福岡県の山奥に移住、外国人女性と暮らす日本人男性「月15万円あれば妻と子供を養える」――大反響ニュース傑作選

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2024年10月19日 16:21  日刊SPA!

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「天空の茶屋敷」オーナーの坂本治郎さん
過去5万本の記事より大反響だった話をピックアップ!(初公開2022年5月25日 記事は取材時の状況) *  *  *

 コロナ禍で大打撃を受けた宿泊業界。特にインバウンド客をターゲットにしたゲストハウスは、この2年で廃業が相次いだ。しかしそんな苦境の中でも、悠々自適に経営を続けているオーナーがいる。福岡県在住の坂本治郎さん(Twitter:@skyteahouse)だ。

 坂本さんが営む「天空の茶屋敷」は、コロナの影響で宿泊者がゼロになった時期がある。にもかかわらず、彼の生活は貧することなく豊かだという。その背景には、ゲストハウス開業にまつわる特殊すぎる経緯と、田舎ならではの経済事情があった。

◆「田舎に人を呼びたい」海外帰りの青年の挑戦

 福岡県八女市笠原地区の、標高500メートルに位置する一軒の屋敷。一見、何の変哲もないように見える古民家だが、知る人ぞ知る秘境のゲストハウスだ。

 実はこの宿、‟タダで貰った家”を活用して開かれている。一体どういう事なのか。それにはオーナーである坂本さんの生きざまが深く関わっている。

「僕は2015年まで5年間海外放浪をしていて、帰国してから福岡県八女市に移住しました。当時は空き家になっていた祖父母の家に住み、地域の手伝いをしながら食いつないでいたんです。ある程度生活が落ち着いてきてからは、SNS経由で外国人旅行者を泊めてあげるようになりました。バックパッカー時代の縁もあり、移住して一年後には国内外から多くの人が集まる家になったんです」

 田舎暮らしが板につくにつれ、地域の人はもちろん、旅行者とのつながりも増えていった。一年ほどは平和な暮らしが続いたが、地元との関わりが増えるにつれ、田舎特有の問題を目の当たりにする。人口流出による過疎化、農家の深刻な跡継ぎ不足だ。

 地域への訪問者を増やしたい。田舎の魅力を知ってほしい。そう考えた坂本さんは、自宅に集まる外国人旅行者を連れ、「八女茶ガイドツアー」を企画する。この活動こそが、ゲストハウス開業への布石だった。

◆地域の信用を得て、タダで家を貰う

「ガイドツアーを企画した際、地域の重鎮である大橋さんという方とご縁ができました。その方から、ある日『家を貰わないか?』と声がかかったんです」

 その家こそが、現在「天空の茶屋敷」になっている古民家だった。元々の所有者が高齢化により土地を離れてしまったため、取り壊しが検討されていたそうだ。

「大橋さんは『こんな立派な家を壊すのはもったいない。何らかの方法で活用できないものか?』と考え、住んでくれる若者を探していたそうです。そこで白羽の矢が立ったのが僕でした」

 八女茶ガイドツアー以前から、人手不足のお茶農家に若者を紹介していた坂本さん。そうした活動が地元民の信用につながり、古民家を無料で譲り受けることとなった。

 活用方法を考え浮かんだのが、ゲストハウスだった。

「バックパッカー時代の経験を活かして、宿業をしようと決めました。改修には地域おこし協力隊の方々もサポートしてくれて、SNSでの呼びかけもあって多くの人が手伝ってくれたんです」

 大勢の支援を得て生まれ変わった古民家。初めて屋敷を訪れた際のインスピレーションから「天空の茶屋敷」と名付け、2017年に開業した。

◆コロナで売上が激減。田舎ならではの多角経営で乗り切る

 SNSやリアルでクチコミが広がり、国内はもちろん、海外からも注目されるようになった天空の茶屋敷。特に旅慣れた外国人旅行者たちの間では、‟知る人ぞ知る秘境の宿”として人気が広がっていった。

「普通の旅行客が行かないような、ユニークな場所へ行ってみたい。そういう気持ちを持った人のニーズとマッチングしていたんだと思います」

 しかし新型コロナウイルスの感染拡大で、宿の状況は一変する。訪れる外国人が激減したのだ。

「20年の3月から宿泊者数がドーンと減って、6月にはゼロになっちゃいました。GoTo効果で客足が戻ってからは、県内の家族層が見つけて来てくれるようになりましたね」

 それまでメインの客層だった外国人と入れ替わるように、日本人の家族連れが泊りに来るようになった。とはいえ、コロナ前に比べると宿泊者数は減っている。それでも経営面で不安は感じていないという。

◆妻子を養いながら月15万円でやりくり

「小さな宿なので、元々そこまで売上は無かったんです。山奥で自給自足しながら生活する分には困らない程度しか稼いでいませんでした。だから客が減ったとはいっても、別の仕事をすればいいだけなので問題ありません」

