【ドラフト2024】12球団から調査書! 神戸弘陵・村上泰斗の火の玉ストレートの秘密にラプソードのデータで迫る

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2024年10月24日 07:21  webスポルティーバ

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 いよいよドラフト会議の日を迎えた。全国数多のドラフト候補のなかで「無印」から駆け上がったといえるのは、神戸弘陵高の最速153キロ右腕・村上泰斗だ。

 今夏の兵庫大会では惜しくも2戦目の西宮今津戦で敗れてしまったが、初戦では飾磨工を相手に9回途中までノーヒットピッチングの11奪三振。西宮今津戦でもビハインドの8回無死一、二塁で緊急登板すると、打者6人から5奪三振のパーフェクト救援。そのストレートの球筋はまさに浮き上がる火の玉。本人も憧れの投手に掲げる藤川球児を彷彿とさせるものだった。

 自身、チームともに不完全燃焼で終わってしまったが、8月にはトレーニングを再開。連日のようにスカウトがブルペンの視察に訪れた。複数の球団が弾道測定分析機器「ラプソード」を持参し、村上の投球のデータを測定していったという。

 そこで村上は「ストレートの平均2500rpm」というウソのような数字を叩き出した。「rpm」とは、1分間あたりの回転数。NPBのプロ野球選手でもストレートの平均は2200rpm程度。MLBの公式データサイト「Baseball Savant」のデータによると、今季「ホップするフォーシーム」が話題になった今永昇太でも平均回転数は2442rpmだった。

 球速と回転数には正の相関関係があるが、村上は145キロ前後の球速でも2500rpmをコンスタントに叩き出す。これは145キロ前後の球速帯の「上限」に限りなく近い回転数であり、ラプソードを持参した球団のスカウト陣はぶったまげたはずだ。

【分析画面で見る驚異的なスタッツ】

 神戸弘陵ではラプソードを自前でも導入しており、これまでの分析データが蓄積されている。そのなかの1球のデータを借りてきたが、見る人が見ればすさまじい数字だということがよくわかるだろう。

「143.8キロ−2618rpm」の球速と回転数もさることながら、注目は「EFFICIENCY」の項目。これは「回転効率」を示す値でストレートの正回転に近いほど、パーセンテージが高くなる。この球では「98%」となっているが、村上のストレートは「97〜100%」がアベレージ。端的に言うときれいなストレート回転で、それだけホップ成分も増す。

 右側には変化量を示すグラフがあるが、村上のストレートは縦方向に「57.7cm」変化している。一般的にストレートの縦の変化量は40cm程度。一般的なストレートに比べ、村上のストレートは「17.7cm」も浮き上がっている。

 今夏、村上はかすりもしない空振りを何度も奪ってきたが、それは高校生にとって見たことのない「火の玉ストレート」だったからだ。

【投手・村上泰斗を誕生させた神戸弘陵の寛容性】

 えげつない球筋を見せ付け、もはや隠し玉ではなくなった村上だが、中学時代、大阪箕面ボーイズでのメインポジションは捕手。高校に入ってから本格的に投手に転向した。

「中学のチーム関係者から肩が強いキャッチャーがおるんやけど......と紹介されたのが村上でした。本人と面談してみたら、高校ではピッチャーをやりたいと言うので、『おお、ええよ』と。それがピッチャー・村上の始まりでした」

 そう語るのは、神戸弘陵・岡本博公監督だ。村上の同学年には兵庫夢前ヤングでタイガースカップを制した松本奏がおり、正捕手候補に困っていなかったチーム事情もあるが、「やりたかったらやったらええやん」は、岡本監督の指導の特徴だ。

 1年秋、村上は135〜136キロの球速をマークし、練習試合ではAチームで投げることも増えたが、公式戦ではベンチ外。まだ、投手として信頼できる実力はなかった。

【脱力のスイッチを入れたカットボール】

 2年春にようやく公式戦デビューを果たすと、6月には152キロを計測。しかし、夏の兵庫大会では5回戦で坂井陽翔(現・楽天)を擁する滝川二に敗れてしまう。

「ストレートは速いですが、抜け球も引っかかりも多くて、ただ速いだけ。練習試合でも4〜5回で100球ぐらい使うし、常に力んでましたね」

 岡本監督の懸念は「力み」だった。当時の村上は確かにストレートは速かったが、コントロールがバラつき、突然の乱調も多かった。カーブやチェンジアップなどの変化球の筋が良かったのである程度は抑えられてはいたが、いざとなったらストレートが入らない。典型的な「振らなきゃ勝てる」投手になりかけていた

 夏の敗戦後、岡本監督が提案したのはカットボールの習得だった。

「本音はストレートを抑えろと言いたかったですが、スピードという村上の良さを消しかねない。そこで滝二の坂井のカットボールを引き合いに出して、ああいう『楽できる球』があればええなと話しました」

 もともと器用な村上はすぐにカットボールを習得。徐々に楽をする投球術を身につけていったが、秋も兵庫県大会3回戦で敗退。この時点ではドラフト上位は夢のまた夢だった。

【最後の調整で無敵の好投手に】

「終わったと思いました」

 3年春の練習試合解禁日。10球団のスカウトが集まるなか、報徳学園を相手に制球を乱して3回4失点。3年生となった村上の初戦は散々な内容だった。

「正直、今朝丸に勝ちたい、報徳に勝ちたい、いいところを見せたいと思って力みまくりました」

 村上は2年時から常々、「兵庫県でナンバーワンの投手になりたい」と目標を語っていた。すでに甲子園でも結果を残し、ドラフト上位候補に名を連ねていた今朝丸裕喜との投げ合いで悪い部分が出てしまったのだ。

「今朝丸とえらい差がついてしもたなぁ」

 岡本監督は試合後、村上にそう告げた。発破をかけるというよりは「ホンマに思ったから言った」。村上はこの日を境にあらためて、「脱力」を意識するようになった。

「それまではスピードを出そうという思いが先行して、左腕を高く突き上げていました。キャッチボールのときから意識して平行に降ろしていくと、だんだんコントロールが安定するようになったんです」

 6月25日、三木山球場で行なわれた生光学園とのナイターの練習試合。村上の最後のピースがハマった。生光学園には同じくドラフト候補の右腕・川勝空人がいることもあり、10球団約40人のスカウトが集まるなか、村上は会心の投球を見せた。

 ストレートを投げればバットはことごとく空を切り、カーブも面白いように決まる。チェンジアップは観客全員を前に倒さんばかりの急ブレーキ。3回までに8奪三振、5回11奪三振無失点の好投を見せ、バックネット裏のスカウト陣の目を一気にギラつかせた。

 もともと変化球はよかっただけに最後の最後で滑り込みの大成長。夏の大会前の最終試験ともいえる一戦で、村上は「視察する価値有り」の評価を通り越し、「ドラフト上位候補」に飛び級を果たした。この日の投球を村上は「野球人生で一番のピッチング」と語った。

 浮き上がるストレートもさることながら、じつは村上の第二の武器はチェンジアップ。しかし、夏の兵庫大会では「隠し玉」にしたまま、敗れてしまった。最後の最後で完成した異次元のシナジー。一軍の大舞台で披露する日を楽しみに待ちたい。

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