2023年7月に福岡県久留米市田主丸町竹野地区で発生した土石流の被害を風化させることなく伝えようと、同町出身で福岡市城南区在住の平島孝三郎さん(72)が「竹野豪雨災害記録誌」(32ページ)を作製した。住民らに向け、10月から竹野校区コミュニティセンターで配布している。
平島さんは、土石流が発生して死者1人、重軽傷者5人を出した地域で生まれ育った。竹野地区は耳納連山のふもとに位置する風光明媚(めいび)な場所で、平島さんは「災害とは無縁な土地だと思っていた」と語る。だが、23年7月の豪雨により千ノ尾川で土石流が発生し、見慣れた景色は一変した。
「まさか、こんな被害が起きるとは」。報道で甚大な被害を知った平島さんは、災害発生から4日後に現地に駆けつけ、その惨状を目の当たりにした。郷里のために何かできないかと考え、竹野地区など地元の友人たちに相談して記録誌の作製に取りかかった。
記録誌では、新聞報道や久留米市の資料、住民へのインタビューなどをもとにして、災害発生時の状況や被害の実態を文章や写真で振り返った。被災者の声も盛り込み、土石流が自宅近くに押し寄せてきた時の様子なども生々しく伝えている。
研究者からの提言として、気象災害史を研究する九州大工学研究院の西山浩司助教(気象工学)の寄稿も掲載した。西山助教は、約300年前に竹野地区など耳納山地の広域で発生した水害を記録した古文書をひもとき、周辺では繰り返し土石流が起きていることを指摘する。その上で「地域のことを再認識してもらいたい。同じ地区に住み続けることを前提にした上で、命を守る方法を考えてほしい」と呼びかける。
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自費で作製した記録誌は今夏に完成し、竹野校区コミュニティセンターへ200部を寄贈した。同センター事務局の竹野校区まちづくり振興会、渡辺美和さんは「またいつ自然災害が起きるか分からないので、日常の中で防災意識を高めるために記録誌を活用できれば」と話している。
平島さんは「災害が起きやすい地域のため、雨が降ったら逃げる準備をしてほしい。記録誌が次の世代へと災害を語り継ぐ一助になれば」と故郷の将来を思いやった。【山崎あずさ】
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