なぜ「ジョブ型雇用」は機能しないのか? その“弱点”

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2024年10月30日 08:41  ITmedia ビジネスオンライン

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 日本企業においてジョブ型雇用(以下、ジョブ型)に対する注目度が高まり、移行を進める企業も増えています。


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 先の新型コロナ禍では、年功序列、曖昧(あいまい)な職務定義など、これまでの日本型雇用慣行の欠点や限界が一気に顕在化してきました。そしてそれに替わる新しいやり方として、各人の職務内容を明確に規定し、専門家としての貢献を求めるジョブ型への期待が高まっているのでしょう。


 とはいえ、ジョブ型も万能ではありません。ジョブ型の制度へと移行した会社で働いている方々と実際に話をすると、ジョブ型導入への困惑の声、ジョブ型のデメリットなどを指摘する声が多く聞かれます。


 例えば、次のような意見です。


・自分の職務範囲に集中した方が得だと考え、周囲と連携や協調が弱くなった


・自分のスキルアップへの関心は高まったが、チームメイトに対して関心が薄くなった


・会社のビジョンや方向性などへの関心が薄れ、目の前の仕事に過度に集中してしまう


・ジョブ型の制度が導入されたが、みんなの仕事のし方は変わっていない。何のための制度変更なのか分からない


 ジョブ型は、確かに年功序列、配置転換の難しさ、専門家が育ちにくいなど、これまでの日本型雇用慣行の弱点を補うという観点からは、ある程度効果的と言える側面があります。また、ジョブ型は、個人に対してスキルアップのモチベーションを喚起するなど、さまざまなメリットもあります。


 しかし、当然ながらジョブ型にもデメリットがあります。そのデメリットをしっかり認識しないままに、流行に乗ってジョブ型移行を進めることは、実は大きなリスクを伴うのです。ジョブ型を機能させ、組織に根付かせるためには、そのメリットを生かすと同時に、デメリットを補うための対策が必要です。具体的に、どのように考えればいいのか、さっそく見ていきましょう。


●ジョブ型雇用の弱点を補う術は?


 ジョブ型のデメリットは、ひとことで言うと「人と人のつながり」が弱くなるということに尽きるでしょう。ほとんどの仕事は一人ではなくチームで行われます。どんな組織でもパフォーマンスを高めるためには、土台として「人と人のつながり」や「チームワーク」が不可欠なのです。


 「人と人のつながり」が弱くなると、チームで仕事をしている感覚が希薄になり、ビジョンなどの求心力が機能せず、個々人の専門性や能力がバラバラに発揮され、全体の成果につながりません。いつもボタンを掛け違っているような状態です。また、互いに対して無関心になりやすいことから、組織の雰囲気はギスギスし、お互いの力を生かすどころか、互いに力を削ぎ合っているかのような殺伐とした状態になりかねません。


 実はジョブ型の弱点である「人と人のつながり」という特徴を大切にしていたのが、これまでの日本企業の雇用慣行である「メンバーシップ型」です。メンバーシップとは共同体という意味で、まず入社した人はその企業=共同体の一員として迎え入れられます。どういう仕事をするかは後で決まります。仲間としてのつながりは強く、愛社精神を持っています。


 このメンバーシップ型と終身雇用、年功序列などの制度が結びつき、高度成長期の日本企業の躍進を支えるひとつの土台となっていました。


 そういう意味で、ジョブ型の弱点である「人と人のつながり」を補完するためには、ジョブ型とメンバーシップ型を“ハイブリッド”することが効果的だと筆者は考えています。


●令和モデルの「メンバーシップ2.0型」とは


 とはいえ、これまでのメンバーシップ型にはさまざまな問題があり、いわゆるザ・メンバーシップ型のスタイルをそのまま復活させればいいというわけではありません。


 最近、昭和の風土・体質が何かと話題になっています。「不適切にもほどがある!」というドラマのヒットも記憶に新しいですが、これまでのメンバーシップ型はいわゆる昭和型です。これを令和の時代にフィットするように進化させていかなければなりません。


 それでは、令和のメンバーシップ2.0型とは一体、どのようなものなのでしょうか。昭和型との違いという観点から解説します。


【信頼関係・つながり】


・昭和型:同質の安心感(同じ釜の飯を食った仲間)


・令和型:多様性を認め合い、尊重し合う


【個人と組織とのつながり】


・昭和型:個人は組織に従属・埋没。愛社精神を持つ


・令和型:個人と組織が対等な関係(パートナー)。エンゲージメントで結びつく


【他のメンバーとの関係】


・昭和型:強い序列意識と同調圧力


・令和型:パーパスやビジョンを一緒に追求する仲間。フラットな関係


【個性の尊重と個人の自立】


・昭和型:没個性。会社へのキャリア依存


・令和型:自立した個人。個性を伸ばす。キャリア自己選択


 このように「つながり」を大切にするメンバーシップ型と言っても、昭和型(1.0)と令和型(2.0)ではその内容が大きく違います。ジョブ型導入などで職場の人間関係が希薄になってきたという問題意識を感じた時に、上司側から往々にしてやってしまうのが「じゃあ飲みに行くか」など、昭和型でつながりを作ろうとしてしまうことです。


 もちろん昭和型の全てが悪いわけではないのですが、残念ながら昭和型が通用する人は世代が下がるにつれ少なくなっており、これからは根本的な問題解決には至らないでしょう。


 まとめると、最近の流行のジョブ型のデメリットを補完するためには、メンバーシップ型の文化との“ハイブリッド”が効果的であること。またそのメンバーシップ型は、昭和型ではなく、令和型のメンバーシップ2.0型であることが求められるのです。


【令和のメンバーシップ2.0型のキーワード】


 多様性の尊重、個人と組織の対等な関係、エンゲージメント、パーパス・ビジョン、フラットな関係、個性、キャリアと人生の自己選択


●著者プロフィール:塩見康史(しおみ・やすし)


 株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー。



このニュースに関するつぶやき

  • 薄っぺらい的外れな評論だな。技術系企業でも、重宝するのはゼネラリストなんだよ。スペシャリストは一部の専門部署にはいるが、彼らにプロジェクトは回せない。ジョブ型を掲げておいて、ゼネラリストに頼ってる会社側の問題だよ。
    • イイネ!6
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