突然リーダーになったらどうする?「赤裸々体験談が沁みる」話題書の著者に聞く、心が軽くなるリーダー論

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2024年10月28日 13:01  リアルサウンド

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赤裸々なリーダーの体験が話題書の著者である深谷百合子氏
■女性リーダーはもちろん、全ビジネスパーソン必読の理由は?

  女性の社会進出が進み、企業で要職に就く女性が増えている。しかし、いきなり管理職への昇進を告げられると、躊躇する人も少なくないはずだ。いや、女性だけでなく、男性も同じだろう。もしリーダーとして部下を抱える立場になったら、どう指示を出せばいいのか、仕事を割り振るにはどうすればいいのか、悩む人も多いと思う。


 そんな悩めるビジネスパーソンに贈りたい一冊が、『不安が消えてうまくいく はじめてリーダーになる女性のための教科書』(深谷百合子/著、日本実業出版社/刊)である。本書には、著者の深谷百合子氏がこれまで経験してきた“失敗”や“不安”を払拭するための方法が、ビフォーアフターとして赤裸々に書かれている。


 経験に基づく深谷氏のアドバイスは、現在リーダーとして仕事をしている人、もしくはこれからなりたいと考える人から共感を集めている。特に深谷氏が重視するのはコミュニケーションである。そのテクニック本としても参考になることが多く、リーダーなら手元に常に置いておきたくなる一冊といえる。


 今回は深谷氏にインタビューを敢行。これからの時代を率いるリーダーに求められる資質から、日本、さらには中国のリーダー像にまで視野を広げ、多岐にわたるテーマでお話を伺った。



■リーダーは親分肌じゃなくて良い

――深谷さんの本『不安が消えてうまくいく はじめてリーダーになる女性のための教科書』が女性だけではなく男性にも話題となっていますね。元々は女性のリーダー、もしくはリーダーになろうとしている人に向けて執筆された一冊ですね。



深谷:昨今、企業では女性の管理職を増やそうとする潮流があり、その影響で同程度の能力や実績があるなら男性よりも女性を優先するケースもあります。そんななか、まさか自分が管理職になるとは思わなかったのに、なってしまったという人が私の周りにも多数いらっしゃいます。この本は、管理職に選ばれてどうしようと悩んでいる方、数年のうちに自分もそうなるのではとイメージを持たれている方に向けて書きました。


――本の中には、深谷さんの実体験と、経験して学んだことが豊富に記されています。


深谷:私は長年、家電メーカーに在籍していました。製造の現場には男性が多く、リーダーはぐいぐい引っ張っていく人とか、統率力を持たなければいけないと感じる人が多い職場でした。もっとも、私が在籍した企業に限らず、リーダーと聞くと人をひっぱっていくとか、組織をまとめ上げる立場というイメージを抱く人は男女ともに多いと思います。例えば、野球で言えば中日や阪神の星野監督のように厳しいけれど熱血、親分肌を連想する人が大半ではないでしょうか。


■いろいろなタイプのリーダーが求められる時代

――そうですね。リーダーというと、ひと昔前の体育会系的なイメージが根強くあります。ところが、深谷さんはいろいろなタイプのリーダーがいてもいいと言っています。


深谷:昔ながらの引っ張り型のリーダーシップだけではなく、相手のために奉仕する“サーバントリーダーシップ”、チームのなかでリーダーの役割が共有される“シェアド・リーダーシップ”のような言葉も生まれました。リーダーの在り様も多様化しているゆえ、リーダーは自分に求められる役割は何なのか、原点に立ち返らないといけないと思います。こうしなければいけないという型があるわけではなく、状況に合わせて適材適所の働き方ができるほうが大事かもしれません。


――深谷さんの本を読んでいると、グイグイ引っ張っていくタイプよりも、部下を信頼して適切な仕事を任せられるプロデュース能力の高い人のほうが、リーダーには適格であるように感じます。


深谷:リーダーだけではなく、社員の誰しもがそういうマインドになってもらうことが理想です。上司からフィードバックしてもらうだけでなく、上司が後輩や同僚から「こういう仕事が得意ですよね」とフィードバックされてもいい。リーダーだけでなく、みんながお互いに影響を及ぼし合うチームのほうが理想的だと思います。


■光だけでなく闇の部分も見せる

――リーダーとして自分を素直に出すことに、難しさを感じる人は多いはずです。深谷さんはこれまでのリーダーでの失敗談などを本書でもオープンにされていて、とても好感が持てました。この境地に至った経緯をお教えください。


深谷:いえいえ、本当は私もカッコつけたがりなんです(笑)。当初はできることばかり主張し、できないことは隠そうとしていた時期がありました。けれど、仕事でトラブルやアクシデントが起こったときは、誰しもが同じことをやりそうだから次に生かそうと、教訓としてテキスト化してきたことがあります。だから、失敗に対してネガティブな気持ちが徐々になくなって行ったのが本音です。それに、自分の素を出すことは、家電メーカー時代に、地域の人に向けて講座を実施した際に培われたと思います。


