《日本の名分イントロドン!》秋の夜長に読んでほしい!古典名作わかります?

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2024年10月25日 06:00  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

※写真はイメージです

 名文は、名イントロにあり!古典の名作の書き出しの一文は、必ず印象的なもののはず。なぜってその一文で、名作かどうかはすでに決まっているから。現代の作家たちも口をそろえて言う「初めの一文で、良作になるかどうかが決まる」――。日本の名イントロ20選、秋の夜長にお楽しみあれ!

「イントロで、時空を超えた世界へ」(山口謠司先生)

 名文は、書き出しで決まります。作家の自筆原稿をよく見る機会がありますが、この小説はすごい!おもしろい!最後までグイグイ引っ張ってくれるに違いない!

 賞を取りそうと感じるものは、書き出しの一行目でほとんどわかります。

 冒頭の一行は、読者を一瞬でまったく現実とは違う異世界へ誘(いざな)う力があるのです。小説だけではありません、随筆だって、和歌だって、俳句だって同じです。冒頭の言葉の持つ力って、本当に、すごいんです!

 古今東西、冒頭の一文こそ、作家の力量と、魂の込め方によって現れる時空を超えた普遍の力なのではないかと思います。

音が生み出す巨大な神の言語装置

 文献学者、J・A・コメニウス(1592〜1670年)が、ポーランドで出版した『最新言語教授法』という名著を紹介したいと思います。

 この本のタイトルに見える「最新」は、もちろんすでに「古ぼけたもの」になってしまっていますが、「言語」をどう考えればいいかということを、当時、多くの人に教えた画期的な本だったのです。

はたして文章は、天から降ってくるのか、地から湧いてくるのか、はたまた作家の力で作り出すことができる性質を持っているのか? そんなことを、ものすごくまじめに書いているのです。

 みなさんの中に、作家になろうと思って小説や随筆を書いたことがあるという人もいるのではないでしょうか?

 文章は、どんな感じで、筆記用具や、キーボードから生まれてきますか?

 コメニウスは、こんなふうに書いています。

《人間の言語は、神の知恵である。神は、我々には具体的に見えない、巨大な言語装置を持っていて、それには、完全な事物名称リストと、詳しい意味を記述した辞書、そして言葉を結合していくための詳細な文法規則集が備わっている》

 はて、今から300年以上も前の神学者の「言語論」なんて読んでもよくわからないと思われるかもしれませんが、コメニウス、とっても大事なことを言っているんです。

 読者にとっても、そして書き手にとってもです。

 それは、何か。

 言葉は、人間が口から発する音によって生まれるもの。その言葉を口から発する時には、なにか閃(ひらめ)きのようなイメージがあるでしょう。

 一言、その言葉を出すと、それが短い文章のようになって、だんだんと連想を広げて、その言葉を核にして、大きな宇宙が広がっていくんだと。それが、神の巨大な言語装置というものだと。

 とすれば、つまり、作家の書き出しの一文は、その作品を形づくる「核」なのです。

冒頭一文の深さを味わう

 さて、これと同じようなことを、名文家として知られた谷崎潤一郎も『文章読本』の中で記しています。

《「名文」とは、「長く記憶にとどまるような深い印象を与えるもの」「何度も繰り返して読めば読むほど滋味の出るもの」》(『感覚を研(みが)くこと』より)。

 古典と呼ばれる作品は総じて、このような性質を兼ねていると思いますが、それは実は、音の世界によって成り立った日本語の伝統的な、文章に対する感覚の磨き方です。

 谷崎は言います。《文章に対する感覚を研くのには、昔の寺子屋式の教授法が最も適している(中略)繰り返し繰り返し音読せしめる、或(ある)いは暗誦(あんしょう)せしめるという方法は、まことに気の長い、のろくさいやり方のようでありますが、実はこれが何より有効なのであります》と。

 古典の世界は、音の世界。音を噛みしめることによって、味わい深い文章の感覚を養うことができる。

 冒頭の一文からギューッと読者の心をとらえる作家の文章は往々にして、古典と共通する音の世界を大事にしているのではないかと思います。

 名文イントロクイズ、クイズではあっても、どうぞ音読して、冒頭の文章の深さを味わっていただければと思います。

名作タイトルあてクイズ!

 どこまでわかる?

LEVEL1:この書き出しで始まるを答えよ

(1)天地(あめつち)の初發(はじめ)の時、高天(たかま)の原に成りませる神の名は、天の御中主(みなかぬし)の神。次に高御産巣日(たかみむすひ)の神。次に神産巣日(かみむすひ)の神。この三柱の神は、みな獨神に成りまして、身を隱したまひき。

(2)篭(こ)もよみ篭持ち堀串(ふくし)もよみ堀串(ぶくし)持ちこの岡に菜摘(なつ)ます子家聞かな告(の)らさねそらみつ大和の国はおしなべて吾れこそ居れしきなべて我れこそ座(ま)せ吾れこそば告らめ家をも名をも

(3)今は昔竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて、竹をとりつゝ、萬の事につかひけり。名をば讃岐造(さぬきのみやつこ)となんいひける。その竹の中に、本光る竹ひとすぢありける。怪しがりて寄りて見るに、筒の中ひかりたり。それを見れば、三寸ばかりなる人いと美しうて居たり。

(4)男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり

(5)行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。

(6)親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間程腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇(むやみ)をしたと聞く人があるかもしれぬ。別段深い理由でもない。

(7)木曾路はすべて山の中である。あるところは岨づたいに行く崖の道であり、あるところは数十間の深さに臨む木曾川の岸であり、あるところは山の尾をめぐる谷の入り口である。一筋の街道はこの深い森林地帯を貫いていた。

(8)女給の君江は午後三時からその日は銀座通のカッフェーへ出ればよいので、市ヶ谷本村町の貸間からぶらぶら堀端を歩み見附外から乗った乗合自動車を日比谷で下りた。

(9)ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊(ずい)からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度(ちょうど)朝なのでございましょう。

(10)学びて時に之を習う。亦(また)説(よろこ)ばしからずや

LEVEL2:この書き出し文のを埋めよ

(11)______春はきにけりひととせをこそとやいはむことしとやいはむ

(12)______。女の得(え)まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、かろうじて盗み出でて、いと暗きに来けり

(13)______。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。夏は夜。月のころはさらなり。

(14)______、女御(にょうご)、更衣(こうい)あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。

(15)つれづれなるままに、日暮らし、______、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。

(16)______。中等室の卓(つくえ)のほとりはいと静にて、熾熱燈(しねつとう)の光の晴れがましきも徒(いたづら)なり。今宵は夜毎にこゝに集ひ来る骨牌(カルタ)仲間も「ホテル」に宿りて、舟に残れるは余一人のみなれば。

(17)あはれ秋風よ______伝へてよ──男ありて今日の夕餉(ゆうげ)に ひとりさんまを食ひて思ひにふける と。

(18)______小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる

(19)「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、______だと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指しながら、みんなに問をかけました。

(20)月日は______にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ馬の口とらえて老をむかふる物は、日々旅にして、旅を栖(すみか)とす。古人も多く旅に死せるあり。

監修……山口謠司先生●作家。平成国際大学学術顧問。中国山東大学客員教授。ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。『炎上案件 明治/大正 ドロドロ文豪史』ほか著作多数。『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。

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