●連載:教えて!あの企業の20代エース社員
あの企業の20代エース社員にも「新卒1年目」の頃があった。挑戦、挫折、努力、苦悩――さまざまな経験を乗り越えて、今の姿がある。企業に新たな風を吹き込み、ビジネスの未来を切り開く20代エース社員の「仕事」に迫る。
動画コンテンツは誕生後、瞬く間に生活者の必需品となった。YouTubeが登場したのが2005年、世界最大の映像配信事業者であるNetflixは2007年生まれだ。そして、2023年3月に幕を閉じた、ネット動画の老舗「GYAO!」は2005年に産声を上げていた。
市場の黎明期にサービスを立ち上げたことになる。現代の動画コンテンツによる影響力を考えると、その先見性は否定できない。そこから多くの競合が生まれ、コロナ禍を経て市場が爆発的に拡大。多くの競合が誕生し、外部環境が目まぐるしく変化する市場と化した。
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木藤由梨咲さんは2020年4月、GYAO(※)をファーストキャリアに選んだ。「自分自身がユーザーの立場に立てるサービスであることや、人を大事にする会社に入りたいと考えていました。GYAOからは一人一人の学生の人生に向き合う意識が感じられました」という。
入社後は、SNS領域の部署で主にYouTubeからの送客体制の構築を担当することに。その結果、GYAO!アプリの新規ダウンロード数はYoYで330%を達成した。現在は、動画プラットフォーム「LINE VOOM」に携わる。
コロナ禍でのステイホームという追い風があったのは事実だが、動画コンテンツ戦国時代にGYAO!でどのように数字を伸ばしたのか。また、動画プラットフォームサービスとしてはかなり後発なLINE VOOMが持つ課題や可能性をどう考えているのか、取材した。
●前例のない仕事 どのように進めて成果を出したのか?
木藤さんの目標は、既存のアプリユーザーの訪問率向上と新規のアプリダウンロード数をYouTube経由で増加させることだった。
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「目標は決まっているのですが、やることは決まっていない状態でした。Xやインスタグラムで展開している施策をYouTubeにも横展開できないか考えたり、社内でYouTubeチャンネルを運営している人に相談したり、さまざまな手段を探っていました」
YouTube経由で送客するためには、まずYouTube上でさまざまな人の目に触れることが不可欠となる。YouTubeのコンテンツと相性のいいGYAO!の動画を編集して切り抜きとしてアップロードしたり、YouTube内で急上昇ワードやYouTuberに関連するワードをハッシュタグとして活用したりした。権利の問題でYouTubeにアップロードできない動画も少なくなったため、限られた動画にどう拡散性や送客力を持たせるのかについては苦労したが、ハッシュタグによる効果は大きかったという。
その他、これまでXやインスタグラムで実施した施策の横展開も奏功した。もともとGYAO!では、女性には恋愛ドラマや男性アイドル関連コンテンツの人気が高く、男性はアニメや映画、バラエティコンテンツの人気が高かった。そこで、それぞれの人気コンテンツに注目し、女性向けにはアイドルで、男性向けにはバラエティコンテンツで訴求することに。
GYAO!は当時、テレビで放送していたアイドルのオーディション番組「Produce 101 Japan」を再放送していた。そのタイミングで多くの女性ファンが登録したが、アイドルグループのデビューとともにGYAO!から離れてしまうという問題があった。そこで、そのアイドルグループのオリジナルコンテンツを配信することに。オリジナルコンテンツの切り抜きをYouTubeに流し、休眠していたユーザーの呼び戻しに成功した。
男性向けとしては、年末の「M-1グランプリ」をコンテンツとして活用。もともとM-1の「大反省会」をGYAO!で独占放送していたが、YouTubeでは出演者のコメント動画を配信。世間の関心やYouTube内でのトレンドに後押しされ、アプリダウンロードにつながった。
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さまざまな施策を展開し、YoY330%増(2020年4〜9月期と2021年同期を比較)という数字を作り上げた。木藤さんは、当時を以下のように振り返る。
「1年目は伸び悩みました。難しかったです。そもそもどういった戦略で目標を達成するのかの道筋が見えていない状態だったのと、切り抜き動画用の編集業務も自分でやっていたので、手を動かしながら戦略を考えなくてはいけなくて大変でした」
実際に成果が出始めたと実感できたのは1年目の終わり頃だったという。「2年目からはコンテンツ制作に対する考え方の基盤は整っていたので、去年成果が出たことは継続しつつ、どんな新しいチャレンジをするかを意識して手を動かしました」