――具体的にどんな講座だったのでしょうか。


深谷:「家庭でできる環境対策」といったテーマの講座でした。講座終了後のアンケートを見て、大半は好意的でしたが、「企業の闇の部分に光を当てて見せろ」と書かれていたことがあります。地元にある企業のことを、地域住民が必ずしも好意的に見ているとは限りません。闇ってなんだろうと、その時に考えたのです。それまで市民に見せていたのは光の部分だけで、“できていないことまでお伝えすること”が闇に光を当てることだと思ったのです。


――人も企業も何かとプラスの部分ばかりを表に出したがるものですが、マイナスの部分を明らかにするには勇気が要りますよね。


深谷:そうなのです。ただ、こんなこともやっているんだけれども、これはできていない……と闇の部分も開示したら、市民も「うちでも実は同じ悩みを抱えているんです」と話してくれるようになり、一気に距離が縮まりました。光を見せるのはPRですが、闇をさらけ出すと相手が心を開いてくれるきっかけになる。話が終わった後、市民の方々の表情が一気に変わるのがよくわかりました。


――大成功ですね!


深谷:リーダーも同じだと感じました。リーダーは何でもできないといけない、弱みを見せてはいけないと思う人は多いでしょう。ところが、わからない、できないと素直に言うことは部下と信頼関係を築くうえで大切です。少なくとも、私はこの講座を任されて以降、リーダー像がそのように変化しました。


■現代のリーダー、何が正解?

――現在の若いビジネスパーソンは、面倒くさい仕事が増えるからと、リーダーになることを最初から拒否する人もいるようです。深谷さんの周りに、リーダーになることを躊躇する方がいた場合、どのようにお声がけされますか。


深谷:人から「やってみて」と言われたことは、一回やってみたらいいと思うんです。自分は何者で、何ができるのか……と自分探しをしている人がいますが、自分で自分を探していても何も見つからないんですよ。あなたはこれができそうだと思われて任されるのだから、まず実践してみてはいかがでしょう。自分一人では気づかなかった自分に気づく大きなチャンスだと思うのです。


――やってみてダメだと思ったら、やめればいいわけですからね。


深谷:おっしゃる通りで、やってみて嫌だったらやめればいいと思うのです。登山をしない人は、登山家はなぜあんなに苦しい思いをして登るのかと思うでしょう。でも、登ったからこそ見える景色やかけがえのない体験が得られます。最初から自分はできない、向いていないと決めつけて、やらずにいるのはもったいないと思います。あとになってから、あのときやっておけばよかった……と後悔するのがもっとも辛いことですから。


――本書を読んで深谷さんが一番大切にされているのは、一緒に働くスタッフへのコミュニケーションや言葉のかけ方だと思います。特に、具体的な行動や指針を示しながら言葉をかけるのが大事だと説いています。


深谷:言葉は本当に大事です。具体的な例を示してあげないと部下はやることのイメージができないので何をして良いのかわからない。相手の立場になって、しっかりと業務がイメージできるくらい、具体的な言葉で伝えることを心がけてほしいです。


■部下に仕事を任せるテクニック

――リーダーという立場になってもプレイヤー意識が抜けず、なんでも自分でやろうとする人がいます。部下に仕事を任せられるようになるには、どうすればいいのでしょう。


深谷:自分がやった方が早い、渡したくないという感覚がある人は多いですよね。私も同様で何でもやりたがるタイプなのですが、中国に行ったときに視点を変えました。その人のために何ができるのか、チームのために何が最適なのかと考え、仕事量と納期を具体的に確認するようにしたら、部下に任せられるようになっていきました。


――「仕事を抱え込むのでなく部下を信頼して渡す」テクニックを本書では解説されています。


深谷:自分一人で抱えきれない仕事ならば、部下に業務を割り振り、分担するべきです。ただ、任せたいけれど、何からお願いするべきなのか、わからない人もいますよね。そんな時は、仕事の割り振りを自分一人ではなく、部下と一緒に検討してはどうでしょう。相手に任せられないときは、頭の中に漠然と仕事の全体像があり、何をすべきか言語化できていないことがある。細かい作業まで分解できれば、自分も部下も仕事の解像度が上がるので、やるべきことが明確になりスムーズに仕事が回り始めることになります。


――部下に仕事をお願いする場合、日頃からのコミュニケーションが大事だと思います。コミュニケーション以外にも、深谷さんが大事にされていることはありますか。


深谷:部下のことを十分に理解する、観察することでしょうか。部下に興味を持つことですね。コミュニケーションも、私はリーダーが一方的に話すよりも部下の話を聞くことが大事だと思います。こういう悩みを持っているんだな、こういう言葉を使うんだな、こういうことをしたいんだなという話は、対話を重ねていくなかでわかっていくのです。部下に対する観察と質問がリーダーには必須だと思いますね。


■躍進する中国、リーダーはどう振舞っている?

