丁寧に説明してもノイズになる「ナルシスト営業」 セレブリックス今井晶也氏が語る、顧客の意思決定を導くストーリーテリング

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2024年10月24日 11:30  ログミー

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人は「買わない理由」を見つけて安心するもの

豊間根青地氏(以下、豊間根):続いて、toBかtoCでいうと、営業資料は一般的にはtoBが圧倒的に多いですかね。

今井晶也氏(以下、今井):そうですね。toCの場合は作られているカタログであったり、キャンペーンチラシで営業されるケースが多いんじゃないですか?

豊間根:汎用的なものをそのまま使うイメージですよね。

今井:そうですね。あとはtoCの場合は、けっこう手書き。保険でも何でもいいんですけれども、お客さまから聞いたものをその場で手で書いていって、コンテンツや資料ができていくという世界観があります。けっこう共同作業になるというか。

営業と顧客の隔たりがあって、評価者と提案者になるので一致しづらかったり。評価者は減点を見つけて安心しちゃうんですよ。買うのはリスクが発生するので、買わない理由を見つけて安心する生き物だと思っているんですね。

そうなった時に、できる限り評価者と提案者という環境を変えて、お互いに理想のプランを提案し合う関係者になることが理想なんですよね。その場合、けっこう手書きというのは対面の場合は有効ですよね。

豊間根:なるほど。僕も社会人になって間もない頃に、某外資系生命保険会社さんに一瞬入ったことがあります。すぐに辞めちゃったんですけど、その時まさにA4の紙にサインペンで書いて説明されましたね。あとはシリョサクがお客さまに営業する時も、けっこう我々は「共犯者」という言葉を使うことがあって、共犯者になれると一番いいよねという話をよくしていますね。

今井:そうですよね。B to Bの世界では、手書きの代わりにホワイトボードを使います。あとは最近だと「zoom」とかにホワイトボード機能があったりするので、一緒に画面を共有しながら聞いた内容を付箋に書いて貼ったりして、それがそのままコンテンツになる。

豊間根:なるほど。おもしろいですね。

今井:toBとtoCの世界の話で、だいぶ違っちゃうんですけど(笑)。そういう使い方はあるということ。

豊間根:同じ方向を向くということですね。

意思決定におけるtoBとtoCの違い

今井:やっぱり「toBとtoCって何が違うんですか?」って聞かれたら、豊間根さんだったら何と答えます?

豊間根:意思決定に関わる人数と金額と時間ですかね。

今井:まさにそれなんですよ。意思決定者とか利害関係者の数が違うわけですね。となると、やっぱりtoCの資料は、その人個人を狙い撃ちした、その人の心を動かすような情理的なコンテンツが豊富なら豊富なほど、いいわけですよね。

豊間根:あぁー。なるほど。

今井:一方でtoBは資料が企業の中で回覧されて、資料が営業パーソンになって提案をしていくというルートを辿ります。そうなった時に情理だけでは無理で、合理と論理が明確にわかるようになっている、ここの要素がポイントです。誤解がないようにお話をすると、toCでも論理と合理は必要なんですが、そこの度合いやバランスはちょっと変わってくるかなと思いますね。

豊間根:なるほど。toCは、その人がすぐに意思決定できるから、極論その人がテンション上がって「買います!」と言ったら終わりですもんね。

今井:そうです。下手したら、資料を作る暇があったらその場で結論を促すほうが重要な時もありますからね。

豊間根:確かに。ルノアールで説得したほうが早いということですね。

(一同笑)

丁寧に説明してもノイズになる「ナルシスト営業」

豊間根:続いては、認知ですかね。ここはちょっと近いところがあると思いますけど。そもそもそれを知っている・知らないでいうと、どういう違いが出てくるんですか?

今井:商材とかサービスとか、「この業界ではこういうアイテムがあるんだ」ということが当たり前になっている、市民権を得ている商品。例えばオンライン商談システムの営業だったとします。さすがにこのコロナの影響もあってオンライン商談システムを知らない人っていないじゃないですか。

この状態で、なぜオンライン商談システムが生まれたのか。オンライン商談システムは何を解決するサービスなのかという背景から得意げに話す営業パーソンは、ちょっと気持ち悪い。

ナルシスト営業になっちゃうんですよ。言っているほうは気持ちがよくて、「営業は何でも訪問するもんだ」という文化に対して、アンチテーゼを唱えたくなる。

豊間根:(笑)。まぁ、ちょっとわかるなぁ。

今井:相手に興味関心を促すコンテンツとしては「なぜ始めたのか」というエピソードが刺さると言っているんですけれども。この手段が目的化している状態だと、丁寧に説明してもノイズですよね。

でも、ストーリーが違う尺度だったら魅力的です。「これだけ世の中に広まっているオンライン商談システムを、後発にもかかわらず、なぜ始めて、なぜ選ばれているのか。ここには創業者の鋭い着眼点や、数々の営業経験の中で身に着けてきた失敗談の中から裏付けられた、ある気づきがあったんです」みたいなお話だと、興味ありますよね?

