スタバの国内初「子連れ店」、真の狙いはファミリー客の獲得にあらず? 店舗増がゆえの悩みとは

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2024年10月28日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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スタバの新店舗、どんな狙いが?

 スターバックス コーヒー ジャパンが、埼玉県越谷市の大型商業施設「イオンレイクタウン」内にある複数店舗のうち1店舗を、子連れでも楽しめるファミリー型店舗に改装しました。キッズ向けメニューも取り入れるなど新しい取り組みを開始しています。


【画像】普通のスタバとかなり違う! 国内初「子連れ店」の全体像、テーブルや椅子、限定の子ども向けメニュー、自分で味をカスタマイズできる工夫(全9枚)


 新たな店舗の狙いについて、消費トレンドを追いかけ、小売り・サービス業のコンサルティングを30年以上にわたり続けているムガマエ代表の岩崎剛幸が分析していきます。


●圧倒的な大きさ 歩くだけで時間がつぶせる「レイクタウン」


 9月にリニューアルした「スターバックス コーヒー 越谷イオンレイクタウン mori 3階店」。早速筆者も現地に行ってきました。なお、本記事では以降、同店を「子連れスタバ」とします。


 子連れスタバが営業しているイオンレイクタウンは、言わずと知れた日本で最大規模の商業施設です。日本ショッピングセンター協会が公表している「SC白書2023」によると、イオンレイクタウンの店舗面積は16万平方メートル。2位のイオンモール幕張新都心(千葉市)が12.8万平方メートル、3位のJRセントラルタワーズ/JRゲートタワー(名古屋市)の12.7万平方メートルを大きく引き離してダントツの商業施設といえるでしょう。


 さらに、上記の数字にはアウトレット棟は含まれていません。3月に増床したアウトレットモールを含めると、総賃借面積は18万3000平方メートル、総店舗数710店舗、駐車台数9500台と日本でダントツのショッピングセンターで、端から端まで歩くだけで30分程度はかかるほどです。


 イオンレイクタウンのコンセプトは「シゼンに心地いい、ワタシに心地いい」というもので、施設としては「Life Time Park」を掲げ、来訪者の1日に寄り添う施設を目指しています。


 施設全体は「kaze」「mori」「アウトレット」と大きく3つに分かれています。kazeは越谷レイクタウン駅からもっとも近いゾーンです。トレンドに敏感なファッションブランドなどが集まっています。他のゾーンと比較して、ビジネスパーソンや学生などが多く集まっている印象を受けました。moriはkazeの奥に位置し、衣食住をトータルに扱い、子連れのファミリー層が多く集まるゾーンです。


 アウトレットは国内外のブランドのアウトレットゾーン。レイクタウンのオープン後につくられ、今春には増床、160店舗の本格的なアウトレットモールになりました。レイクタウンの商圏拡大に貢献しているゾーンです。


●子連れスタバ、3つの特徴


 子連れスタバはレイクタウンのmori3階に出店しています。「“学ぶ”“遊ぶ”“食べる”“楽しむ”など親子のための新しいコミュニケーション空間」を標ぼうしたフロアです。子ども服や玩具、子どもの遊び場、ファストフード店が並んでおり、子連れで来店する客層が施設内でも圧倒的に多いフロアとなっています。


 同店の特徴は「店舗内の内装、備品が子連れ客を対象に作られている」「ベビーカーが2台すれ違える導線が確保されている」「キッズ向けメニューがある」の3点です。


特徴1:店舗内の内装、備品が子連れ客を対象に作られている


 同店の壁面にかわいいイラストが描かれているのが目立ちますが、最大の特徴はテーブルと椅子です。テーブルが通常より低く、椅子はソファー席中心の設えになっています。テーブルの高さは床から60センチ、ソファーは40センチです。通常のスタバで向かい合うタイプのテーブルは高さが80センチ、椅子は60センチ程度あります。


 通常のスタバではベビーカーで入るのも難しいですし、テーブルの横にベビーカーを置いておくのも他のお客さんの邪魔になります。しかも小さな子どもでは、椅子とテーブルが高すぎてしまうでしょう。同店は以前から子連れ客が多く「並ぶのが大変」「ベビーカーの置き場に困る」「騒がしくしたら周囲に迷惑をかけてしまう」などの意見が多く寄せられていたそうです。そこで同店をリニューアル。子連れ客が気兼ねなく楽しめる店舗にしたというわけです。


特徴2:ベビーカーが2台すれ違える動線になっている


 子連れスタバでは動線が広く、テーブルも小さいため、ベビーカーを押しても歩きやすいのも特徴です。筆者が訪れたときにはたくさんの子連れ客とともに、車椅子のお客さんも来ていました。車椅子はベビーカーよりも場所をとりますが、ソファー席であることもあって、このようにゆとりをもって楽しめるようになっています。子連れ客に優しい店にすることは、車椅子のお客さんにとっても使いやすい店になるのだということを実感しました。