――コミュニケーションはビジネスにおいて不可欠だと思いますが、そのあり方も国によって変わるのでしょうか。


深谷:2013〜19年まで中国にいた時、現地ではチャットを使って仕事をしていました。チャット上のグループで情報共有し、指示もチャット上で行うのです。当時の日本は電話とメールが主体でしたよね。工場でトラブルが起きたとき、日本なら電話がかかってきて、現場に赴くこともありました。今ではSlackを取り入れる企業も増えている通り、チャットだと同じ情報が多人数でシェアできる。動画も送れるので情報共有がしやすい。現地に行かなくても判断材料があるので、明確な指示ができるし、やりとりの記録が残るので「言った」「言わない」のトラブルも発生しないのです。


――物凄く効率的ですね。日本と中国では、企業風土も異なりますし、リーダーに求められる資質にも違いがありそうです。


深谷:ベースの部分では大きな違いはないと思っています。ただ、お国柄によって違うなと肌で感じたこともあります。日本はチームワークを大事にして、人が抜けた分をみんなでフォローするといった働き方が普通に行われますよね。ところが、中国は個人の業務が明確に決まっているので、人の仕事に手を出さないんです。私が良かれと思って他人の仕事を手伝ったら「それはあなたの仕事ではない」とすごく怒られたことがありました。


――なんと! そんなことがあったのですか。


深谷:少しでも相手が楽になればいいと思ってやったのに、なんで怒られたんだろうと最初は疑問でした。ただ、私は手を出したけれど、何かあったときの責任までは持てないわけです。あなたは責任取れないでしょ、だったら余計なことはしないで、という理屈です。


――個人の仕事が明確だと、リーダーの指示の出し方一つも違うのでしょうね。


深谷:中国はトップダウン型の組織が多いので、リーダーがまず目標をしっかりと掲げることが大切です。そして現場の士気を上げながら、部下の仕事がどこまで進んでいるかを把握し、遅れているときは分担してやろうという指示は、リーダーが出す。そして、最後はリーダーが何とかする。日本も同様のリーダー像はありますが、中国は特にその傾向が強く、最終的にリーダーがあらゆる手を尽くして問題解決にあたりますね。


■目の前にいる人のために何ができるか

――中国企業とのやりとりの際に、政治や宗教の問題など、深谷さんが気をつけてきたことは何がありますか。


深谷:政治のことは話題にしないように気をつけましたが、あんまり意識しないようにしてきました。日本人には、中国ってこうだ、中国人ってこうだ、という思い込みがありますよね。私はそういった思い込みをせず、ニュートラルに事実を確認するようにしました。中国人としっかりとした信頼関係ができれば家族以上の関わりをしてくれる方も多い。とにかく先入観を捨て、一緒に働く仲間としてのコミュニケーションを大切にしました。


――中国の企業が世界経済の中でも頭角を表している要因は何がありますか。


深谷:3つあると思っています。1つ目は圧倒的なスピード感。中国は5〜6割の完成度でも商品化するんです。何か起きても彼らは失敗と考えず、結果と考え、試行錯誤して改善していきます。2つ目は現場の対応力。日本は何かあった時にまず上司に確認しますが、中国はその場にいる人がその人なりに考えて解決しようと試みます。3つ目はめちゃくちゃ働くこと。一昔前の日本かなと感じてしまうほどです。良いか悪いかは別として、やらなければいけない仕事をやるときのパワーが凄いですし、高い目標を掲げてもやりきろうとしますね。これらが中国の急成長の要因だと考えています。


――ありがとうございます。そういった中国の強みを分析し、本書で書かれているリーダーのテクニックを取り入れていけば、まだまだ日本企業の伸び代があるような気がします。最後に、この本を読んでリーダーになりたいと思う人にメッセージをいただけますか。


深谷:今回の本は、リーダーはこうあるべきだと思っている方、そしてリーダーという仕事に不安を感じている方に向けて書きました。リーダーに必須なのは、視点を自分ではなくチームに向けることです。この人にはこうなってほしいとか、こういうチームにしたいとか、湧き上がってくる思いがリーダーシップの基礎だと思います。自分の目の前にいる人のために何ができるかを考え、それをするためにリーダーがいると考えてほしいです。


――だからこそ、リーダーはやりがいのある役職だと思います。


深谷:これまでにいろいろなリーダーに話を聞いてきましたが、最初は躊躇していた方でも結果的にやってよかったという意見がたくさん聞けました。リーダーの立場にいるからこそ、人のためにいろいろなことができたと話す人もいます。なぜならリーダーにしか味わない喜びはたくさんあります。この本はそのための心構えをまとめていますので、難しく考えずに読んでもらえればと思っています。



■著者プロフィール 深谷百合子(ふかや・ゆりこ)



研修講師/合同会社グーウェン代表。大阪大学卒業後、ソニーグループ、シャープで工場の環境保全業務を行う。2006年、シャープ亀山工場初の女性管理職となり、約40名の男性部下を抱えるが、仕事を任せられず、リーダーシップとは何かに悩む。失敗して萎縮する部下のフォローをする中で、自分らしいリーダーのあり方を見出す。2013年から部長職として中国国有企業との新工場建設プロジェクトに参画。その後、中国国有企業へ転職。動力運行部の技術部長として約100名の中国人部下を育成する。現在は職場コミュニケーションの改善を主なテーマに、講演や研修を行っている。



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