「スプラッシュ・マウンテン」になぜ消滅の噂が? 大人気ディズニーアトラクションをめぐる日米の動向を知る

0

2024年10月23日 12:13  ねとらぼ

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ねとらぼ

ずぶ濡れになるあのアトラクションかと思いきや……ライオンの王が!?

 早速ですが、1枚の写真を紹介したいと思います。どこかで見たようなタイプのアトラクション模型、しかしよーく見てみると、あなたのよく知るそれとはちょっと異なることが分かるかと思います。これはれっきとした、ディズニーによる公式の模型。いったい、何なのでしょうか? そこには、かなり込み入った事情があるのではないかと、筆者は推察しています。


【画像】「スプラッシュマウンテン」を変更したアメリカのアトラクション


 本記事で扱いたいのは、東京ディズニーランドで大人気のアトラクション「スプラッシュ・マウンテン」の今後についてです。このアトラクション、たびたび日本で「もうすぐなくなるのではないか?」と語られることが増えてきました。現時点では唯一現存している東京ディズニーランドの「スプラッシュ・マウンテン」は、むしろ海外から注目を集めており、その行く末に心配する方、ディズニーに対して憤る方も少なくありません。


 スプラッシュ・マウンテンの今後については、今では出所不明の内通者によるコメントがSNS上を駆け巡るほど注目が集まっています。その背景は非常に入りくんでおり、事実関係のみでも把握が難しいと思います。そこで、今回は表に出てきている事実をキーとして、最後にほんの少し私見を含めた未来予測をまとめてみたいと思います。


 結論から先に言ってしまえば「スプラッシュ・マウンテンは、いつかはこの世から消える。でも、今じゃない」といったところです。では、そこに至るまでの道のりをともにたどってみましょう。


●基になった映画「南部の唄」をディズニーはどう捉えているのか?


 「スプラッシュ・マウンテン」の去就が注目されているのは、実はかなり昔から。このアトラクションは映画「南部の唄」(1946年公開)を基にしており、作中で語られるリーマスおじさんの寓話部分をアトラクションにしています。


 この作品は公開直後から(アメリカにおけるBlack Lives Matter運動や日本における“ポリコレ”騒動よりもはるか昔から)人種差別の面で問題を抱えており、アメリカではホームビデオリリースがされておらず、かつディズニーの配信サービス「Disney+」でももちろん配信されていません。実は日本ではレーザーディスクやVHSでリリースされていたこともあり、一時は海外のコレクターがこれを買い集めた時期もありました(私もレーザーディスク版を所有しています)。


 多くの方はもうこの作品を見ることができないため、同作の問題に関しては本記事では触れません。ディズニーとしてこの作品をどう見ているかについては、私が知る限り20年以上前から株主総会で株主より本作のリリースがないか、という質問が頻出しており、その都度予定はないと回答しています。


 実は今も、ディズニー長編アニメーションの一部では、同じように「時代にそぐわない」シーンが含まれる作品が多数存在しています。その中には東京ディズニーシー「ファンタジースプリングス」でテーマエリアになっている「ピーター・パン」や、東京ディズニーランドのアトラクションとして存在する「ダンボ」もあります。これらの作品ではDisney+で、現代には合わないシーンが存在していることをかなり長い時間、アドバイザリテキストで説明するようになっている上に、子ども向けプロファイルではそもそも見られないようになっています。


 2020年にはディズニーが「Stories Matter」というページを公開しています。問題のあるシーンが含まれる「おしゃれキャット」「ダンボ」「ピーター・パン」などを例示し、これらシーンに関して解説を加えています。これを見るとアメリカにおいていったい何がマズいのか、なんとなく分かるのではないでしょうか。個人的にもダンボのカラスたちが行う「ジム・クロウ」のポーズは、その背景を知ったあとはドキッとするようになりました(そのシーンは一部の国の配信からカットされています)。


 つまり、「問題があっても日本では注意書きしておけばいいのでは?」という解決策は、他の作品では既に行っており、ディズニーは「南部の唄」ではそれは通用しないほど問題だと考えている、と捉えることができます。上記ディズニー自身が反省を含めまとめているであろう、「Stories Matter」のページでも「南部の唄」は一切触れることができておらず、ディズニーにとっても大変扱いにくい作品であることがうかがい知れます。


