試して分かった新型「iPad mini」 欲張りすぎない進化で絶妙なコストパフォーマンスを獲得

0

2024年10月22日 22:21  ITmedia PC USER

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia PC USER

A17 Proを新たに搭載した新型iPad mini。

 10月23日から販売が始まる新型iPad miniの魅力を、ひと言で表すならば「絶妙」だろう。絶妙なサイズ、絶妙なスペック、絶妙な価格、そしてそれら全て合わさることで生まれる絶妙なバランス。この上なくたくみなのだ。


【その他の画像】


●iPadとしてのスペックを全て満たした上で持ち運びやすいサイズに凝縮


 それだけに「標準iPad」(第10世代)や「iPad Air」、「iPad Pro」といった他の3モデルのように毎年更新されないにも関わらず、辛抱強く次のモデルの登場を待っているファンが少なくない。


 それらのファンには、ここで改めて本製品の魅力を改めて伝える必要もないと思うので、まずはiPad miniを使ったことがない人や、そもそもiPadを使ったことがない人を対象にその魅力を伝えたい。


 iPad miniの8.3型という画面サイズは、6.1型iPhone 16の画面サイズで2.2倍、6.9型iPhone 16 Pro Maxの1.76倍に相当する。iPhoneの画面では1ページ単位でしか見られない電子書籍が、見開きで見られる、ちょうど文庫本を開いたくらいのサイズだ。


 仮に、飛行機や新幹線で映像コンテンツを楽しむとしよう。9型以上の他のiPadでは隣の人までハッキリと見える迫力の大画面で楽しめるが、iPad miniでの体験はもう少し慎ましく、国際線エコノミークラスのシートについたディスプレイくらいの印象だ。それでもiPhoneで動画を見るよりかは、はるかに快適で見やすい(なお、飛行機のディスプレイと比べると画質はiPad miniの方が圧倒的にきれいだ)。


 また、Apple Pencil Proを使うとしよう。メモを取ったり、手書きした計算式を計算してくれる計算メモ(MathNotes)を利用したり、スケッチをしたりといったことも問題なくできる。


 画面の大きいiPadだと、A4サイズの紙に描いている感じなので確かにもっと快適かもしれない。これがiPad miniでは、サイズ的に見開きの手帳に描いているような感覚にはなる。しかし、拡大/縮小やスクロール操作を併用することで、画面サイズよりはるかに大きな絵が描けるところはデジタル機器ならではのアドバンテージだ。


 このように何かを諦めて小さくしたのではなく、何も諦めずに小さくして、どんな用途でも、そつなくこなすのがiPad miniの魅力で、プロセッサも新たにA17 Proを採用したことで、要件的にギリギリではあるが、これからのApple製品の利用で要になると言われている「Apple Intelligence」(日本語対応は2025年以降の予定)にもちゃんと対応する。


 何より、画面のサイズをちょっとだけ我慢したことでiPad miniは他のiPadにはない圧倒的な携帯性と手軽さが備わっている。


 バッグのポケットにスッと収まる小柄なサイズ、長時間手に持って読書をしてもそれほど肩が凝らない重量、こういったことが合わさり、使い始めてみると他のiPadよりもはるかに手に持って使っている時間が長くなりやすく、その分、製品に愛着も生まれやすい。こうして少しずつファンが拡大しているのがiPad miniなのだ。


 しかも、あまり欲張らないスペックに抑えているため、価格も7万8800円(Wi-Fiモデル/128GBの場合)からとiPhoneよりも手頃で、現在、最も安価に購入できるApple Intelligence対応製品となっている。


●欲張らないちょっとずつの進化で手頃な価格を維持


 今回、そのiPad miniで人気のパープルのモデルを先行して試せたので、より詳しく魅力に迫ってみたい。パープルは前モデルのiPad mini(第6世代)にもあった色だが、従来はもっと色が濃く鮮烈な印象だったのに対して、新モデルでは、もっと繊細で薄い色になっている。


 これまでは、どんな光を当ててもハッキリと紫色に見えたが、新モデルでは太陽光など強い光の下では、パーブル味が飛んでシルバーに見える淡さ加減で、光が弱まると紫が現れるという色の表情の変化を楽しめる仕上がりとなっている。


 同じお手頃価格帯のタブレットを見ると、値段が安い分、ディスプレイの質を我慢しているものが少なくないが、Appleは「安い」「便利」で勝負をするテクノロジー企業ではなく、顧客をがっかりさせない品質と、そこから生まれる満足度と愛着で勝負をするブランドビジネスの企業だ。


 iPadの名を冠する以上は、全てのスペックにおいて一定の水準をクリアするように心がけている。


 ほとんどのスペックは基本的に従来のiPad mini(第6世代)と同じだが、ディスプレイも「Display P3」と呼ばれる広色域を表示でき、しっかりと光の反射を抑えるコーティングもされていて見やすい。カメラもSmart HDR 4と呼ばれるダイナミックレンジの広い(明暗差の大きな)写真や、4K(3840×2160ピクセル)動画の撮影にも対応した約1200万画素のもので、ビデオ会議などに使うフロントカメラも超広角の約1200万画素になっている。


 他のほとんどのiPadが、ビデオ会議を意識してカメラ位置をスマートフォリオケースで立てた時に真上に来るように長辺に再配置している中で、iPad miniは相変わらず縦に構えた時に上に来る場所に残したままだ。


 低コストを保つための仕様維持の可能性が大きいが、好意的に考えればiPad miniの軽さを考えると、iPhoneでのビデオ通話のように片手で持って縦の状態で使う可能性もある。


 このように前モデルからそのまま継承したスペックが多い新製品だが、異なっている点を挙げると、下記のポイントに集約される。


・プロセッサ:A17 Pro(以前はA15 Bionic)


