漂っていて。野球道をひたすら真摯に歩んできた男だからこその輝き、というのかな。

菊地 そうそう。だから僕は宗山選手を見に行く方には、必ずこう言うんです。「シートノックから行かないと損ですよ」と。

加藤 アマチュアの選手だけど、お金を払ってもいいぐらいのシートノックですよね。

菊地 なんならシートノックを見るためだけに行ってもいいぐらい。それほどの選手です。プレーひとつひとつに全然力みがないんですよ。力感なく、流れるように。なおかつ三遊間からの送球も鋭い。まるで、かたむきが急な上流から下流に向かっていく、川の流れのような。

加藤 美空ひばりか!(笑)。

菊地 僕のなかでは彼の守備の例えとして、ずっと川の流れを思い浮かべていました。でもよくよく考えたら、ちょっと違うなと感じたんです。鍛錬を重ねて、ひとつひとつの工程にぎっしりと技術が凝縮されている。さらに、宗山選手の守備には色気がある。そういう意味では、水は水でも、日本酒のほうがイメージとしてぴったりなんじゃないか、と。そう感じたんです。日本酒度は、彼の守備のように"キレ"のある辛口ですね。

加藤 それに加えて、宗山選手は広陵高校出身。同校の野球部は、本当に野球道を邁進するようなところ。高校生だからほかのことに興味があるかもしれないし、やりたいこともあるかもしれない。だけど、まずはしっかりと「野球やろうぜ」っていう。そういう環境で育ったからこそ、広陵野球部にしかまとえない色気みたいなものがあると思うんですよね。

菊地 ありますね。高校生の段階で、大学生みたいなことをやっていますから。逆に言えば、自分で自分を高められる選手じゃないと、レギュラーは取れないし、周りから認めてもらえない。広陵はそういう世界ですよね。

加藤 そして、広陵の中井哲之監督は、技術以上に人間教育や人間形成に重きを置いている方です。野球道を極めながら、人としてどう生きるか、というのを教わることができる。この両者を備えた人間に成長できる広陵出身の選手は、まさに"熟成された日本酒"にたとえるにふさわしい。さらに、そこから明治大に進学したということで、"人間力野球"を前面に押し出す田中武宏監督のもとで学んでいるわけですからね。

菊地 「広陵高→明治大」の黄金ルートですよ。

加藤 ある意味"品質保証"というか、野球選手としても、人としても"最高傑作"になりうる可能性を秘めているなと。

菊地 金賞受賞間違いなし、みたいな(笑)。

加藤 間違いない! センスある打撃に華麗な守備、そこにスター性もある。宗山塁という選手だけで酔っちゃいますね。

菊地 なんだか日本酒飲みたくなってきましたよ(笑)。

【"競合必至"の宗山を回避し、石塚の一本釣りもあるか!?】

加藤 新基準バットの導入は、今年のドラフトになにか影響を与えると思いますか?

菊地 たしかに今年の高校生からは、ホームランをポコポコ打つような強打者はあまり出てきませんでした。でも、裏を返すと今後は"本物"だけが生き残る世界になる。いわゆる"誤魔化しがきかなくなった"ということ。金属バットは芯を外してもパワーがあれば打球は飛びますが、新基準バットはしっかり芯で捉えないとホームランは打てませんから。それもあってか、この夏の地方大会や甲子園では木製バットで試合に出ている選手が目立ちましたね。

加藤 早稲田実業の宇野真仁朗選手も、木製バットを使っていました。彼の鋭い打球は鮮烈な印象が残りましたね。

菊地 パワーだけでなく、しっかりとした技術を持っている選手であれば、金属だろうが木製だろうが打てるということですよ。そのなかで突出しているのは、やはり花咲徳栄高校の石塚裕惺選手かなと。

加藤 侍ジャパンUー18高校日本代表でも、ショートの中心選手としてアジア選手権で頑張ってくれました。

菊地 石塚選手は、4月に奈良で行なわれた日本代表候補選手強化合宿の頃から、ひとりだけ飛び抜けていましたね。その時は全員に木製バットが支給されていたんですけど、彼はすぐに使いこなしていました。花咲徳栄は、とくに野手の育成に長けている高校なので、石塚選手も宗山選手同様に金賞クラスの品質ですよ。

加藤 花咲徳栄の岩井隆監督は、2017年に同校を埼玉県勢で初となる夏の甲子園優勝に導いた名将ですからね。

菊地 岩井監督は「これは!」と見込んだ選手を非常にうまく育て上げるんですよ。いままでも西川愛也選手(西武)や野村佑希選手(日本ハム)、井上朋也選手(ソフトバンク)といった強打者をプロに送り込んでいるわけですが、石塚選手も彼らと比べても遜色ないレベルに達しています。プロに入って打撃がさらに磨かれ、フィジカルも強くなれば、浅村栄斗選手(楽天)のような逆方向にも打球を飛ばせるスラッガーになれるんじゃないかと。

加藤 なんと言っても、右打ちの強打者というのは希少価値が高いですよね。

菊地 そうですね。プロ野球だと右投げ左打ちの選手は飽和状態ですから、右投げ右打ちの強打者で、しかも内野を守れる選手というのは、相対的に価値が爆上がりする傾向にあります。ドラフトで宗山選手が競合になるのだったら、世代No.1の右のスラッガーである石塚選手を1位指名する球団も出てくるかもしれません。

加藤 単独1位指名になってもおかしくないわけですね。僕は同じ強打者として、豊川高校のモイセエフ・ニキータ選手を推したいんですけど。やはり今年のペナントレースを見ても、"投高打低"が顕著になっているので、ガッツリ打てる選手の価値が高まっていると思うんですよ。ニキータ選手の打球は凄まじいですから!