なので、この「なぜ」をどこに置くかというエピソードの置き方はけっこう大事で、誰もが知っている、なぜなぜエピソードを話すのはキツイです。

豊間根:あぁ、なるほど。だからどこまでお客さんが当たり前化しているかを見定めて、どこに楔を打つかというイメージですかね。

背景をから伝える必要があるパターン

今井:はい。逆に、この商材とかサービスを知らない場合。最近は「デジタルセールスルーム」という、お客さまと営業パーソンがアクセスできる箱みたいな概念が、けっこう海外を中心に流行ってきている。

日本でもいくつかの企業さんがやり始めてきているんですよね。これって何のために必要なの? とか、よくわからないじゃないですか。昔のように上から下まで闇雲に営業活動をかけていた時代から変わって、限られた接点、電話番号やWebサイトも公開していない中で、一度接点を持てたお客さまと定期的につながって、ベストなタイミングで営業できる関係性を築ける。

つまり、これからは「つながりっぱなし営業が求められているんです」という。この世界を理解いただけると、初めてデジタルセールスルームの必要性が伝わりますよね。なので、まだ世に理解されていないサービスは、その背景を伝える必要があるかなと思いますね。

提案書の役割は「可能性の見える化」

豊間根:なるほど。どこから説明するかということですね。あとは無形商材と有形商材だと、営業資料の考え方の違いはあったりしますか?

今井:ありますが、結果は一緒なんですよ。

豊間根:おぉ。と、言いますと?

今井:法人営業で「お客さまが何をもって意思決定となったか」を調べまくっていた時期があるんです。結果、いろんな人に聞くと「課題解決じゃない?」とか、「いやいや、契約書にサインでしょ」とかいろいろあるんですけど。結果としては、可能性に契約書のサインをしている。ちょっと意味がわからないですよね?

僕がシリョサクの営業をするとします。シリョサクをご発注いただくことによって、御社の資料がより良いものに磨かれて、誰もが売れる営業パーソンに育ちますという、エピソードや提案があったとします。でも、そこに対して「わかりました。契約します」って、契約書にサインをした瞬間に、再現性のある営業をみんなができるようになったかというと、なっていないじゃないですか。

豊間根:もちろん。

今井:じゃあ何にサインをしたかというと、再現性があって、みんなが売れるようになる可能性にサインしているんですよ。では提案書の役割は何かと言ったら、可能性の見える化なんです。

相手の頭の中で意思決定というか契約は、この机や稟議書の場面、リアルの世界で契約をしているんですけれども、意思決定は頭の中で行っているんですよね。なので頭の中で、「この商品を導入したらこういうふうに解決できるんだろうな」と見えるようにしてあげるのが重要なんですよ。

見えるようにするためのプロセスにおいて、有形のほうが、「何を使って、どの場面でどう使って、どう設置をして、どういう効果が現れます」という、見える化のストーリーが作りやすい。

資料は「見えない世界」と「見える世界」のインターフェイス

今井:無形商材の場合には、アイデアを企画しなければいけないので、そういう意味では営業パーソンの創造性や、持っているケースやパターンによって、作るクリエイティブはけっこう変わってくる。逆に言うと属人性が生まれやすいんですが、おもしろいです。

豊間根:なるほど。めちゃくちゃおもしろいですね。僕も最近、資料って、要するに見えない世界と見える世界のインターフェイスだなと思っています。

今井:あぁー、うまいこと言いますね(笑)。

豊間根:我々って見える世界のほうがわかりやすいので、つい見える世界の仕事をしたくなっちゃうんですけど。我々は見えない世界の仕事を求められることがけっこう多いよねと。

例えば本質的な問題が何かと捉えて、そこに解決策をぶつけてあげて、今はまだ存在しない理想の姿を描いて、それにつなげるためのアクションを明確に潰していくみたいな。これはすべて見えない世界の話なので。

だからつい、見える世界のツールを導入して、画面が出てきて「やった! 導入した!」みたいな。それで打ち手思考になって、何もならないことってよくあるよね、という話をしたりします。まさにそういうことですね。

営業資料というのは、そのサービスによって得られるであろう見えない理想の未来を見える化してあげて、「そこに入れるなら契約書にサインします」というところに持っていくための材料ってことですね。

今井:おっしゃる通りです。

今井氏が最もよく使うのは「初回訪問資料」

豊間根:では、今井さんが営業資料として一番よく扱うのは、どういうパターンのものですか?

