林陵平のフットボールゼミ
代表ウィークを終えて欧州各国リーグが再開するが、イングランドのプレミアリーグで昨季に続いて好調なのがアーセナルだ(第7節終了時で5勝2分の3位)。攻守に進化したと言われるが、その詳細を人気解説者の林陵平氏に、徹底解説してもらった。
【動画】林陵平深掘り解説「今季のアーセナルの進化したところ」↓↓↓
【柔軟な形のビルドアップ】
今年のアーセナルは攻守4局面(攻め、守り、攻→守、守→攻)において本当にすばらしいチームになっています。昨年もよかったんですけど、今年さらによくなっていますので、それを説明していきたいと思います。
<アーセナルの現在の主要布陣>
FW/ハヴァーツ
FW/マルティネッリ、トロサール、サカ
MF/ライス、トーマス
DF/カラフィオーリ、ガブリエウ、サリバ、ティンバー
GK/ラヤ
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まずはボール保持時のビルドアップの形について。初期配置の4−2−3−1から、これまではサイドバック(SB)が中に入り、ボランチのひとりが1列上がる3−2−5の形を採用していました。
ただ、今季はこれだけに決めているわけではなく、柔軟性のある形をとっています。たとえば後ろは4枚のまま、ボランチも2枚のまま、前線のカイ・ハヴァーツとレアンドロ・トロサールが中盤のところに少し下りてくる。これに相手が食いつくようなら、その背後のスペースを両サイドのウイング、ガブリエル・マルティネッリとブカヨ・サカが狙うような形も見られました。
また、両SBが中に入ってきて、ボランチはトーマスが残ってデクラン・ライスが前に出て行く、2―3―5という形もあります。左SBのリッカルド・カラフィオーリが中に入った時に、ライスが左の外に下りるような形もありました。
つまり相手の出方によって、自分たちの立ち位置をすごく変えている。それも試合ごとに仕込むというより、相手のプレッシャーによって試合中でも使い分けている感じで、それが今季のアーセナルのビルドアップが相手にとってより捕まえづらくなっているところかなと思います。
とくに両SBのカラフィオーリとユリエン・ティンバーが、内でも外でもプレーできる頭のいい選手たちで、いろいろなところにどんどん顔を出せるのも、柔軟性あるビルドアップを可能にしています。
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あとはボランチのトーマスが、センターバック(CB)から真ん中でボールを引き受けて、前に配球できるのがすごく大きい。これによってもうひとりのボランチのライスはより自由に動けています。
【サカとハヴァーツが利いている】
ボール保持から攻撃の崩しのシーンですが、まずはサカですよね。
今季のサカは、ケガでインサイドハーフのマルティン・ウーデゴールや右SBのベン・ホワイトがいなくて、昨季サカといいコンビネーションを見せていたふたりがいない状況。それにもかかわらず、スーパーな活躍を見せています。
1対1であれば必ず相手をはがします。そこで基本的に相手はダブルチームで来るんですが、そこでSBがあがって関わってくれば有利になります。またサカ自身、この1対2の状況でも相手を縦にかわして相手ゴール前の深い位置に入っていけるようになっているんです! このあたりが昨季に比べて凄みを増しているところです。
チームとしては、今までは相手を押し込んだ時に丁寧に崩そうとボールを動かすことが多かったんですけど、今季はサイドの高い位置に行った時にはシンプルにクロスを入れているように感じます。これはゴール前に高い選手がいないといけないんですが、今季はハヴァーツがこのボックス(ペナルティーエリア)内の空中戦を制しているので、彼の存在は大きいですね。
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あとはボールとは逆サイドのウイングが、ポケット(ペナルティーエリア内の両サイドのスペース)に斜めに入っていく攻撃も、すごく意識的に取り組んでいるようですし、最終ラインの裏へのアタックも常に狙っています。
【プレスも相手によって使い分け】
守備は昨季からそうですけど、やっぱりハイプレスのクオリティがアーセナルは本当に高いですね。
相手が4−3−3の時のハイプレスの仕組みを説明します。今季特徴的なのが、前線のハヴァーツとトロサールが、相手のふたりのCBを捕まえに行くところ。そうなると中盤がライスとトーマスのふたりに対して相手が3人になり、アンカーが空いてくるんですが、ここはライスが捕まえに行きます。すると後ろが1対2の状況になりますが、ここがやはりライスのよさというか、ひとりで2人を見られるんです。
アンカーに行って後ろに通されたとしても、すぐに戻れるだけの機動力があります。また前に行った時は何度インターセプトしたことか。ここの守備能力が本当に高いですね。
また、相手をサイドに追い込んだ時、空きやすい逆サイドのインサイドハーフは、マルティネッリなど逆サイドのウイングが捕まえる形。相手のインサイドハーフが高い位置をとった時はCBが出てきて捕まえるなど、このあたりもすごく整理されています。
こうなると基本的にはほぼマンツーマンの形なんですが、これによって相手はマークのズレを作りにくく、ビルドアップの際にボールの出口を探しづらくなっています。
もうひとつのプレッシングのスタイルとしては、ハヴァーツがアンカーへのパスコースを見て、トロサールが相手右CBへ。左のCBにはサカが外側へのパスコースを切りながらプレッシャーをかける形もあります。もし、外側の相手(左SB)にパスが出た時には、右SBが縦にスライドして捕まえに行く。こうしてプレスのかけ方も相手によって結構使い分けています。
【4−4−2のブロック守備がいい】
さらに、少し陣形を引いたミドルプレスや、ゴール前を固めるローブロックの作り方。今季のアーセナルがいいのは、この時の4−4−2の形ですね。これはチームの特徴になってきている。自分たちがボール非保持の状態で、ブロックを作っていればやられないという雰囲気がすごくよく見えています。
個々の選手の距離感がいいんですが、基本的には中締めです。サイドの選手も開かない。そうすると相手のボールはどうしてもアーセナルのブロックの外を回すことになります。
そこでサイドに出たボールに対して、たとえば左サイドならカラフィオーリが行くのか、マルティネッリが行くのかの意思疎通がしっかりしています。相手のポケットへのランニングが入った時はライスやトーマスがしっかりついていって、CBのふたりがなるべく釣り出されないようにしている。
このように守備の組織もしっかりしています。そして、こうしたいい守備があるから、守備から攻撃の部分でもマルティネッリやサカ、ハヴァーツによるカウンターアタックが利いています。
攻守4局面がしっかりデザインされていて、使い方にも柔軟性がある。相手によって戦い方を変えて、ボール保持か非保持か選択できる。そうやってスコアや時間帯によって戦い方を全員で共有して選べるようになったのが、今季のアーセナルのよさ、強さですね。