小さな前輪駆動の電気自動車「アベンジャー」のジープらしさとは?

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2024年10月24日 08:11  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
ジープ初の電気自動車(BEV)「アベンジャー」が日本で発売となった。小さくて、前輪駆動で、電気で走るクルマと聞くと、はたしてジープらしさはあるのかと少し心配になってしまうのだが、実際のところは? 実物に試乗して「らしさ」を探ってきた。

BEVは個性が出しにくい?

アベンジャーの発表会に登壇したステランティスジャパンの打越晋社長によると、「日本市場ではジワジワとはいえBEVの販売台数が増えてきており、特に輸入車の伸びがよく、その中でもSUVタイプが59%(2023年)を占めていて、販売増に貢献している」という。

一方で、BEVが持つスムーズな加速性や静粛性は基本的には全て同じで、クルマの個性が出しにくいという点もはっきりと認めた打越社長。ただ、「アベンジャーは違うんです」との話だ。アベンジャーはジープというブランドを象徴する、ユーザーの探究心や冒険心を呼び起こす、走りを楽しめるSUVタイプのBEVであるとの説明だった。

どんな仕上がりなのか、実物に試乗してきた。

デザインで探すジープらしさ

ボディサイズは全長4,105mm、全幅1,775mm、全高1,595mm、ホイールベースは2,560mmとブランド最小。程よいコンパクトさが印象的だ。日本国内での使い勝手のよさが容易に想像できる。

エクステリアでは、ヘッドランプより前面にせり出す「7スロットグリル」によって、すぐにジープのモデルであると識別できる。全体のデザインはバリバリのオフロードモデルである「ラングラー系」ではなく、「グランドチェロキー」や「コマンダー」を筆頭とする都会派SUVの流れを汲むスマートな雰囲気だ。

リアのシグネチャーライトは「X」型に光る。このデザインは「ジェリー缶」(元は第二次世界大戦中の北アフリカ戦線でドイツ軍が使用していた20Lの燃料缶「X」のデザインがルーツ。それを模倣して、米英軍が使用するようになったという)からインスパイアされているらしい。

インテリアはシンプルなブラック一色。横長の10.25インチタッチパネルモニターの下に並んだ空調スイッチ、右からD/B、N、R、Pと並ぶボタン式のシフトスイッチ、ドライブモードスイッチ、センターコンソールの大きめの収納スペースなどのデザインは既視感があると思ったら、同じステランティスからデビューしたばかりのフィアット「600e」とほぼ同じ仕様だ。同じといえば、シャシーも「600e」やプジョー「2008」と共通している。

アベンジャーは最高出力115kW(156PS)/270Nmを発生するモーターで前輪を駆動するFFのクルマ(4WDではない)だ。54.06kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載しており、フル充電の航続距離は486kmとなっている(同じバッテリー容量の600eは493km)。もちろん、普通充電と急速充電に対応する。

過酷な道も走破できる?

走りの特徴としては、ジープブランドの前輪駆動車として初めて「Selec-Terrainn」(セレクテレイン)を装備している。6つの走行モードがあり、日常ドライブの「ノーマル」、航続距離が伸びる「エコ」、高出力でドライブを楽しむ「スポーツ」のほか、雪道でトラクションを保つ「スノー」、泥道でグリップ力を高める「マッド」、砂地用の「サンド」が選べる。

さらには、急な下り坂で一定速度を保てる「ヒルディセントコントロール」も装備。担当者によれば、アベンジャーは4WDではないものの、電動車ならではのトルクコントロール性能とセレクテレインによってけっこう過酷な場所まで到達できる能力はあるとのこと。さすがはジープブランドのBEVだ(悪路は未体験だが)。

都内の一般道や首都高での走りは、当初の想定通り静かで滑らかでけっこう速かった。ストップ&ゴー機能付きACCを渋滞中に使ってみると正確に作動し、最新のBEVであることがわかる。

ワンペダルのBモードは完全に停止するタイプでない。ブレーキを踏んで止まったり、アクセルペダルを踏んで走り出したりする場面では、「クッ」という感じでちょっとだけ乗員にショックが伝わってくる。また、直進性はとても良好なのだが、例えばスピードを上げてレインボーブリッジのコーナーを回る時には、ステアリングの復元力が強めに感じられる点が気になった。好みの問題かもしれないが、このあたりはチューニング次第でもうちょっとよくなりそうな予感がする。

少し前に京都から東京まで一気乗りした北欧デザインのボルボ「EX30」をはじめ、同じステランティスグループのカワイイ系(失礼!)「600e」や今回乗った「アベンジャー」など、BEVの最新コンパクトSUVはどれも個性派ぞろい。補助金込みで500万円前後になる価格や使用環境が許すのなら、検討する価値は大きいのだ。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)

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