ウナギ・サヤカが語るスターダム解雇とその後 全日本プロレスへの参戦、長与千種の指導などで大飛躍

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2024年10月24日 10:01  webスポルティーバ

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■『今こそ女子プロレス!』vol.22

ウナギ・サヤカ インタビュー  前編

 "極彩色に翔ける傾奇者"ウナギ・サヤカ――。プロレスを"踏み台"にするつもりで、芸能界からプロレス界入り。2020年、「スターダム」に入団してからはスター選手のひとりとして大活躍。2022年10月にフリーになってからも人気は衰えることなく、わずか1年3カ月後には後楽園ホールで自主興行を行ない、超満員札止めにした。メディアに取り上げられることも多く、今、世間で最も認知度の高い女子プロレスラーと言っても過言ではない。

 一方で、その人気を妬むアンチも少なくない。かく言う私もそのひとりだったかもしれない。血の滲むような努力をしているにも関わらず人気が出ないプロレスラーを数多く見ているなか、どうしても彼女の人気を心から喜べない自分がいた。

 しかし今年9月2日、後楽園ホールで開催された2度目の自主興行。第1試合で入場した彼女の背中を記者席から見た瞬間、涙がとめどなく溢れてきた。無数のペンライトが彼女の眼前に煌々と広がっている。これだけの人をたったひとりで集めた。その事実と、この美しい景色を否定できる者は誰もいないと思った。気づいたら彼女に惚れていた。

 目標は東京ドームでの自主興行。前代未聞の馬鹿げた話だが、「ウナギ・サヤカなら実現させるかもしれない」と思わせる。来年4月には、両国国技館で自主興行を行なう。それもあくまで、東京ドーム大会を見据えての開催だ。彼女は本気なのである。プロレスに対しても、人生に対しても。

 ウナギ・サヤカはどこから来て、どこへ行くのか。フリーになってからの彼女の軌跡を追った。

【スターダムを解雇され、"ギャン期"に突入】

 2022年10月3日、自身のYouTubeチャンネルで、「ギャン期」と称し、他団体参戦をメインに活動していくことを発表した。"ギャン"とは彼女がよく使うオリジナルの言葉で、挨拶だったり感情の高まりだったり、いろいろな意味を表す。"アロハ"みたいなものだという。

 当時、スターダム所属のまま他団体に参戦するのか、フリーになるのか、ファンの間でさまざまな憶測を呼んだ。ウナギに真相を尋ねると、「今だから言えますけど、スターダムをクビになりました」と言う。

「『クビ』ってマイナスにしか捉えられない表現だったので、それは言いたくなかった。笑い話にできるくらいになった時に言おうかなと。今はもう笑い話ですね」

 人気絶頂のなか、スターダムを解雇されたのはなぜだったのか。「マジでわからない」としながらも、彼女なりに思うところはある。

「東京女子(プロレス)からスターダムに入って、毎回ボッコボコにやられていたし、ついていくのに必死だったんですよ。ベルトも巻いたけどまったく余裕がなくて、今思えば自分のことしか考えられなかったし、それによって傷ついた人がいたことにすら気づけていなかった」

 当時のスターダムは、女子プロレス界において一強。スターダムにいれば試合数も生活も、スターになれるということも保障されている。そんなスターダムを解雇され、ウナギは「終わった」と思ったという。自分のプロレスはここで終わりだし、他でこれ以上の存在になることは無理だろうと。

 しかし、プロレスをやめるという選択肢はなかった。「人生を賭けられるものなのかもしれない」と思い始めた頃だったからだ。フリーになるのは不安で仕方なかったが、ギャン期という名前に変えて、プラスに変えることができたなら......。とにかく、どこに行っても一番話題にならなければいけないし、それができなかったら本当に自分の人生は終わる。そんな崖っぷちの心境だった。

【「強い人と闘いたい」という純粋でシンプルな闘争心】

 気持ちが切り替わったのは、10月16日、ディアナ後楽園ホール大会のメインイベント。ギャン期に入って2戦目のことだ。ウナギ・サヤカ&佐藤綾子&中森華子&ななみ vs. 井上京子&井上貴子&神取忍&タイガー・クイーン。そこで神取忍の入場シーンに衝撃を受けた。

「入場曲がかかると、お客さん全員が『神取忍を待ってます』みたいな感じになって。人をこんなにワクワクさせられるなんて、『すげえな、プロレスラー!』って思ったんですよ。スターダムでは『勝たなきゃ、勝たなきゃ』って思ってたけど、(2022年7月30日開幕の)5★STAR GPを2勝10敗で終えて、『(プロレスで大事なのは)勝たなきゃとか、そういうんじゃないんだろうな』と思い始めたところでの、あの試合。これは、楽しまなきゃ損だと思いました」

 神取はLLPW-Xの代表取締役を務めているが、レスラーとしての試合数は少ない。年に何人かしかいない対戦相手のひとりに選ばれたことに、ウナギは高揚した。しかも井上京子、井上貴子、タイガー・クイーンという超豪華なメンバーだ。ただただ楽しくて仕方がなかったという。スターダムに対して、「私はもうこの人たちとやってますよ」と見せつけたい気持ちもあった。

 11月20日、センダイガールズプロレスリング(以下、仙女)後楽園ホール大会で、橋本千紘&優宇の「チーム200キロ」と1vs.2ハンディキャップマッチに挑んだが、惨敗。その後、橋本とシングルマッチを行なったが、プロレス史上、稀に見るボロ負けだった。

 コロナ明けの仙女後楽園ホール大会。橋本はメインイベンターを務めたが、空席が目立ち、試合後のマイクで涙を流すひと幕があった。ウナギはそのシーンがずっと頭から離れなかったという。