・メモリ:8GB(以前は4GB)


・ストレージ容量:128GB/256GB/512GB(以前は64GB/256GB)


・USB接続をした周辺機器のデータ転送速度:最大10Gbps(以前は5Gbps)


・Wi-Fi接続:2倍高速なWi-Fi 6Eを採用(以前はWi-Fi 6)


・Bluetooth:バージョン5.3(以前は5.0)


・ペン対応:Apple Pencil Proに対応(以前はApple Pencil 2に対応)


 外付けストレージなどにデータをバックアップする速度や、対応ルーター下で高速な通信ができるのはうれしい限りだが、Bluetoothのバージョンの違いは、どんな意味を持つのか。


 Bluetooth 5.3は、以前の5.0と比べて混雑したチャネルを回避することでデバイスの接続性を強化し、干渉を軽減したり、信頼性を向上させたりしているのに加え、スリープモードとウェイクアップモードの切り替えをスムーズにして消費電力を大幅に削減、またデータ送信を最適化し、応答性も良くしているという。


 ただし、上記のスペックは使用条件によっても状況が異なり評価が難しいので、性能に関してはプロセッサの性能テストだけに焦点を絞りたい。


 新型iPad miniが搭載するプロセッサはA17 Proで、このモデルから第○世代という呼び方は廃して、「iPad mini(A17 Pro)」というのが製品の正式なモデル名となった。iPad Air(M2)、iPad Pro(M4)といった他のiPadの呼び方にそろえた形だ。


 A17 Proは、2023年登場のiPhone最上位モデル「iPhone 15 Pro」「iPhone 15 Pro Max」が搭載していたのと同じSoCだが、Geekbenchでのテスト結果はiPhone 15 Proよりも少し性能は劣っている。


 一番パフォーマンスが要求されるGPUの性能とAI処理の性能に関しては、誤差の範囲の性能差しかなかったが、マルチプロセッサによるCPU処理が少し遅くなっている。とはいえ、日々の利用に支障が出るレベルの差ではない。


 これまでApple Intelligenceに対応するモデルの最低ラインはiPhone 15 Pro/iPhone 15 Pro Maxとされていたが、それを少し下回る性能のiPad miniが登場したことで、この製品が新たな最低ラインになりそうだ(おそらく今後、新しいiPad標準モデルが登場した際には、iPad miniと同じプロセッサが搭載されるのではないだろうか)。


 しかし、それによってApple Intelligenceの利用に支障が出るのかは、まだ判断できない。これまでのAppleの実績を考えるに、おそらくそうはならないようにソフトウェア仕様の設計をしているはずだ。今回のiPad miniは前モデルから3年ぶりのアップデートだったが、次のiPad miniの登場が再び3年後くらいだったとしても、少なくともそれまではApple Intelligenceを含むApple標準の機能は十分満足して使えると予想できる。


 いずれにせよ、圧倒的な携帯性と愛着を最重視してスペック的には欲張らず、それでも全てをそつなくこなすというiPad miniのプロセッサの選択としては絶妙だったのではないかと思う。


●欲張らない新型iPad miniがApple Pencil Proに対応した理由


 全てがやや控えめな改善で、華やかな新機能の追加が少ない新型iPad miniにおいて、最大の華はApple Pencil Pro(2万1800円)への対応だ。


 Apple Pencilは、もともと鉛筆のような自然な書き味で定評があるが、Apple Pencil Proはそこにスクイーズ(握る)と、バレルロール(回転する)という2つの操作を加えている。


 例えば絵を描いている時、Apple Pencil Proを回転させる(バレルロールする)とペン先のブラシの向きもそれに合わせて回転する。それによって描き出しの太さを変えるなど、まるで本物のブラシで描いているような繊細な表現が可能だ。


 本物のブラシなら、毛先がどの方向を向いているかを見て、描き出しが太くなるか細くなるかを判断するが、Apple Pencil Proの場合は、ブラシが着地しそうな位置にブラシの影が現れるので、これを見て描き出しの太さを判断する。


 Apple Pencil Proに表現力の豊かさを加えてくれるのがバレルロールなら、利便性を加えてくれるのがスクイーズ(握る)操作だ。


 これまでApple Pencilで絵を描いたりする際は、画面の隅にパレットを表示させて、そこからブラシやペンの種類、色などを選んで描いていた。これに対してiPadOS標準のメモアプリなどApple Pencil Proに対応したアプリでは、Apple Pencil Proを強く握る(スクイーズする)と、ペンのすぐ下に円形のパレットが現れる。このためパレットを画面上に表示しっぱなしにする必要がなく、その分、画面を広く使えるのだ。


 まるで画面の小さなiPad miniを前提に作られたのではないかと思うほどに相性が良く、アップデートが控えめなiPad miniで、なぜApple Pencilだけ最上位のProモデルを採用したのかが良く分かる。


 ただし、これは前モデルの第6世代iPad miniから乗り換える際のちょっとしたハードルにもなっている。前モデルで使っていたApple Pencil 2は使えないため、Apple Pencilごと買い換えないといけないのだ。ちょっと損した気分になるかもしれないが、それに見合う満足度を与えてくれるはずだ。


 従来モデルからの更新が少ないように思える新型iPad miniだが、必要なところではちゃんと最新スペックを取り入れている、この絶妙な選択も新モデルの魅力になっている。


 本格的な映像編集や写真の確認/レタッチをメインにしたい人、大画面で映像を楽しみたい人は迷わずiPad AirやiPad Proの方をお勧めするが、iPad miniはフィットする人にはものすごく高い満足度をもたらす製品だ。


 価格的にiPad入門機としてもお勧めなら、数年前の大型iPadを愛用している人向けの携帯性重視の2台目のiPadとして選んでもらってもいいかもしれない。



    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定