「ジャパンモビリティショー ビズウィーク 2024」(10月15〜18日)を取材で訪れた。いざ会場に行ってみると、幕張メッセのメイン会場(千葉市)でもスペースは1ホールのみ。残りの2〜8ホールは「CEATEC 2024」の会場となっていた。
だが実際に会場を巡ってみたら、意外なほど小さなブースの内容が充実していて、時間が足りないほどだった。
特にマイクロモビリティ(電動アシスト自転車や特定原付)や、超小型モビリティに関する展示や提案が多かった。これはCEATECに出展していたものも合わせての印象ではあるが、特定原付などの新しい規格が増え、パーソナルモビリティの選択肢が広がったのだろう。
中でも注目は「Lean3」(リーンスリー)と名付けられた3輪の小さなモビリティだ。この細長い魚のようなシルエットと後輪操舵で車体が傾いて曲がる機構を備えていると聞けば、かつてトヨタが開発しカーシェアリングサービスでの利用も展開したモビリティ、i-ROADを思い出す人も多いのではないだろうか。
|
|
i-ROADはフロントの両輪を支えるサスペンション支持部をシーソーのように上下させ、車体に発生する旋回Gを検知して、それに合わせてカーブではバイクのように車体を内側に傾ける。そして小さな後輪で操舵することにより安定性と小回り性を両立した、画期的な超小型モビリティの試作車だった。
世界中で実証実験が行われ、日本ではカーシェアで一般にも貸し出されるなど、かなり積極的な展開を見せたものの、残念ながらそれ以上に発展することはなく姿を消していた。
このLean3、実はそのi-ROADを開発したエンジニアが退社して起業し、「Lean Mobility」(愛知県豊田市)を設立、資金を集めて開発して製品化したものだ。台湾の工場で生産し、2025年から台湾で販売を開始する。そして日本でもそう遠くない時期に販売を開始する計画だという。
しかし、問題は乗車定員だ。台湾では2人乗車仕様として販売するが、日本では原付ミニカー登録なので1人乗車となる。
いずれ超小型モビリティとして、2人乗車の実現を目指すという。それは型式認定車として認証を受けることを意味する。i-ROADが利用されていた当時も、超小型モビリティの法整備が進まず、いくつもの中小企業が開発を断念した経緯がある。
|
|
●2人乗車に向けて、手探りの状況
具体的には、何をどうすればLean3が超小型モビリティとして2人乗車を実現できるようになるのだろうか。ブースにいた関係者に話を聞いてみた。
「具体的なことはまだ何も決まっていません。これから何をすればいいのか調べながら計画を作っていくような段階です」と、まさに手探りの状況らしい。
これはほとんど前例がないことも大きいが、要は国交省の担当者のやる気のなさを、ここでも感じられた。なぜなら、国を挙げてこうした新しい乗り物を積極的に普及させようという姿勢があれば、担当者がこれから手探りで型式認定の取得を模索しなければならない、という環境にはならないはずなのだ。
超小型モビリティは、少人数移動のための効率的な乗り物として、10年ほど前に日本でも関心が高まった。その後、自動車メーカーがコンセプトモデルを東京モーターショーで発表したり、中小企業が製品化を目指して試作車をいくつも登場させたりと、盛り上がりを見せた。
|
|
しかし安全基準や保安基準など、制度化されるまでに時間がかかりすぎ、中小企業のやる気と体力を奪ってしまったのだ。
●超小型モビリティは日本で普及しにくい
結果的に生き残れたのは、トヨタ車体が開発、生産する1人乗りの「コムス」くらいで、これは原付ミニカー登録によってファミレスやコンビニのデリバリー用途で使われている。
超小型モビリティの区分には3種類あり、原付ミニカーもこの中に含まれてはいるが、これは以前からある制度であり、新しい要素や恩恵は何もない。
元スズキのエンジニアが作り上げた「FOMM ONE」(フォム ワン)という4人乗りの超小型EVは、タイで販売され日本でも実証実験に使われた。それ以外にも、並行輸入車として50台余りが日本で販売されたが、こちらは軽自動車登録されたという。
2人乗車で販売されたのは唯一、トヨタの「C+pod」(シーポッド)であるが、こちらは型式認定を取得した正真正銘の超小型モビリティだ。
だが軽自動車より高い価格、狭い室内で、高速道路は走れない。しかもリース販売のみ(リセールを保証できない車種でメーカーがよく使う手法)で、とても一般ユーザーがメリットを享受できる乗り物ではなかった。自治体などが導入した例はあったが、3年間で2000台ほどしか売れずに販売を終了してしまった。
国交省としては超小型モビリティとして法整備した以上、何らかの実績がなければ格好がつかない。トヨタが実績作りのために製品化したというのが構図として透けて見える。
ともあれ、日本では軽自動車以下、オートバイ以上の乗り物はなかなか普及しにくい状況にある。それは新しい乗り物を制定する際に規格を定めるのが難しいことも大きな理由だ。
国際基準では、こうしたマイクロEVはまだ統一されていないため、日本独自の規格を制定する必要があったのだ。そこでネックになったのは、おそらく2人乗車を実現するための安全基準の根拠だろう。
●2人乗車の安全性のリスクは?
