ラグビー日本代表「超速アタック」はオールブラックスにも通用した キーマンは新9番

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2024年10月27日 16:31  webスポルティーバ

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 "黒衣軍団"の壁は、やはり高かった──。

 10月26日に行なわれた「リポビタンDチャレンジカップ2024」で、ラグビー日本代表(世界ランキング14位)は世界3位の「オールブラックス」ニュージーランド代表に挑んだ。

 横浜・日産スタジアムには6万人を超えるラグビーファンが集結。12-14で迎えた前半21分には日本代表が逆転トライを決めて、スタジアムは最高潮の盛り上がりを見せた。しかし、TMO(テレビマッチオフィシャル)の末にトライがキャンセルされると、そこから勢いは一気に失速。その後は前半の残りだけで5トライを奪われ、最終的に19-64の完敗に終わった。

 課題は明白だった。

 相手のセットプレーや切り返しからのアタックに対する、日本のディフェンス網のもろさだ。オールブラックスから勢いのあるアタックを受けてしまうと、組織ディフェンスはほとんど機能しなかった。11月の欧州遠征に向けて、そこは大きな修正点となるだろう。

「ひとり目はタックルに入れているけど、ふたり目がボールに(プレッシャーに)いけなくて、つながれて、どんどんモメンタム(勢い)を相手に渡してしまい、ディフェンスのバランスを崩されて失点につながるケースが多かった」

 反省の弁を口にしたのは、SH藤原忍(スピアーズ船橋・東京ベイ/25歳)だ。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

 ただ、攻撃面では光るものを見せてくれた。

 エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)が掲げる「超速ラグビー」にふさわしいスピードあるアタックを見せて、序盤はワールドカップ優勝3回の"ラグビー王国"を怯(ひる)ませた。

 そのアタックの起点となったのが、身長171cmの小柄な司令塔・藤原だった。

「オールブラックスと対戦して、すごくいい経験になりました。アタックは通用するところがありました!」

【世界トップクラスのランニングSHになる】

 開始早々、日本はパス&ランでボールを継続し、ループプレーも交えて守備にプレッシャーをかけてオールブラックス陣内で戦う。すると前半5分、ラックから素早く球出しをしたあとに、藤原は左を向いたまま右から走り込んできたWTBジョネ・ナイカブラ(ブレイブルーパス東京)にパスを通して先制トライを演出。

「(ジョネが)来ることがわかっていたので(あえて)逆のほうを見ていた」

 前半19分のトライも、ラインアウトからサインプレーでゲインしたのち、最後は藤原が逆サイドに展開してNo.8ファウルア・マキシ(スピアーズ船橋・東京ベイ)のインゴールに結びつけた。

「マキシさんがよく声を出してくれていましたので、僕は仕事に集中しながら、周りの声を信じてトライにつながった。いいトライでした!」

 昨年のワールドカップの中軸だったSH齋藤直人(27歳)がフランス・トゥールーズに挑戦していることもあり、藤原は5試合連続して9番を背負うなど、桜のジャージーのなかで存在感を高めている。

 藤原の成長について、ジョーンズHCは目を細めて語った。

「彼はすべてのテストマッチで少しずつ上達している。彼は生まれながらのラグビー選手。教室ではなく実践で学ぶタイプ。走れる若いSHとして非常にインパクトがあり、相手のディフェンスを脅かしてくれます。世界トップクラスのランニングSHになるでしょう」

 大阪出身の藤原は小学校時代、野球やバレーボールをしていた。ラグビーを始めたのは中学校から。高校は親元を離れて石川・日本航空石川に進学し、花園にも出場した。

 天理大では1年からレギュラーを張り、U20日本代表やジュニア・ジャパンに選出。4年時には、オールブラックス戦で初キャップを得たSO松永拓朗(ブレイブルーパス東京)とのハーフコンビでチームの初優勝に大きく貢献した。

 自分から仕掛けるランは学生時代からの大きな武器で、天理大の小松節夫監督には「積極的に行きすぎるから、もう少しコントロールしてほしい」と指摘されていたほど。次世代を担うSHとして、大学時代から将来を嘱望されていた。

【名将エディーからもらったアドバイス】

 しかし、スピアーズに入団して社会人になると、天理大の先輩(4学年上)でもあるSH谷口和洋からポジションを奪えず、控えから出場することが多くなった。スピアーズが優勝した2022年シーズンも、プレーオフ準決勝・決勝ともにベンチからのスタートだった。

 ところが昨シーズン開幕直前、谷口がケガを負ってしまったために藤原は9番を背負う転機を迎える。そのチャンスを活かした結果、藤原はスーパーラグビーとの試合も含めて17試合に先発し、実力を大きくアピールすることに成功した。

 スピアーズをパス、ラン、キックで引っ張る姿を見たジョーンズHCも、藤原の活躍に目を止めたひとりだ。「(閃きのある)スパークアタックができる」と高く評価し、6月に日本代表に初招集した。

「エディーさんからは『9人目のFWのように強気でやってくれ』と言われています。練習後に何回か(ジョーンズHCから)フィードバックをもらったんですが、『ナイスパス!』と声をかけられるようになりました。

 エディージャパンに呼ばれた直後は、いろんなことにフォーカスしていたことを(ジョーンズHCに)見抜かれて、『それだと自分にプレッシャーがかかってミスにつながるから、とりあえずボールに集中すること、ディフェンスをオーガナイズすることだけを考えてプレーしろ』とアドバイスをもらいました」

 また、超速ラグビーを実践するために、ジョーンズHCから言われていることがあるという。それは「考えずに動け」だ。

「エディーさんから『試合中に考える暇はない』と言われています。考えていたら、たしかにスペースがなくなる。感覚で動いていく時もあると思うので、(自分から仕掛けるプレーは)試合中に1,2回しかチャンスはありませんが、行けるときは行きます!」

 チャンスと思った感覚を信じ、オールブラックス戦では前半20分まで超速ラグビーの片鱗を出せた。次はそれをどこまで長く出せるかが、今後の改善点だろう。

【欧州遠征で先発の座を勝ち取るのは?】

 6月から試合出場を重ねて、すでに7キャップ。藤原は今、多くのことを吸収している。

「すごくハイレベルなところでプレーできて、(試合後に)もっとこうしたらよかったなあ......と課題が見つかって、すごく成長につながっていると思います!」

 来月は欧州遠征を敢行し、敵地でフランス(世界4位/11月10日)やイングランド(世界5位/11月25日)といった世界トップクラスにチャレンジする。

「やることは(強豪国に対して)アタックもディフェンスも変わらない。やらないといけないことをまず信じて、どういう状況でもやり続けるのがジャパンの強み。自分の役割を理解しながら、チームでやることを明確にして、みんなを鼓舞して勝ちにいきたい」

 攻守でチームを引っ張る存在になりつつある藤原は、同じポジションを争う齋藤と切磋琢磨しながら「超速ラグビー」をドライブしていく。

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