インディーアニメチーム「スタジオ春となり」が手がけた自主制作アニメ『藍の約束』本編がYouTubeにて公開中だ。
スタジオ春となりは、アニメ・映像業界を夢見る学生や、業界で活躍するクリエイターなどが集う自主制作アニメチーム。『藍の約束』は同チームの初の短編アニメ−ション作品で、監督を担うのは演出家の新渡つもり。
劇中楽曲は、TVアニメ『僕の心のヤバイやつ』でEDを担当したこはならむと、SNSの総フォロワー数280万人(2024年10月現在)を誇るMINA。声優には、豊崎愛生(少年ラン役)、雨宮天(魔法使い役)が参加した。
<あらすじ>
物語は、少年・ランがある夏の夕暮れ、魔法の世界に迷い込み、その世界に住まう魔法使いと出会うところから始まる。元の世界へ帰りたいランは、魔法使いから「元の世界に戻るためには、魔法を覚える必要があること」を告げられる。
魔法使いの屋敷で手伝いをしながら魔法を教わることになるラン。しかし、魔法使いにある重要な秘密を隠しており……。
昨今、インディーアニメを活用した広告プロモーションも増え、今後もインディーアニメ市場も拡がっていくことが予想される。
インディーアニメの魅力とは? どのように作られていくのか? 本稿では、本作のアニメ制作工程を、監督・新渡、プロデューサー・TIMTOMのコメントとともに紹介していく。
◆アニメはこうして作られる! さまざまな制作工程
絵コンテ
まず、作品の脚本・設定・デザインが決定し、絵コンテに進んでいく。絵コンテは映像の完成イメージを各工程のスタッフに伝えるための重要な設計図といえる。
本作ではなるべく正確なイメージの共有のため、絵コンテと同時に参考音声入りのVコンテを作成した。ソフトは「Storyboard Pro」を使用。
*Vコンテ...ビデオコンテの略。絵コンテの素材をタイムラインに乗せて映像化したもの
新渡つもり:最初のVコンテでは私が声を入れていました。アフレコ後、豊崎さん雨宮さんの声に差し替えてみて、プロ声優の方の声の情報量の多さに驚きました。あとは、自主制作という緩さから、途中でコンテを大幅に変更するということも行っていたため、反省です……。
TIMTOM:いやぁ……大変でした……(笑)。
レイアウト(ラフ原画)
絵コンテをもとに、詳細な構図やキャラの動きを少しラフな絵で作り上げていく。ここでは商業のやり方を参考にタイムシートを使用し、動きのタイミングを指定していった。
*タイムシート …カットナンバー、セルの動き、カメラの動き、タイミングなどさまざまな情報がわかる指示書。1カットごとの秒数分作成する
*カット...次の画面に切り替わるまでの1つなぎの映像のこと。会話シーンでは約3〜6秒くらいで次のカットへで切り替わっていくことが多い
*セル...キャラ小物など、アニメーターが作画する素材の名称。基本的に2Dアニメは美術、セルの2つの素材によって構成されている
TIMTOM:自主制作ということもあるので、枚数(どのくらいカロリーがかかるか)のコントロールは、とくに気を使っていましたよね。
新渡つもり:そうですね。ただ、終盤では重要なパートということもあって、原画枚数約100枚など激重カットをたくさん作っては悲鳴を上げてました。
原画
監督、作画監督のチェック後、レイアウトの作業者が清書作業を行う。今作はハイライト、照り返し、リムライトといった光の作画を多く入れているため、色の付いた画面を正確に想定する必要があり、原画段階での負担が大きかった。
*作画監督…作画工程を統括する監督。絵柄等を統一する役割
*リムライト...輪郭を照らすライトのこと。また、それによって加えられた塗り分けのこと
TIMTOM:先に終わった方がほかの範囲の作業を手伝ってくれて、ぎりぎりでしたが助け合いながらなんとか乗り越えることができました。
新渡つもり:チームワークが素敵でしたよね。清書段階で別のメンバーが作業することで、表情芝居に+1アイディアされていたりして楽しかったです。
動画
原画と原画の間の中割を書いていく工程。デジタルで統一していたこともあり、カットによっては原画、LOの素材をそのまま動画の素材として使用している。このような工程のショートカットなどの自由度は自主制作特有のものといえる。
*中割... 原画と原画の間の画のこと
*LO ...レイアウト(ラフ原画)の略。またカットごとの画面構成のこと
新渡つもり:原画100枚超えなどのカットは再度動画をやると負担がかかりすぎてしまうので、そのまま動画の素材に変換できたのにはとても救われました。また個人的には”トレースマン”など今まで使ったことのないソフトの基本を覚えられ、大変いい機会になりました。
背景美術
レイアウトの情報をもとに美術作業を行う。美術の色が決まると自ずとセルの色も決まってくるため、セルの色を想定しながら画面を作っていく必要がある非常に重要な工程。『藍の約束』ではカロリー軽減の目的から、室内のシーンは3D素材をレタッチして使用した。
*レタッチ...加筆・修正などの作業のこと
TIMTOM:とくに背景はご視聴いただいた方からも好評です。作品全体としていい画面になってますよね〜。
新渡つもり:個人的にも好きな背景がたくさんあります。とくに序盤がいいですよね。植物化している町並みは遊び心多めに色々やっているのでぜひ細かく観てください。
仕上げ
動画後の素材に色を塗っていく工程。背景と組み合わせてカットの色を決めていく。
商業ではシーンごとの色は完全に統一するものであるが、今作は色に力を入れたかったため、大半のカットにおいて背景とセルを合わせてカットごとに色味の調整を行っている。
このタイミングで撮影処理に対する指示なども出している。撮影出しと呼ばれるアナログ時代の工程を復活させている。
TIMTOM:今回新渡さん、色にはかなりこだわっていましたよね。
新渡つもり:通常、商業アニメ(30分作品)では5種類ほどのカラーモデルを作成しますが、本作では30色ほど作成して、感情に合わせて細かく変化させています。ハイライト、照り返しなども1カットごとに背景と合わせて調整しているため、注目してもらえたらうれしいです。
撮影・本撮
美術、セルを「After Effects」というソフトで合成し、特殊効果を加えていく工程。
最終工程のため切り出した映像を見ながら、さらに良くする方法はあるかということをカットごとに度々相談しあい、ブラッシュアップを重ねていった。
新渡つもり:私からの提案のみではなく、撮影メンバーのアイディアでどんどん良いものになっていきました。
TIMTOM:みんなぎりぎりまで根気強く撮影調整を繰り返してくれました。感謝です。
このような細かな段階を経て、制作されていくアニメーション。この工程はインディーアニメにおいては作品ごとに大きく差異があるため、これらの情報を比べてみるとより作品を深く味わうことができるだろう。そういった視点から『藍の約束』を楽しむほか、今後のスタジオ春となりの作品にも期待したい。
少年(ラン)役: 豊崎愛生
魔法使い(先生)役: 雨宮天
主題歌: こはならむ
劇中歌: MINA
監督:新渡つもり
プロデューサー・音楽:TIMTOM
制作:スタジオ春となり