●東京ディズニーリゾートでも見え始めてきた“笑いの国”への旅の終わり


 2022年、東京ディズニーリゾートでもその動きは見え始めてきます。ねとらぼでもパーク内で「南部の唄」のBGMが削除されたことが記事になっていました。


 「スプラッシュ・マウンテン」に関しては、2020年6月ごろから本格的な“対応”を把握していました。南部の唄をモチーフにしたアトラクション「スプラッシュ・マウンテン」は、かつてカリフォルニア ディズニーランド・リゾート、フロリダ ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート、そして東京ディズニーリゾートの3つが存在していました。しかし、東京以外の2つのスプラッシュ・マウンテンがテーマを変更し、映画「プリンセスと魔法のキス」をモチーフにしたものに変わるというアナウンスが行われます。このアトラクションは後に「ティアナのバイユー・アドベンチャー」と名称が発表され、フロリダでは2024年6月28日にオープン、カリフォルニアでは2024年11月15日にグランドオープンを迎えます。


 オフィシャルの動画として、フロリダ版の様子がほぼ全編公開されています。これを見ると、ほぼ現在のスプラッシュ・マウンテンと構成が変わらないことも分かるかと思います。このことから、残る東京版はどうなるのか、というのが注目されています。


 加えて、ディズニーは「南部の唄」の痕跡をパークから消し去ろうとしています。劇中に使用されている「Zip-A-Dee-Doo-Dah」や、「Everybody has a Laughing Place」などの楽曲の使用も、世界のパークで修正され始めます。


 2022年1月にはディズニーランド・パリのパレード「Disney Stars on Parade」で「Zip-A-Dee-Doo-Dah」のメロディがカット。2022年3月にはフロリダのマジック・キングダムで行われているパレード「Disney Festival of Fantasy Parade」から、「Zip-A-Dee-Doo-Dah」およびダンボの「When I See An Elephant Fly」がカットされました。カリフォルニアでもパレード「Magic Happens」から「Zip-A-Dee-Doo-Dah」がカットされています。


 パレードで使われていた歌詞だけでなく、メロディすらカットするという徹底ぶり。フロリダでは資料館のようなアトラクションから、つい先日そのアートすらも削除されたことが話題になっています。もはやその痕跡をパーク内に見つけることも難しいのが、海外の状況です。


 実は海外のパークでは、「カリブの海賊」のオークションシーンや、「ロジャー・ラビットのカー・トゥーン・スピン」で縛られたジェシカ・ラビットが自動車トランクに詰められたシーン、そして「ピーター・パン空の旅」のインディアンのシーンなど、内容がアップデートされるということが続いています(どれも日本では未変更)。開園当初から存在するシーンもアップデートの対象となっており、この意味では“聖域”はなく、不適切なシーンは現代に合わせてアップデートしていることが分かります。


 これらを考えると、状況証拠としては映画の影響を色濃く残す東京の「スプラッシュ・マウンテン」は、まず間違いなく今後リプレース、もしくはテーマ変更が行われることは想像に難くありません。


●しかし、それは今ではない?


 ただ、それを実行するには、相当な時間がかかるであろうという情報も合わせて記しておきたいと思います。その兆候は、2024年8月に開催されたディズニーファンのためのイベント「D23」で発表されました。それが、冒頭に紹介した謎の模型写真です。


 “究極のディズニーファンイベント”と称して開催された公式のイベント「D23」では、世界のディズニーパークに関する、将来の計画を大々的に発表しました。その中で個人的に大注目したのは、東京ディズニーリゾート……ではなく、遠くのディズニーランド・パリにおける新発表です。


 ディズニーランド・パリの第2パーク「ディズニー・アドベンチャー・ワールド」(現:ウォルト・ディズニー・スタジオ・パークが名称変更する予定)では、新たなアトラクションとして、映画「ライオン・キング」をテーマにしたボートライドを新設することを発表しました。アニメ版をベースとし、最後はプライドランドの急流にボートが落下するというイメージのアートと、会場にその模型が公開されていました。