「"強さの象徴"みたいな人なのに、『あんなに強くても、そんなことで泣くんだ!』と思ったんですよ。あの日に初めて、橋本千紘の人間っぽいところが見えた気がして、闘ってみたいと思ったんです。『チーム200キロ』とのハンディキャップマッチは、ギャン期のなかでマストでした。あんなに怖い思いをすることはなかなかないけど、本当にやってよかった」

 ギャン期の当初、「スターダムに戻りたい」という気持ちがあった。スターダムに向けて試合をしているようなところもあった。しかし次第にウナギのなかで、「強い人と闘いたい」というプロレスラーとしての純粋でシンプルな闘争心が生まれていった。

【全日本への参戦後、長与千種から「あなたを鍛え直したい」】

 2023年2月19日、Twitter(現X)で舌戦を繰り広げていた、諏訪魔が所属する全日本プロレス後楽園ホール大会に来場。全日本ファンから大バッシングを受けた。「老舗のメジャー団体に女子が上がるのが許せない」という土壌があるなか、「諏訪魔を査定してやる」の第一声が観客のヒートを買った。それでもウナギはバッシングを気にする様子もなく、全日本に参戦を続けた。

「私も昔のプロレスで言ったら全日本が一番好きだったし、そこに女が上がるってあり得ない行為じゃないですか。でも、やっぱりそこで闘いたいってことは、諦めなくていいと思ってるんですよ。叩かれようが叩かれまいが関係ないですね。全日本はめっちゃ楽しかったです。昔から一貫して全日本プロレスを信じてきたファンの人たちの気持ちも熱いし、すごい場所でしたね」

 全日本に参戦したことで、ウナギの試合勘はどんどんよくなっていった。そんな彼女の素質をスターダム時代からいち早く見抜いていた人がいる。マーベラス代表の長与千種だ。3月26日、マーベラス横浜大会の試合後、長与はウナギに「あなたを鍛え直したい」と言った。それからマーベラス道場でのトレーニングがスタートし、今でも長与にアドバイスをもらうことがある。

「受けがどうとか、技がどうとかじゃないところも、長与さんにはすべて見抜かれている。自分のなかでちょっと迷いがある時は、『おまえ、今あれだろ』と言われます。見ているのか、感じ取るのか......。わからないですけど、怖いですね」

 5月3日、ZERO1高田馬場大会に、頸髄損傷で長期欠場中の大谷晋二郎が来場。大谷はウナギに「僕はあなたが火祭りに出たら面白いと思います」と、ZERO1真夏のリーグ戦・火祭りへの参戦を打診した。火祭りに女子レスラーが参加したことは、これまで一度もない。前代未聞の打診にファンはどよめいたが、一番驚いたのはウナギ自身だった。

「『え、マジ......?』と思いました。でもその日、私がご挨拶に行こうとしたら、その前に他のレスラーがみんな大谷さんと喋りたくて、『大谷さん! 大谷さん!』みたいになっていて。レスラーとして本当に愛されているんだなと思ったし、すごくしんどいはずなのに、ファンや取材陣に対して一生懸命お話しされていて、カッコいいなと思ったんですよね。それであれを言われたら、もう断れないですよ。『叩くなら大谷を叩いてくれ!』と思いました(笑)」

【火祭りを乗り越え芽生えた「なんでもできる」という自信】

 7月2日より、火祭りに参戦。リーグ戦は全敗に終わったが、非公式戦を含め、男子選手6人と短期間に対戦し、離脱することなくシリーズ完走を果たした。世界の田中将斗とも対戦し、田中の必殺技・スライディングDを勝手に譲り受け、「スライディングTANAKA」と命名。自分の得意技にしてしまうなど、話題に事欠かなかった。

 火祭りを通して「強くなった」「巧くなった」という実感はなかったが、「あれを乗り越えたからなんでもできる」という自信が芽生えた。なにより子どもたちが応援してくれたのがうれしかったという。

「それまでキラキラした会場で花道を歩いて入場していたけど、火祭りでは屋外で普通に人が通りかかるような場所で試合をしたんですよね。子どもがいて、おじいちゃんがいて、『これが本来のプロレスなんだろうな』と思いました。やってよかったなと本当に思います」

 小橋建太プロデュース興行「Fortune Dream8」にてKAIRIとシングルマッチを行ない、火祭り開催中にアジャコングと「プラズマ爆破マッチ」を行ない、大仁田厚と「トルネードバンクハウスメガトン電流爆破デスマッチ」も行なった。10月には日米の女子プロレスをミックスした「KITSUNE WOMEN'S WRESTLING」で初代シングル王者に輝いた。

「スターダムに戻るために活躍したい」という思いは、気づけば微塵もなくなっていた。彼女のプロレス人生は、フリーになってわずか1年で自身の想像を遥かに超える壮大なものになったのである。

(後編:「東京ドーム自主興行」を目指して 人生賭けて応援してくれるファンのためなら「私はなんだってやる」>>)

【プロフィール】
■ウナギ・サヤカ

1986年9月2日、大阪府生まれ。2019年1月4日、東京女子プロレス後楽園ホール大会にて「うなぎひまわり」としてデビュー。2020年11月、スターダムに初参戦。コズミック・エンジェルズを結成し、12月、アーティスト・オブ・スターダム王座を戴冠。2021年7月、フューチャー・オブ・スターダム王座を戴冠。2022年10月よりフリーになり、"ギャン期"と称して多団体に参戦。2023年10月、KITSUNE世界王座の初代王者、2024年1月6日、JTO GIRLS王者、1月7日、アイアンマンヘビーメタル級王者となり、三冠王となる。2024年1月、9月、後楽園ホールにて2度の自主興行を開催。168cm、54kg。X:@unapi0902

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