ホリエモンがプロデュース 寄付27億円を集めた北海道「人口5000人の町」でフェス開催

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2024年10月19日 21:01  ITmedia ビジネスオンライン

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リフトオフの総合プロデューサーを務める堀江貴文氏(撮影:河嶌太郎)

 北海道十勝地方にある人口5000人の町「大樹町」。宇宙のまちとして知られ、JAXAや民間の宇宙開発企業「インターステラテクノロジズ」をはじめとする宇宙関連企業の集積地となっている。町の東と南が太平洋に面しており、ロケット打ち上げに世界的に適した立地として、1980年代から産業誘致が進んできた。今ではJAXAや大学だけでなく民間の宇宙開発企業が進出している。


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 そんな大樹町で、自然を生かした体験型イベント「リフトオフ」が開催される。主催は2023年10月に大樹町に進出した食品販売企業 「ビショクルfrom大樹町」で、大樹町が後援する。


 リフトオフでは、自然を舞台にした7時間の「アドベンチャーレース」や、野外テントと自然の河川を活用したサウナフェス、大樹町の主要産業になりつつある宇宙関連施設の視察ツアーなどを実施。イベントを通じ、大樹町の新たな魅力発信と、観光産業創出の狙いがある。


 リフトオフは10月25日(金)午後3時から27日(日)の正午過ぎの3日間にかけて実施。1回目となる今回は200人の集客を見込むものの、開催には大樹町ならではの課題があるという。大樹町長やビショクルfrom大樹町、総合プロデューサーを務めるホリエモンこと堀江貴文氏に狙いを聞いた。


●「27億円」の企業版ふるさと納税 なぜ集まった?


 大樹町では航空宇宙産業の誘致を40年にわたって進めており「宇宙のまち」としてアピールしている。今では民間の宇宙開発企業だけでも、堀江氏が取締役ファウンダーを務めるインターステラテクノロジズと、大樹町で民間にひらかれた商業宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」の開発・運営を手掛けるSPACE COTANの2社が本社を置く。日本でもまだ多くはない民間の宇宙開発企業2社が拠点を置くことから、宇宙産業で働きたい優秀な若者が全国から集まっていて、若年層の人口が増えている。


 大樹町の黒川豊町長は「若者が増えたことで、町にも変化が生まれている」と話す。


 「大樹町内では新たに飲食店が複数開業しています。特に数年前にはドラッグストアも進出し、住民の利便性の向上にもつながりました。大樹町はここ半世紀以上にわたって人口が減り続けていましたが、少子高齢化が全国的に進む中、企業誘致により人口増となった年もあります」


 税収面でもその成果が出ている。2022年度の企業版ふるさと納税では、大樹町は全国2位に輝いた。北海道スペースポートのプロジェクト資金としての支援が全国から集まった形で、14億685万円の納税額となった。2020〜23年度の4年度分の寄付額はのべ27億7200万円に上る。黒川町長は「宇宙産業による地方創生や経済活性化に全国の企業が共感した」と手応えを話す。


 このように大樹町では民間を中心とした宇宙産業によって、地方創生にもつながる好循環を生み出している。


●企業誘致から観光創出へ


 企業誘致に伴い、飲食店も進出する大樹町だが、今後新たな産業創出への期待も生まれている。


 「宇宙産業の発展に伴い、出張客が増えたことにより、宿泊施設の部屋数も増えています。2023年には、新たな宿泊施設も町内にできました。今回のリフトオフで、宇宙のまちだけでない、観光面での魅力発信につなげられたらと考えています」(黒川町長)


 北海道は観光業でも栄えてきた歴史があるものの、大樹町内には目立った観光地がなく、スキー場などもない。そのため観光開発が進んでこなかった経緯がある。一方で世界から日本を訪れる外国人旅行者の数は過去最高となっていて、北海道にも多くの観光客が訪れる。そのためコロナ禍が明けた現在は、大樹町を観光地として売り出す格好の機会だ。


●「低コスト化」で定着しやすいイベントに


 地域で新たな観光産業を生み出す場合、1990年代までは箱物のテーマパークを作る考え方が根強かった。同じ道内でも、夕張市の「石炭の歴史村」が好例だ。だが、石炭の歴史村は夕張市の財政破綻の一因にもなり、この方法にはリスクもある。


 そこで現在主流となっている方法が、自然など既にあるものを使った体験型イベントを観光客に提供する方法だ。まさにリフトオフもこのやり方を踏襲している。リフトオフは主にアドベンチャーレースとサウナフェスの2つで構成。アドベンチャーレースではコースを整備し、レース当日にコースアウトしないように監視する人員を配置する形だ。相応のコストで町の魅力を発信できる。


 サウナフェスも、サウナはテントの中にサウナ機器を入れて楽しむテントサウナを用意。かかるコストは機器代と燃料代が中心だ。通常サウナフェスでは水風呂も必要になるものの、水風呂は大樹町内を流れる歴舟川を活用するため、多くのコストはかからない。