菊地 ハマった時の打球音が全然違う。

加藤 そうなんです! フィジカルの強さも含めて、彼の能力の高さは普通の高校生とは何もかも違うなと。打球を遠くに飛ばす力は天性のものですし、まだまだ計り知れないポテンシャルを秘めている可能性もある。プロに入ってどれだけのスラッガーに成長するのか、我々もうかがい知れないところはありますよ。将来を期待して獲得に乗り出すのであれば、ドラフト1〜3位と上位で呼ばれるのではないかなと。個人的にも推し選手なので注目したいです。

【清原正吾のプロ入りに抱くロマン。底知れぬ可能性に期待】

加藤 ズバリ、慶応大学の清原正吾選手はどうですか。

菊地 これはむしろ僕のほうが聞きたいぐらいです。指名されるのか否か。でもこの1年間、清原和博さんの長男というところで注目されるなか、結果を残して成長を見せてくれているじゃないですか。加藤さんはどう見ています?

加藤 僕もスカウトの方々にいろいろ取材してはいるんですけど、現状、清原選手の獲得に前向きな球団には出会えていないです。やはりまだ、清原選手のパフォーマンスを見定めている段階なのかなと。ただ、僕がスカウトだったら絶対に取る!

菊地 お〜、絶対ですか!

加藤 はい。だって、中学・高校で野球やってないんですよ!? 6年間のブランクがある選手が、部員が200人近くいる慶応大野球部のなかでトップ・オブ・トップの4番を張っているわけですよ。しかも、今年の春季リーグでベストナインにも選出。8月には東京6大学野球連盟選抜と日本ハム2軍の試合で、エスコンフィールドの左翼ポール際のホームランエリアにズドンッ! 対戦相手が育成選手といえど、なかなかあの打球は打てませんよ。「大学生=即戦力」と思われがちですけど、選手によってはそうではなく、まずは試合経験を積ませて、たくさん打席を与えてあげれば、化ける可能性は高いんじゃないかと。

菊地 かつて、早大ソフトボール部からプロ野球の世界に入った大嶋匠(元日本ハム)という選手がいましたよね。

加藤 そうそう。大嶋さんのように、野球とは無縁の競技人生を送っていてもプロ野球という世界に巡り会うこともあれば、清原選手のように、高校までバレーボールやアメリカンフットボールに熱中し、大学から硬式野球を始めた選手がプロ注目の存在になるという。それってすごくスポーツ界にとっては大きな夢であり、ロマンだと思うんです。日本のスポーツ界はもっと、マルチスポーツが持つ可能性にフォーカスしてほしい。

菊地 清原選手はマルチスポーツ経験者であることを「自分の武器だ」と言っていますからね。

加藤 けしてマイナスではないということですよ。裏を返せば、他競技を経験することによって、底知れない潜在能力が期待できる。その可能性を秘めている清原選手がプロ入りし、活躍すれば、減少が続く野球の競技人口の拡大にも直結するんじゃないでしょうか。

菊地 「俺も大学から野球始めてみようかな」という人が増えていきそうですよね。ただ、清原選手に関しては、中高6年間、野球から離れていたので仕方がないですけど、東京6大学のピッチャーに対してなんとか対応できている、というのが現状なのかなと。

加藤 そこは否めない。

菊地 ですが、対応できていること自体がすごいな、と思うんです。小学校以来の野球で、140〜150キロの速球や変化球にバットを当てるだけでなく、捉えることもできているわけですから。

加藤 すごいです! もしかするとドラフト会議のいちばんの注目ポイントになるかもしれませんよ。宗山選手や金丸夢斗投手(関西大)が何球団で競合するのか、石塚選手の単独指名があるのか。そして清原選手を指名する球団は出てくるのか。呼ばれるなら支配下か、はたまた育成なのか。すごく楽しみです。彼もプロ志望届を出して、自ら選んだ道ですから、応援したいですね。

(つづく)

構成/佐藤主祥

【Profile】
加藤弘士(かとう・ひろし)/1974年4月7日、茨城県水戸市生まれ。97年に報知新聞社入社。03年からアマ野球担当記者。現在は編集委員。著書に「砂まみれの名将 野村克也の1140日」「慶應高校野球部」(ともに新潮社)

菊地高弘(きくち・たかひろ)/1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定