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「犬飼さん、僕は君が好きだ」
まさか、プリキュアでこんなにも甘いセリフが聞けるとは。
まさか、プリキュアで恋愛をここまで真正面から描くとは。
「カップル誕生」に大人のプリキュアファンも大きな盛り上がりをみせた、2024年10月の「わんだふるぷりきゅあ!」。
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プリキュアシリーズで「恋愛」がどのように描かれてきたのか。プリキュアで「恋愛がタブー視」されていた時期があったのは本当なのか? プリキュアの「恋愛描写」の変遷を見ていきたいと思います。
●祝カップル成立
「わんだふるぷりきゅあ!」絶好調です。
9月13日に公開された映画「わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー! ドキドキ・ゲームの世界で大冒険!」(・はハートマーク)も興行収入11億5000万円を突破。歴代プリキュア映画で2位の興収を記録するなど、好調が続いています。
10月6日放送の第36話「特別なワンダフル!」では、かねて犬飼いろは(キュアフレンディ)に恋心を寄せる同級生の兎山悟くんがついに、いろはちゃんに告白しました。
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戦いの中で、悟くんが「誰にもとられたくない存在」であることに気付いたいろはちゃん。夕暮れの海岸で「悟くんが特別なワンダフル」であることを告げ、晴れて2人はカップルとなりました。
その翌週の放送は「初デート」回。悟くんの「犬飼さん」呼びが「いろはちゃん」呼びになり、さらに手もつないじゃったりして、「悟くんといろはちゃんを見守る会」と化したSNS上の大人たちは、その甘すぎる描写に悶絶(もんぜつ)したのです。
友達の「好き」と恋愛の「好き」の違いを、恋愛の概念がよく分からない犬のこむぎを通して子どもたちに分かりやすく説明していたのも良かったですよね。
下世話な言い方にはなりますが、ついに「彼氏持ちのプリキュア」が誕生しました。これはプリキュア21年の歴史をみても画期的な出来事なのです。
●プリキュアシリーズで描かれてきた恋愛
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とはいえ、21年もの長い歴史のプリキュアシリーズでは過去作においても数多くの「淡い恋愛描写」はありました。
初代「ふたりはプリキュア」の美墨なぎさ(キュアブラック)は藤P先輩に淡い恋心を抱いていました。以降のシリーズでも「スプラッシュスター」の日向咲(キュアブルーム)は、美翔舞(キュアイーグレット)の兄、和也さんに憧れ、「Yes!プリキュア5」の夢原のぞみ(キュアドリーム)はパルミエ王国の王子、ココとの恋愛模様も描かれました。
初期のプリキュアは「年上のお兄さんに憧れる」少女漫画的な恋愛が描かれることが多かったように思います。
以降「フレッシュプリキュア!」では桃園ラブ(キュアピーチ)に恋する同級生、知念大輔が告白するも最終回で「言っわなーい!」と答えをはぐらかされたり、「スマイルプリキュア!」では日野あかね(キュアサニー)と、英国の青年ブライアンとの淡い恋愛模様が描かれたりもしました(あの第36話「熱血!?あかねの初恋人生!!」は名作中の名作ですよね)。
その他にも数多くのコメディータッチの「淡い恋愛」は描かれてきましたが、恋愛要素をストーリーの主体に置くことはなく、答えを出して2人の関係性が大きく変わるような直接的な恋愛はプリキュアではほぼ描かれてきませんでした。
●恋愛を描くことはタブーだった?
