デスクや本棚で、本を立てようとすると倒れてしまう――。そんな小さなイライラを解消する商品がある。リヒトラブ(大阪市)が2022年10月に発売した「1冊でも倒れないブックスタンド」だ。2024年6月にはシリーズ全体の販売数が10万台を突破するなど評判を呼んでいるが、どんな商品なのか。
本製品の特徴は、その名の通り「本1冊でも倒れない」ことだ。本体に並ぶ「ストッパー」と呼ばれる三角形のパーツが、それを可能にしている。本を差し込むと、本の厚み分だけストッパーが上がる。両脇のストッパーは斜めにせり出したままのため、それが支えとなり1冊だけでも安定して立つ仕組みだ。
複数冊を並べて1冊だけ抜き取っても、抜いた部分のストッパーのみが自動で下がることから、残りの本が倒れる心配もない。
リヒトラブのマーケティング担当の中村あおいさんは「これまでにも、『1冊でも倒れない』というコンセプトの商品は市場に存在していたが、ストッパー構造を採用した商品は他にない」と、その独自性を強調する。
|
|
●ピアノの鍵盤がヒントに
開発のきっかけとなったのは、担当者の子育て経験だった。子どもが絵本を片付けようとすると、絵本が倒れて乱雑になってしまう。この問題を解決するために、月1回の新製品提案会議で案を出したところ、「OK」が出たので開発をスタート。
試作を重ねるなかで、アイデアを形にするヒントになったのは、ピアノ鍵盤の動きだという。中村さんは「鍵盤をたたくと段差が生じる仕組みと、本の厚みが開発者の頭の中で結びついた」と説明する。
約1年を要した開発期間の中で、課題のひとつにコストがあった。「これまで市場になかった形状の商品だったので、購入をためらう消費者が多いのではないか」という声があったため、クオリティーを保持しつつ販売価格を下げることに苦心した。
ストッパーのサイズと数の最適化、部品点数の削減など試作を繰り返したほか、パッケージもカラー印刷からモノクロへ変更するなど、細部にわたってコスト削減を図った。
|
|
当初のパッケージでは1色印刷のダンボールを使用し、商品の特徴や使い方を細かく説明するデザインを採用。さらに、販売店には、1台サービスやサンプル用にダミーの本を提供するなど、店頭で取り扱いやすいように販促面でも工夫した。
●計画比の7倍を販売
試行錯誤のうえ、ようやく完成。2022年に販売したところ、どのような反響があったのか。SNSで話題が広がったことに加え、「文房具総選挙2023大賞」など複数のアワードを受賞したことで評価も高まり、認知度と人気が上昇。発売から約1年で計画の7倍以上となる4万4800台を販売した。
当初はシリーズ化の予定はなかったが、ユーザーからの要望に応える形で製品ラインアップを拡充した。現在は5サイズ、2色(最初に発売したスタンダードサイズのみ3色)を展開し、販売台数はシリーズ全体で10万台を突破するヒット商品となった(2024年6月現在)。
最も人気が高いのはスタンダードサイズ、次いでA4サイズ。「もともとファイルメーカーである当社の社員が使ってみて、『A4サイズの雑誌や書類を立てられたらいいのでは?』という声があった」と中村さんは説明する。
|
|
その後、本棚やカラーボックスにぴったり収まる小さなサイズへの要望も出てきたことから、ミニ、ミディアム、スタンダード、A4サイズを展開。ちなみに、両サイドには同じ形のジョイントが付いていることから、どのサイズでも連結して使用できる。
●小物の収納にも役立つ
本やファイル以外に、食パンを立てて保管する人もいるようだ。このほかにも、レトルトカレーや電卓、袋入りの飴など、キッチンやデスク周辺の小物を立てることもできそうだ。「さびやすい部品を使っていないので、キッチン収納アイテムとしても使用できる」(中村さん)
ただし、「倒れると壊れる心配がある電子機器などに使用するのは、おすすめできない」と注意も促す。
現在、シリーズ販売数が10万台を突破したことを受け、新たな施策を検討中だという。そもそもの開発のきっかけが子どもの絵本だったことから、絵本収納用にさまざまな色の展開なども視野に入れている。
小さな工夫が、「ありそうでなかった商品」を生む。「1冊でも倒れないブックスタンド」は、そのようなヒントを私たちに与えてくれる製品だ。本やファイル以外にも幅広い用途で活用できることを考えると、今後も安定的な売り上げが見込めそうだ。
(カワブチカズキ)
|
|
|
|
Copyright(C) 2024 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。