「ルフィ」らを指示役とする広域強盗のうち6件に実行役として関わったとして強盗致死などの罪で起訴されている被告人、永田陸人(23)に対する裁判員裁判が東京地裁立川支部(菅原暁裁判長)で10月18日から開かれ、同月24日に検察官は永田被告人に無期懲役を求刑し結審した。
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裁判では、逮捕後の気持ちを問われ「遺族のために死刑が必要だと知った」「言葉にならない……ごめんなさいしか言えないです」と涙ながらに深い後悔を滲ませた。こうした永田被告人の態度を、情状酌量を狙うための作戦だと見る向きもあるだろう。
しかし被告人自身は、酌量を求めてはいない。
最終陳述でも「私の動機は遺族にとって全く関係のないこと。私利私欲のために行なったもの。裁判員裁判では被害者感情が一番尊重される。被害者の気持ちをよく考えて判決を下してください。極刑を下してください」と死刑を検討するよう裁判官や裁判員に訴えかけた。
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事件当時と現在の大きな心境の変化はどのように生まれたのか。(ノンフィクションライター・高橋ユキ)
永田被告人は2023年1月12日、他の実行犯らと千葉県大網白里市での強盗に及ぶが、途中で店舗の警報器が鳴り、金銭を強奪することなく立ち去る。
“一目置いているヤミ金”への返済が滞ることになると考えた被告人はその日のうちに「キム」に次の“案件”を紹介するよう迫った。こうして「キム」が紹介したのが、のちに世間に広域強盗の恐怖を知らしめた狛江事件となる。
2023年1月19日当日、他の実行犯らが宅配業者役を装い、90歳女性Aさんのみが在宅している狛江市内の一軒家に侵入。
Aさんを結束バンドで拘束し、金のありかを聞き出しながら、家の中を物色していたが、金目のものが見つからない。犯行時も、テレグラム通話を通じ、イヤフォンで指示役からリアルタイムに指示をされる。
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このとき「キム」は、他の実行犯がAさんから金のありかを聞き出せないことについてテレグラム通話で〈ババアが金のありかを吐かない。カルパスくん、一発喝入れてきて〉と永田被告人に指示を送る。これを受けて永田被告人は、Aさんを拳で殴り、さらに共犯の野村にAさんをバールで殴らせ、そのうえ自らもバールでAさんを殴った。
しかしそれでもAさんが金の置き場を話さないことから疑念を抱いた永田被告人は、Aさんが〈本当にターゲットなのか〉と「キム」に写真を送って問い合わせる。すると〈あちゃー。人違いですね〉と返答が来たのだという。
金を見つけることはできず、腕時計3つと指輪を奪って逃走した。
永田被告人としては千葉・大網白里の強盗でも、狛江の事件でも金品を得られなかったことから、強盗をやめるという選択肢はこのときなかった。
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さらなる案件として「キム」から、東京都足立区の2件の強盗を提案され、狛江事件翌日、うち一件について実行しているなかで逮捕された。この足立事件で被告人は初めて、現場に突入する実行役ではなく、運転手役を担っていた。
「キムさんからも『えっ、なんでやらないんですか。根性あるからやればいいじゃないですか』と言われてましたが、やりたくなくて……。ひとつは、狛江の事件でAさんが死んでしまったこと。翌日にニュースを見ながら思ったのは、自分が現場にいたら……、広島の事件でも被害者の方が重体になって、俺のせいだとなってて、またやっちゃうんじゃないか。
自分はもういないほうがいいんじゃないか。僕がリーダーじゃなかったらこんなことにならなかったんじゃないか。もう実行犯は嫌だと思ってキムさんを説得して運転手役になりました」
被告人は当時「胴元になりたいという気持ちがすごくあった」という。「キム」への憧れも、その気持ちを後押ししたようだ。
「強盗は自分でやるとパクられる可能性が非常に高い。遠隔で指示出すか、犯罪をするかと考えたら指示役が一番ベスト。正直僕はキムさんに憧れてました。ユーモアがあり、面白く、頭がよく、格上の犯罪者として理想。こんな人になりたいなという憧れが正直ありました」
しかし胴元になるという目標は潰えた。足立区の事件で実行犯らを家人宅前で降ろし、近場に車を停めているところで警察に職務質問され逮捕に至った。
「正直、大網白里の事件から、強盗で得た金でヤミ金の借金を返して、競艇をやって、パクられるからガラを隠して……と、胴元になろうと、指示役になろうとやっているのでずっと犯罪のことしか考えてなかったです」と、逮捕に至るまでの心境を振り返るが、逮捕後はこうした気持ちに大きな変化が生じたという。
各事件の取り調べにおいて、捜査員らと関わり、また拘置所内で被害者の心情や加害者家族の実態が記された書籍を読み、篤志面接を受けるなどして、少しずつ考えが変わってきたと語る。
「捜査の過程で出会った人にかけられた言葉や、篤志面接などで、被害者が失ったものの大きさがわかりました。また自分が家族や友人の優しさを感じたように、いうまでもなくそれは被害者の周りにもあって、彼らの家族にもあった。それを僕が突然奪ってしまった……」
証言台に肘をついて泣き始めた被告人は「本当は泣くつもりじゃなかった」と言いながら、裁判の証拠になっていない関係者らの調書も読んだことを明かし、さらに続けた。
「広島の被害者の方でいえば、犯行前の状況がよく書かれている調書を読みました。お酒を飲みに行くのが好きで、釣りやテニスが好きだった……もう今はそういうことができなくなってると……。こんな未来を奪った犯人を許せないと……。
他の事件の調書でも、犯人に今までの日常を理不尽に奪われた苦しみ、悲しみが続く。悔しくて悔しくてたまらないと言っていました……言いたいことはいっぱいありますが言葉にならない。ごめんなさいしか言えないです」
涙を流しながらこのように語った被告人は逮捕後、今に至るまで、全容解明のために捜査に協力し、また共犯らの公判にも証人出廷し、事件について語り続けている。
こうした姿勢は検察官も論告で「真相解明に寄与している」と認めていた。現在「ルフィ」ら指示役のうち「キム」以外は黙秘しているといい、永田被告人は彼らの公判でも証人として証言するつもりであると明言している。
論告で無期懲役が求刑されたのち、最終陳述では泣きながら、自ら、死刑を求めた。
「私のやった役割は重大で、私のせいで凶悪な強盗になり、私のせいでエスカレートさせていった。私が加わることで悪い方向になっていたと思います。無期懲役が求刑されましたが、犯行はとても悪質で残虐で結果も……とても重大なもの……責任を果たすには無期懲役ではなく死刑が相応しいと強く望みます」
判決は11月7日に言い渡される。
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