特徴3:キッズ向けメニューがある


 子連れスタバには、国内初のドリンクメニュー「キッズ フラペチーノ」を用意しています。キッズ フラペチーノは12歳以下向けとして、店内利用の際は取っ手付きで持ちやすい樹脂製グラスで提供するメニューです。


 その他、子どもがドリンクをカスタマイズできる「コンディメントバー」も設置しています。コンディメントバーには4種類のフレーバーがあり、味わいを自由に調整できるのが特徴で、キッズ フラペチーノなど子ども向けメニューを注文した人が利用可能になっています。


 このような取り組みで子連れスタバは、オープン以来子連れ客によく利用される店になっています。しかし、子連れなどにフォーカスした取り組み自体は珍しいことではありません。他社でもこのような取り組みはありますし、実際にレイクタウン内にも、ファミリーシートを店内に作っている中華店がありました。


●実はレイクタウンに、スタバは7つもある


 子連れスタバのもう一つの狙いを考えると、同一地域で複数店舗を出店しても採算がとれる店づくりを模索しているといえるでしょう。実はイオンレイクタウン内にスタバは7店舗もあります。これだけたくさんのスタバ店舗が同じ商業施設内に出店しているのは、国内でもレイクタウンぐらいでしょう。


 筆者は同施設内の全スタバを訪問してきました。その結果、同じスタバでも立地によって客層が異なることがよく分りました。


 例えばkaze入り口付近のスタバは、最も越谷レイクタウン駅に近いところにあります。ここを利用するのはビジネスパーソンが多く、PCを開いて仕事をしているソロ客が多くいました。Kaze2階、施設の中央にあるスタバは落ち着いた印象で、買い物途中の女性ソロ客や女性同士の友人客などが利用していました。ファッションゾーンの中にあることが理由でしょう。


 一方、アウトレットモールにあるスタバは夫婦2人連れにファミリー客、カップルなど幅広い客層が利用していました。アウトレットモールの客層が息抜きに利用しているようです。


 これらは若干の店づくりに違いはあるものの、基本的には全て同じスタバです。大きく業態を変えてはいません。しかし、その中でも明らかに客層が異なったのがkaze3階店だったということでしょう。そこで、完全に子連れ客に店づくりを振ったのです。


 同店は、3階という立地です。多くの人が通る1階とは異なり、わざわざそのフロアを訪れる人しか利用しません。そのため、レイクタウン内のスタバの立地としては最も悪い立地ともいえるでしょう。こうした立地で成り立たせるためには、ターゲットを明確にした店づくりをせざるを得なかった、というのが正直なところなのではないでしょうか。


●自社競合を避けるためにも新業態が必要なスタバ


 6月末時点で、スタバの国内店舗数は1948店舗。 もはや「スタバがないところはない」というほど出店しています。これだけの出店数になると当然、同じスタバ同士で売り上げを食い合う現象も発生します。今後も出店数を増やせば自社内競合はさらに激しくなるでしょう。この自社競合を防ぎつつ、出店しても売り上げを上げ続ける店づくりをスタバは模索し始めているのです。


 スターバックス コーヒー ジャパンの業績をコロナ前と比較すると、2022年度は2019年度に比べて売上高は143.9%。純利益率も5%を超えており、飲食業の中でも高収益体質を維持している会社といえます。


 一方で、売上原価と販管費は、売上高や売上総利益以上に伸び率が上昇しているのが分かります。仕入原価の高騰や人件費、水道光熱費などの上昇により、利益が伸び悩んでいるというのが実状です。原価高騰や経費上昇を吸収するためには出店して売り上げを稼ぐしかありません。そのためには、より効率の良い出店、さらに既存店を定期的にリニューアルして、売り上げを増やし続ける店づくりを実現する必要があるのです。


 日本国内とは異なりますが、米国のスタバ本社では国内の外食離れや中東での不買運動の影響などで業績の低迷が続いています。8月にはラクスマン・ナラシムハン最高経営責任者(CEO)が退任し、同社の業績を大幅に向上させたブライアン・ニコル氏が着任しています。


 世界に4万店弱を展開するスタバ。茶系飲料に特化した「T&C」業態も少しずつ増やし、主要都市には「スターバックス リザーブ ロースタリー」という高価格業態も出店しています。しかしそれらはまだメイン業態ではなく、ベースとなるのはあくまでも標準的なスタバ業態です。


 基本的に同じ店づくりでチェーン展開してきた同社が、今後は立地や客層によって少しずつ新業態を開発していく可能性を感じたのが、今回の子連れスタバでした。小売り・サービス市場では今後、店の飽和化という現象がより鮮明になってきます。その意味でスタバの業態開発には、今後も注目したいと思います。


(岩崎 剛幸)



このニュースに関するつぶやき

  • 入店した時の「私ちょっとプチ贅沢してるの」って客層の雰囲気が苦手 私はセブンのコーヒーで充分
    • イイネ!1
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