 見ていただくとお分かりのように、明らかにベースとなるハードウェアは「スプラッシュ・マウンテン」そのものといえます。が、ディズニーランド・パリにはこれまでスプラッシュ・マウンテンが存在していた訳ではなく、驚くべきことにこれをゼロから作り出すことになります。


 ここからはあくまで筆者の私見でしかありませんが、この発表を聞いたときに違和感を覚えるとともに、これはもしかしたら何かを再利用した案なのでは? と感じました。


 あるパーク向けに計画をしたものが流れてしまったとき、それが他のパークで現実になることはこれまでもいくつかあり、例えば当初東京ディズニーシーを拡張しようとした「北欧」をテーマとした新テーマポート構想(2015年)の基本構成は、ほぼそのまま香港ディズニーランド、そしてディズニーランド・パリの「World of Frozen」に引き継がれています。


 この想像を前提とすると、もしかしたらパリに作られる「ライオン・キング」テーマのアトラクションは、どこかのパークが蹴った案だったのでは? と考えることもできないでしょうか。


 東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、東京ディズニーリゾートに作られる要素のクオリティーに関して厳しいことで知られており、東京ディズニーシーの構想前にはディズニー本体から、映画スタジオをベースにしたテーマパークを打診されたものの、あくまでそれは二番煎じであり日本人には合わないと判断し、当初の検討作業をちゃぶ台返ししたという記録が残っています(オリエンタルランド代表取締役 取締役会議長の加賀見俊夫氏の著書「海を越える想像力」を参照)。


 つまり、ディズニーの提案をそのままを採用することは少なく、いくつもの案が却下されたと考えると、カリフォルニア、フロリダでテーマ変更された「ティアナのバイユー・アドベンチャー」、および「ライオン・キング」テーマのアトラクションも、どちらもオリエンタルランドのOKが出なかったのではないか、と推測しています。


 裏を返すと……世界の「スプラッシュ・マウンテン」刷新作業は、東京を含めディズニーのイマジニアリングがストーリーと模型を作るレベルにまで進んでおり、かつそれが却下されて他のパークで受け入れられる、というとこまでの時間が経過しているという、現在進行形の作業であることも把握できるかと思います。そのため、未来永劫東京だけは「スプラッシュ・マウンテン」が残るとも全く思えないというのが、私自身の考え方です。


 ただ、2028年まで新生「スペースマウンテン」はオープンせず、さらに10月末で「バズ・ライトイヤーのアストロブラスター」がクローズすることを考えると、パーク自体のキャパシティ減を引き起こす、Eチケット級のアトラクションを今クローズできないという事情もあります。


 安心してほしいのは、オリエンタルランドほど日本のテーマパークを理解している企業はなく、ファンの嗜好を理解し、最も素晴らしいものを持ってきてくれるであろうという信頼がある点です。ティアナもシンバもストーリーとしてはよいかもしれませんが、あのスプラッシュ・マウンテンを置き換える力が日本にあるかというと判断が難しいでしょう。


 かつてディズニーのCEOだったボブ・チャペック氏は、ある講演のなかで「ウォルトは、彼が作ったパークをディズニーの歴史を見るための博物館にしようとは考えていないだろう。パークは時代とともに、そしてゲストとともに進化する生き物だ」と述べていました。ファンからは嫌われていたCEOでしたが、この言葉だけは心に残っています。


 私自身は「スプラッシュ・マウンテン」の行く末を楽観的に捉えています。そして、これまでと同様に新しいエンターテイメントで「驚かせてくれたまえ!」と、脳内のイーゴが叫んでいます(『レミーのおいしいレストラン』)。いま、ディズニーのテーマパーク事業はノリにノっています。まだ見ぬ未来を一緒に夢みようではありませんか。


●筆者紹介


宮田健:IT系メディアの編集者を経て、現在は独立しエンタープライズ系ITのライターとして活動する傍ら、広義の“ディズニー”を追いかけるディズニージャーナリストとして、個人でできる範囲の活動を行う。ディズニーを中心とした情報を集める個人サイトdpost.jpを運営。



    ニュース設定