 実はお茶農家でもある坂本さん。近隣農家の手伝い賃を含めると、農業だけで生活が成り立つそうだ。また地域に人を呼び込むため、‟一時移住”のシェアハウスも営んでいる。

「シェアハウスは食事付きで月4万円です。赤字にはならないけど、そんなに儲かってはいないですね。儲けよりも、‟人々の生活の営みを提供する”ことが大切だと考えています。ここは人口がどんどん減っている、消滅しつつある集落です。地域に人の足跡や賑わいを生むことによって、新しい訪問者がやってきてくれると思っています。それに生活費だけなら、月15万円も稼げば妻と子供を養っていけますからね」

 3人家族で15万円、都会では考えられない経済水準だ。山奥特有の事情も影響していると坂本さんは語る。

「ここでは都会と違って、見栄のためにお金を使う必要がありません。良い車に乗ったり着飾ったり、そういうのは田舎の価値観と合わないので。だから質素ながらも豊かな生活が送れるんです」

 物欲に振り回されない、自給自足のスローライフ。多角経営のおかげもあり暮らしには困らなかったが、ひとつだけコロナ禍で頭を悩ませた出来事がある。

◆マッチングアプリで出会った外国人女性とスピード結婚

「一昨年の2月にフィリピン人の妻と結婚したんですが、コロナで会えなくて……。宿業よりそっちのほうが大変でしたね」

 当時フィリピン在住だった妻とは、マッチングアプリを通して出会った。結婚前に会ったのは2回だけ。出会ってから半年後、フィリピンで式を挙げた。

「挙式後に僕だけ先に帰国したら、入国制限がかかって妻が日本に来れなくなってしまって。妻に会えない状況は辛かったです」

 制限が解除された時期を見計らい、昨年約一年ぶりに妻を日本へ呼び寄せることができた。結婚相手を外国人に決めたのは、とある理由からだ。

「婚活すると決めた時、『こんな山奥に住める日本人女性は少ないだろうな』と思ったんです。環境はもちろん、昔ながらの古い男女観や文化も残っている土地なので……。だから田舎暮らしに馴染みがあって、違う文化圏から来た外国人の方が、女性側も楽なんじゃないかなって」

 この結婚について、妻側はどう捉えているのだろうか。残念ながら本人に話を聞くことはできなかったが、坂本さんはこう推測してくれた。

「妻は『あなたといるのは居心地が良かったから』と言ってくれています。もしかしたら、経済的な魅力もあったのかもしれません。日本人の中では稼げていない僕だけど、フィリピン人の彼女から見れば、何倍も稼いでいるわけだから。あとは単純に、僕が“それなりに良い人”だからかも(笑)」

◆妻と二人で宿を切り盛り

 ようやく妻を日本に迎えてからは、二人で支え合いながら田舎暮らしを営んでいる。収入のメインであるゲストハウスの基本宿泊料金は、一人一泊3500円。オンライン取材時に画面越しで宿を見せてもらうと、土間や畳敷きの大広間など、古民家ならではの光景が広がっていた。

 間取りを見ると、「フィリピンパブ」「モテ部屋」といった奇妙な名前のスペースも。

「ふざけた名前を付けただけで、どちらもただの個室です。モテ部屋は、‟モテる男の部屋”(笑)。内装は板張りで、友達の大工さんにDIYを頼みました。僕はDIYとか出来ないので、仕事として頼んで、そこで経済を回せたらと思って。フィリピンパブ部屋は飲みスペースです。僕が勝手に名付けたので、妻にはすごく嫌がられていますけどね(笑)」

◆絶景をひとり占めできる露天風呂がウリ

 屋根裏を活用した「忍者部屋」などもあり、宿には遊び心が盛りだくさんだ。個室利用者のみが使える露天ヒノキ風呂では、雄大な自然を眺めながら湯に浸かることができる。

 コロナ以前は屋内外の土地を活用して、さまざまなアクティビティを開催していた。今は時勢を考慮し、イベント事は控えているそうだ。

「このご時世なので、たくさん人が賑わうような活動はできないですね。宿業やイベントは特に頑張らず、来てくれる人だけを受け入れています。それでも、小さくではありますが盛り上がっていますよ」

 宿泊者からのクチコミは上々で、「親戚の家に来たかのような暖かみがある」「ワーケーションで来たが、絶景すぎて仕事が捗らない」といった声が寄せられている。

◆破天荒なオーナーの自由すぎる経営ビジョン

 まだまだ終わりの見えないコロナ禍。坂本さんは今後、どのように宿を切り盛りしていこうと考えているのだろうか。

「宿をいったん人に任せて、僕自身は前代未聞のチャレンジをする予定です。お茶農家として八女茶を売りながら、歩いて日本横断の旅をします。その間、妻と子供は里帰りさせてあげようかなと。そのために今、代理オーナーを探しているところです。既に10人くらい応募が来ています。どうやって選ぼうか悩みますね(笑)」

 自然あふれる環境だからこそ叶えられた、“人とのつながり”で成り立つ自由なオーナー業。お茶の行商を通じて、今度はどんな新しい風を地域に呼び込むのだろうか。坂本さんの今後の活動に注目だ。

<取材・文/倉本菜生>

【倉本菜生】
福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院修了。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。X(旧Twitter):@0ElectricSheep0、Instagram:@0ElectricSheep0

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