●LINE VOOMに異動 業務も180度変わった
GYAO!での約1年半の経験を経て、木藤さんは新たなチャレンジに乗り出すことに。2021年3月にLINE VOOMに異動した。
LINE VOOMは、ショート動画を中心とした動画プラットフォームで、2021年11月から提供している。しかし、すでにTikTokを筆頭にYouTubeやインスタグラムなどがショート動画市場で多くのシェアを持っており、かなり出遅れたスタートだと言わざるを得ない状況だった。
「縦型ショート動画は、すでにかなり盛り上がっていました。まだまだやれることはあるのではないかと思いつつ、他のサービスが強いのでどうシェアを取っていくのか、悩んでいました。チームとしては、縦型ショート動画のコンテンツ数を増やしていくという大目標があり、それを達成するためにプロジェクトが複数動いていました」
木藤さんが取り組んだプロジェクトは2つ。まずはLINE VOOMにユーザーが投稿したくなるようなエフェクトやステッカー機能のリリースに向けて動き出した。10〜20代のユーザーが投稿したくなるような機能を、韓国にある開発チームともディスカッションしながら探っていった。
「韓国の流行りが日本に入ってくることはよくあります。ただ、韓国での当たり前が日本では異なることもあります。例えば、韓国では配信者の顔出しは一般的ですが、日本では苦手意識を持っている方もいます。韓国の配信の流行りを取り入れつつ、日本のユーザーが使いやすいような機能、というバランスは意識していました」
エフェクトの利用数ではまだまだ目指す地点に到達できていないが、両国の良い点を取り入れたエフェクトの利用数が相対的に多いという結果は得られているという。
もう一つ取り組んでいたプロジェクトは「クリエイター育成プログラム」だ。縦型ショート動画プラットフォームには、TikTokerやインスタグラマーなどプラットフォームの代表的なクリエイターが存在するのに対し、LINE VOOMではまだスタークリエイターがいなかった。そこで、スタークリエイターの育成と輩出を目的にプロジェクトが始動した。
「50人程度のクリエイターを対象に、投稿内容へのフィードバックや週1での面談などを実施していました。投稿内容と数字の動きを見て、今後どんなコンテンツを投稿していくのがいいか話し合います。毎日投稿するためにモチベーションが上がるようなコミュニケーションを取るなど、かなり密着型で取り組んでいました」
プログラムから巣立ち、LINE VOOM内で人気を集めているクリエイターも出てきているという。その後、育成から収益化に軸足を移したプログラムを展開。収益化プログラムには現在までで延べ1万人以上が参加している。
縦型動画市場は今後も激しい競争を強いられるだろう。調査によると、2023年の縦型動画広告の需要は高まっており、市場規模は昨年対比156.3%の526億円に到達した。2024年は773億円、2027年には1942億円に達する試算が出ている。
生活者の日常における縦型ショート動画の視聴時間が年々増加する可能性を踏まえた上で、現在LINE VOOMが抱えている課題と改善していくべき点をどう見ているのか。
「LINE VOOMは国内に注力したサービスですので、どうしてもグローバルで展開しているサービスよりもコンテンツ数が少なくなってしまいます。コンテンツ数が少ないことは、より良い視聴体験に生かす要素が少ないことを意味するので、その点は課題だと考えています。一方で、LINEというプラットフォーム内で展開しているサービスだからこそ生まれるユーザー同士のコミュニケーションがあるので、そういった人とのつながりという強みは持っていると思います」
生活者のコミュニケーションツールとして圧倒的な地位を確立しているLINEだが、LINE VOOMは使用していないというユーザーは多い。LINEを生かしたLINE VOOMの活性化について、木藤さんは「個人の考え」と断った上で、以下のような構想を話した。
「LINEというプラットフォームを通じて気軽に投稿者になれる工夫ができればいいなと思っています。例えば、LINEのグループトーク内に思い出の動画を上げることは日常的だと思うのですが、それをLINE VOOMという場所に投稿するのは大きな壁がありますよね。動画を上げるという行為自体は同じですが、視聴対象が異なるため大ごとに感じる。そこの負担を取り払えて、発信に対してモチベーションが高まるようなサポートにもっと取り組んでいきたいです」
木藤さんは新卒から5年間、一貫して動画事業に関わってきた。変化が大きく、あまたの正解がある業界で、成果を出し続けるには不断な努力が必要だ。特に、LINE VOOMは業界の中では後発で、国内特化サービスという点でもハンデを負っている。
動画プラットフォーム市場で番狂わせを起こせるか。「まだまだやれることはある」という木藤さんの発言が正解になる日が待ち遠しい。
(熊谷紗希)
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