プリキュアに「直接的な恋愛の物語」が少ない理由について、プリキュアの脚本を数多く手掛けている成田良美さんは、2013年刊行の書籍『プリキュアシンドローム』(幻冬舎)の中で、当時は保護者側から「恋愛は避けて欲しい」という反応があり、徐々に恋愛描写が薄まっていったことに言及しています。
成田 やはり視聴者が三、四歳の女の子なので、保護者の方たちからも「恋愛はちょっと……」という反応があり薄まった形です。私が小さい頃に見ていたアニメでは本気で恋愛をやっていたんですけど、いまはあまりないみたいですね。
幻冬舎『プリキュアシンドローム! “プリキュア5”の魂を生んだ25人』(P263)
また成田さんは、恋愛を主軸とした「ハピネスチャージプリキュア!」(2014年)を手掛ける際にも、「プリキュアで恋愛を描くことはタブーになりつつあった」「恋愛エピソードは避けてほしいと言われる」こともあり、プリキュアで恋愛を描いて良いか何度も確認したことを、後にオフィシャルコンプリートブックの中で語っています。
成田 『プリキュア』は子どもが観るということもあって、恋愛を描くのはタブーになりつつありました。実際に脚本を担当するときも、恋愛のエピソードは避けてほしいと言われることもあるくらいで。ですが、今回は長峯さんが「やりましょう」と言ってくれたので、「ついていきます」という気持ちでしたね。ただ私自身が長く『プリキュア』に関わっていることもあって、「本当に書いていいんですか?」と何回も確認しました。
学研プラス『ハピネスチャージプリキュア! オフィシャルコンプリートブック』(P80)
この「ハピネスチャージプリキュア!」はまさに「恋愛」を一つのテーマとした作品で、主人公の愛乃めぐみ(キュアラブリー)と神様ブルーと幼なじみの相楽誠司くんの三角関係が物語の主軸に置かれ、最終的には愛乃めぐみがブルーに失恋してしまいます。
「主人公プリキュアが失恋する」という衝撃的な展開は大きな話題となり、その後に相楽誠司くんと「ちょっとだけ良い関係に進展した」描写で最終回を迎えることになりました。
このように、一度は「恋愛」にチャレンジしたものの、以降の作品ではその反動なのか「恋愛」は大きくフィーチャーされることはなく、あくまで物語に華を添える程度の描写が続きます。
●「きちんと告白して、きちんと振られる」
次に転機となったのは「HUGっと!プリキュア」(2018年)です。
この作品ではプリキュアの一人、輝木ほまれ(キュアエトワール)が妖精ハリハム・ハリーに失恋してしまいます。ここでは「きちんと告白して、きちんと振られる」という直接的な描写が描かれました。
また、野乃はな(キュアエール)と敵組織のボス、ジョージ・クライの恋愛的な関係性も描かれ、未来世界での野乃はなの出産シーンも大きな話題となりました。
このように、少しずつ「恋愛」に関するエピソードも淡いものから「直接的な表現」が用いられるようになっていきました。
また、「意識的に恋愛を描かなかった」シリーズもあります。
「トロピカル〜ジュ!プリキュア」(2021年)は、土田豊シリーズディレクターの意向であえて恋愛を描かなかったようです。
横谷 そもそも土田さんから、「恋愛要素は一切入れたくない」という話もあったんです。
村瀬 土田さんの「この作品で重視したいこと」といった最初のメモに「恋愛要素はなし、1話完結」とありましたね。
徳間書店『トロピカル〜ジュ!プリキュア』特別増刊号 アニメージュ2022年1月号増刊(P26)
そして「デリシャスパーティ・プリキュア(・はハートマーク)」(2022年)では、プリキュアと「ともに戦う男の子」としての品田拓海(ブラックペッパー)が登場しました。
彼は明らかに、幼馴染の和実ゆい(キュアプレシャス)を恋愛的に意識している描写が多々見られましたが、製作者側からは「ゆいと拓海の恋愛はスパイス程度」と言及されたように、メインでの恋路は描かれませんでした。