 参加地域によって価格差を設けているのもリフトオフの特徴だ。リフトオフの一般参加費用は8000円。一方、大樹町民の場合は75%引きの2000円で参加できるようにした。次いで割引率が高いのが十勝管内の居住者で、半額の4000円でチケットを販売する。それ以外の地域の道民は、25%オフの6000円に設定している。地元住民を最も参加しやすくさせることで、地域の行事として定着させる狙いがある。


 このようにリフトオフは、地域での新たな観光創出型のイベントになっている。このイベントが成功すれば、町の新たな観光資源にもなり得るため、大樹町の期待も大きい。


●オンラインサロンの学習の場に


 リフトオフは町内に住民票を置く、実業家の堀江貴文氏が主催するオンラインサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」の学習の場としても機能している。リフトオフを主催するビショクルfrom大樹町の三原一馬社長もHIU会員の一人だ。リフトオフ自体をサロンの秋季合宿として位置付け、イベントの企画運営を通じ経営を学ぶ機会にしている。そのため、リフトオフの人件費はボランティアで担っている。


 だが観光型イベントを大樹町で始めるにあたり、課題があったという。三原社長は、「大樹町内には宿泊施設があまりなく、数百人を一度に泊められる設備がない。町内のホテルや民泊を最大限に押さえつつ、テント泊も併用しながらの開催とした」と明かす。


 大樹町内の主だった宿泊施設には「ホテル大樹」があり、増えるビジネス需要に対応する形で、2022年に部屋数を増設している 。2023年4月にはトレーラーハウスを活用した宿泊施設「Moving Inn Tokachi 北の森」が新規開業していて、大樹町の宿泊受け入れ可能数は増えた。サウナフェスもここで開催する予定だ。


 このように、大樹町では宿泊キャパシティーが限られているため、第1回リフトオフでは200人の開催規模に限定している。こうした中、イベントを北海道の大自然を楽しめるコンセプトにすることで、テント泊を参加者に受け入れやすくする工夫がある。規模をコントロールすることによって、一カ所に収容可能数以上の観光客が集まってしまう「オーバーツーリズム」にも配慮した形となっている。


 リフトオフの総合プロデューサーを務める堀江氏は「10月の北海道は涼しく、サウナに入ったあとは非常に気持ちがいい季節。運営はHIU会員たちが頑張ってくれている。多くの人たちが参加して盛り上がってほしい」と期待する。


 大樹町民である堀江氏は一実業家として、民間事業者ならではの取り組みを町内で進めてきた。2019年6月には、自身がプロデュースした飲食店「蝦夷マルシェ」、2020年4月にはパンチェーン「小麦の奴隷」、2022年7月には喫茶店「彗星に碧」や家系ラーメン店「堀江家」を開店している。


 これらの飲食店は堀江氏がプロデュースしているものの、実際の店舗経営の多くは、HIU出身者が携わっている。つまり、大樹町の地域活性に役立っているだけでなく、新規事業を通じた人材も育成しているのだ。


●立地の良さをどう生かせるか


 大樹町は企業誘致の面でも、東京からのアクセスの良さをPRしている。黒川町長も「実は大樹町は、東京からのアクセスが良い利点がある」と語る。大樹町から北に30キロのところに「とかち帯広空港」があり、車で移動すれば30分ほどでのアクセスが可能だ。これは同じ道内でも新千歳空港から札幌に移動するよりも10分以上早く、羽田空港から東京駅に移動するのと、さほど変わらない所要時間だ。


 とかち帯広空港から羽田空港へは1日7便就航している。こうしたアクセスの良さは、観光面でも大いに強みになる長所だ。だが、空港から大樹町への公共交通機関の整備が追い付いていない現状もある。


 とかち帯広空港から帯広市内へのバスは多数出ているものの、大樹町への直行バスは定期運行していない。現時点では需要が限られているためだ。定期運行のバスを乗り継いで帯広空港から大樹町に移動しようとすると、車だと30分の移動が、1時間20分ほどかかってしまう。リフトオフの大半の参加者も、空港から大樹町への移動手段を自分で用意する必要があり、ここは運営面での課題といえそうだ。


 この公共交通機関の問題と、大樹町内の宿泊施設の問題さえ改善すれば、大樹町は宇宙産業以外だけでなく観光面でも大きなポテンシャルがあると言える。黒川町長も、「東京に日帰り出張することもある」と言うほど、約4000万人都市圏である東京との距離は近い。


 今後、宇宙産業と観光地としての価値が両輪で上がることにより、大樹町の交通需要と宿泊需要は向上することだろう。宇宙のまちだけではない、大樹町の可能性をより引き出すリフトオフの取り組みに期待したい。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



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