今井:作る可能性があるということでいうと、提案資料で、使っている数が多いのは、初回訪問資料です。

豊間根:あぁ、なるほど。基本的には初回訪問資料というのは、やはり1回作り切って、ある程度カスタマイズはしつつも汎用的に使い回すからですかね。

今井:ターゲットによって変わりますが、汎用性を担保するということは間違いないです。ターゲットとか営業戦略が、スタートアップやベンチャー企業、SMB(中小企業・中堅企業)なんて呼ばれる企業さまに、なるべく数を持ってアプローチをしていって、効率良く受注を取っていく。そういった世界で営業をしているパターン。

あとは私に与えられている担当顧客は、5社のアカウント営業で、この5社に対して確率論はもう無視して、あの手この手を使って受注を取っていく。ABM(アカウントベースドマーケティング)とか、アカウント営業とか、エンタープライズ営業という世界の中で、初回訪問資料の役割が変わってきます。

豊間根:確かに。

今井:エンタープライズとか、企業が限られているといった場合には、やはり受注にならなかったとしても「ここまで準備をしてくれたのか」とか、「ここまでうちのことを考えてくれたのか」と思っていただきたいです。なので、そういう意味では汎用資料にカスタムで「御社の場合は」とかを入れておきますよね。

豊間根:場合によって、営業資料のカスタマイズはありつつも、自分で作るというところですね。

今井:ベースはあります。僕の場合は営業支援会社なので。例えば豊間根さんがシリョサクという、資料を作成するサービスとかツールを扱う中で代表をやられているじゃないですか。なので、今も資料を全部作っているわけじゃないですよね?

豊間根:はい、もちろん。

今井:だけど「資料の人」というふうに見られるじゃないですか。僕も売り物が営業支援なので営業のことを話したりしますけど、CMOと研究所の所長なので営業ばかりやっているかというと、実はそうではないんですよね。

ただ、最近は大手企業のお取引先が増えているので、大手企業の営業の場合は私も初回訪問に同席したりします。なので私の場合は初回訪問資料を使うことが多くなっているという感じですかね。

豊間根:いずれにせよ、やっぱりシーンと目的によって使うべき資料とタイミングは変わり得るということですね。

今井:資料はシチュエーションがすべてです。

「営業資料」の解像度を高める問いかけ

豊間根:なるほど。ということで、いろんな切り口で営業資料をバッサバッサと切ってきましたけど。この営業資料をバクっと捉えている方がすごく多いと思うので。僕はどちらかというと資料目線ですけども、やはり営業という目線で極めて解像度高く営業資料を捉えられている今井さんの世界観を持つと、資料の見え方がめちゃくちゃ変わるんじゃないかなと思います。

ぜひふだんのお仕事の中で、今日お話ししたような観点を活かしていただいて。今自分が営業資料と呼んでいるのって、提案なんだっけ? 初回訪問なんだっけ? あるいはこれって新規なのか、リプレイスなのか、リピートなのか、クロスセルなのか、どれだっけ? ということを意識していただく。

そうすると見方が変わってくるんじゃないかなと思います。ということで、最後になりましたけど、ちょっとご紹介を。

今井:はい。冒頭にもご紹介させていただいた『The Intelligent Sales AIを活用した最速・最良でクリエイティブな営業プロセス』ですね。AIを活用して、営業をより賢くスマートにというお話なんですが。まさに資料作成とか、顧客解像度を高めるところでも、AIはすごく使います。僕はよく、「この業界のあるあるの困りごとを教えてください」「2024年で話題になったトピックを挙げてください」とか聞いています。

あとは「この企業におけるPEST分析をして、この企業が今営業研修を必要な理由として、政治や経済、マクロ環境を踏まえた時の機会と脅威をアウトプットしてください」。こういったものを資料に取り入れることによって、より密度の高い提案書ができたりしますので。

豊間根:これは僕も拝読しましたけど、ガチでAIを使っている人の本だなぁと(笑)。営業の方に限らず、AIを仕事に活かしたいなと思っている方に、すごくおすすめの本です。

今井さん、3本の企画をありがとうございます。本当にいろんな学びがあると思いますので、けっこうな長丁場ではありますが、ぜひ3本とも見ていただけるといいなと思います。それではみなさん、さようなら!

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