安見 そして女の子のピンチを「救う」のではなく、ともに戦う男の子にしたくて、ブラックペッパーは生まれました。いろんな立場の方が世界にいることを自然に含みながら、みんながごはんに対して真剣に戦っているという姿を描きたかったんです。ゆいと拓海の恋愛様は、ちょっとしたスパイスという感覚ですね。
Gakken『デリシャスパーティ・プリキュアオフィシャルコンプリートブック』(P93)
傾向としては、時代が進むごとにプリキュアの恋愛模様は「憧れの王子様」的な恋愛から「一緒に戦うパートナー」としての恋愛へといった変遷も見て取れます。
●プロポーズされ結婚に至ったプリキュアも
さらに2023年に放送された、「Yes!プリキュア5」のスピンオフの続編「キボウボチカラ〜オトナプリキュア’23〜」の最終回では、パルミエ王国の王子ココが、ついに夢原のぞみにプロポーズ、結婚に至りました。
スピンオフ作品とはいえ、ついにプリキュアが結婚したのです。
(ちなみに、恋愛的なターニングポイントとなっている「ハピネスチャージプリキュア!」「キボウボチカラ〜オトナプリキュア’23〜」「わんだふるぷりきゅあ!」は成田さんがシリーズ構成を務めています)。
●時代の変化に合わせて
2人の女の子が「手をつないで」変身することから始まったプリキュアシリーズ。
20年の歳月を経て、男女が恋愛的な意味で「手をつなぐ」にまでに至りました。
プリキュアにおいて「手をつなぐ」という行為には重要な意味がこめられ、「友情、信頼、あきらめない心」などの象徴として描かれ続けてきましたが、そこに「恋愛的な愛情」も加わったのです。
現実世界に目を向けても、かつてはアイドルや俳優さんに彼氏彼女がいるなんて言語道断の空気感だった時代もありましたが、2020年代では俳優さんやタレントさんが、恋人がいることを公言していたり、結婚してもアイドルを続けていくのも普通のことになってきました。
プリキュアでも、かつては「コクる」「彼氏」という言葉1つだけでも保護者から大ブーイングだった時代がありました。
しかし、時代の変化や保護者の価値観の変化に合わせて「告白」「デート」「結婚」といったことが描かれ、「彼氏がいるプリキュア」そして「結婚したプリキュア」も表現できる時代になりました。表現の幅が大きく広がってきています。
梅澤 実は大ブーイングでした。「コクる」「彼氏」というセリフも評判が悪かったです。中学生だから、必然性があるから、大丈夫というわけじゃない。両親が観せたくない作品になっては『プリキュア』じゃない、と痛感しました。
ぴあ『プリキュアぴあ』(P87)
●プリキュアターゲット層の拡大
また、恋愛事情の描き方からプリキュアのターゲット層が変化も見て取れます。
今回の悟くんといろはちゃんの恋模様は、すでにプリキュアを離れつつある小学生女子の心をつかんだようです。
SNS上でも「うちの小学生の子どもが食い入るように悟くんの告白をみていた」「娘、プリキュアは卒業したはずなのに、キャーキャー言いながらわんぷりは毎週見ている」などの投稿も数多く見られました。
プリキュアのキッズコスメ玩具「PrettyHolic(プリティホリック)」の対象年齢も6歳以上となっているように、3〜5歳をターゲットとしてきたプリキュアシリーズが、ここ数年は小学生の女子を取り込む(というか、離れるのを防ぐ)傾向も見られ、そんな小学生女子やそれ以上の若い女性を新たな顧客として取り込むような展開をしています。
それらの世代に関心の高い「恋愛描写」は、この先のプリキュアでも色濃く描かれるのではないでしょうか。
変わり続けることがプリキュアの強さなのです。
(C)ABC-A・東映アニメーション
●著者:kasumi プロフィール
プリキュア好きの会社員。2児の父。視聴率などさまざまなデータからプリキュアを考察する「プリキュアの数字ブログ」を執筆中。2016年4月1日に公開した記事「娘が、プリキュアに追いついた日」は、プリキュアを通じた父娘のやりとりが多くの人の感動を呼び、多数のネットメディアに取り上げられた。
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