これだけ引きこもるオーストラリアを見るのは、初めてではなかったか。
過去に多くの死闘を演じてきたアジアのライバルは、端(はな)から勝利をあきらめているかのように見えた。
高い位置からボールを取りに来ず、5枚を並べた最終ラインで日本の攻撃をしのぎきる。ボールを持たれても、クロスを上げられても、何度セットプレーを与えようとも、動じることはない。中央の陣形を保ち続けてさえいれば、ゴールを奪われることはないからだ。
その潔(いさぎよ)さが、日本の戦いを苦しくした。
もちろん、その戦いを選択すれば、事故でもないかぎりはゴールを奪うことはできない。しかし、その"事故"が起きてしまうのだから、サッカーとは実に無慈悲で、理不尽で、だからこそ人々が熱狂するのだろう。
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いつかは追いつけるだろう。しかし、そのいつかはなかなかやってこなかった。このまま敗れてしまうのではないか。時間が経つにつれ、そんな思いもよぎり始める。
思考を巡らせ、攻め筋を探っても、攻略の糸口を見出すことはできない。そんな閉塞感を打破するために有益なのは、理路整然としたものの捉え方ではなく、強引さをはらんだ直感力ではないか。繰り返し、繰り返し、縦へと仕掛ける中村敬斗のプレーからは、ある種の覚悟さえ感じられた。
よもやのオウンゴールで失点し、追いかける展開となった日本は62分に伊東純也、70分には鎌田大地と中村を送り込む。中村は左ウイングバックの位置に入り、そのポジションにいた三笘薫は左シャドーの位置に回った。
これまでの中村の立ち位置は、左ウイング、もしくは左ウイングバックを務める三笘の代役だった。多くのゴールを重ねても、プレミアを席巻するドリブラーのバックアッパーにすぎない。不在時にはスタメンに名を連ねたが、多くの場合はベンチを温め、代わってピッチに立つだけだ。したがって三笘と共存するのは、今回が初めてだった。
【フランスで過ごす日常で培った自信】
「練習でもほとんどやっていない」
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三笘が言うように、ふたりのコンビは即席だった。にもかかわらずドリブルを持ち味とするふたりの連係は、この日の日本の最大の武器となった。
とりわけ秀逸だったのは、やはり中村だ。ボールを持てば躊躇(ちゅうちょ)なく仕掛け、サイドの深い位置までえぐっていく。抜けないと判断すればプレーを作り直す三笘とは異なり、中村は迷いなく縦へのプレーを選択し続けた。
その思いきりのよさが、難攻不落に見えたオーストラリアの守備ブロックに風穴を開けることになったのだ。そして76分、彼の突破が日本の窮地を救うこととなった。
「負けている状態で入ったので、ゴールに向かってプレーしようと意識していました」
そう振り返る中村は、6月の2次予選でも縦への意識を何よりも強調していた。
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「ウイングである以上、シュートを決めることももちろん必要ですけど、やっぱり縦に突破して、クロスというのは絶対に必要だと思っていました。それがアジアカップではうまく出せなかったという思いが自分のなかにあったので、チームに帰ってからの半年間、それを意識的に取り組んできました」
その意識は、レベルが上がった今回の試合でも徹底されていたようだった。ゴールシーンだけではなく、その後も中村は二度、三度と縦へと仕掛け、あわや決勝ゴールという場面を作り出している。迷いなきプレーの背景には、フランスで過ごす日常で培った自信があるからだろう。
「トップスピードの状態でクロスを中に入れていくのは、身体能力の高い選手が多くいるフランスリーグでやっていること。日常的に個の能力が高いレベルでやっているので、それが自分のなかで成長している理由かなって思います」
初めて同じピッチに立った三笘との連係にも手応えを掴んでいるようだった。
「自分がサイドに張っている時に、フリーにしてくるような動きをしてくれた。自分がいい形でボール受けられたのは、中で三笘選手がうまくボール引き出してくれたおかげです」
【魅惑のドリブラーふたりの共存が実現】
一方の三苫も、中村との連係について言及する。
「彼が上下動してくれて、実際に彼からのチャンスは多かった。彼の勢いに乗った形でしたけど、もっと自分がいい距離感を取って、サイドで数的優位を作りながら攻めてもよかったなと思います。チームとして揺さぶるのか、もっと時間を作ってサイドから攻撃していくのか。共通認識はまだ足りないと思うので、もう少し話し合っていきたい」
4-2-3-1の布陣では実現不可能だった、三苫と中村の同時起用。どちらか一方ではなく、魅惑のドリブラーふたりの共存を図れるのは、3バックシステムの恩恵だろう。
ホームで攻めあぐね、勝ちきれなかったのは当然ながら批判対象になる。しかし、可能性を広げる新たなオプションを手にしたという意味では、実りのある一戦となったのではないか。
このコンビが研ぎ澄まされれば、日本はさらなる高みへと到達できるはずだ。