小さなボディで2人乗車は、衝突安全性に対する懸念が生まれるのは理解できる。しかし、2人乗車だからこそ安全となる要素もある。
それは軽自動車と比べても絶対的に軽い車重という要素だ。車重が軽ければ、万が一に衝突したとしても衝撃は小さくなる。それもあって軽自動車や乗用車のメーカーは、衝突安全性のためにも車体の軽量化にいそしんでいるのだ。
もちろん後方から追突されれば全長の短いボディは衝撃に弱いが、軽量な車体は前方へと滑っていくことで衝撃を緩和させることが期待できる。
通勤用途であれば1人乗車でも十分なので、前述のコムスを通勤用に利用しているユーザーも存在する。あまり長距離では疲れてしまうし移動時間も長くかかってしまうが、片道1時間程度であればこれで十分事足りてしまうのだ。
正直言って、ここまで超小型モビリティの型式認定が面倒なら、原付ミニカーの枠を拡大して「原付二種ミニカー」を制定すればいいのではないか、とさえ思ってしまう。たったこれだけのことで需要は爆発的に増え、さまざまなビジネスが湧き起こる可能性がある。
CEATEC 2024の会場内には、特定原付で燃料電池のミニカーを開発していた企業もあった。
なぜ原付ミニカーではなく、特定原付なのか。開発した企業のスタッフに尋ねると、「燃料電池の出力の問題もありますが、補助金によってユーザーの手が届きやすい価格を実現できるという狙いもあるんです」と戦略を明かしてくれた。
手作り感満載の燃料電池の特定原付ミニカーは、水素充填(じゅうてん)ユニットが普及すれば、案外利用したいと思う向きもあるのではないだろうか。
●高齢ドライバーの移動手段に
超小型モビリティに話を戻すと、これは高齢者の移動手段にも最適なモビリティと言える。動力性能は控えめで、車重が軽いので、万が一の衝突時にも衝撃は少なく、EVでシンプルな装備にとどめれば操作も簡単で覚えやすい。
車幅が狭いので、狭い道でも曲がり角の通過やすれ違いも苦にならない。また衝突を回避しやすく、仮に逆走しても対向車は避けやすいはずだ。
前述のFOMM ONEは、アクセル操作はハンドルにあるレバーで行うようになっていた。つまり、足で踏むのはブレーキだけで、踏み間違いの危険は少ない。超小型モビリティは操作系も刷新できる、新しい乗り物を生み出す領域なのである。
そういった意味では、Lean3には、2023年のジャパンモビリティショーでトヨタが発表した、ハンドルだけでアクセルとブレーキも操作できる「ネオステア」のような操作系を取り入れてほしいとも思う。
そして高齢者には、サポカー限定免許(これはクルマの外観では判断できないし、機能としても不十分)ではなく、超小型モビリティ免許への移行を促せばいいのではないだろうか。
Lean3は、台湾で100万円以下の価格(バッテリーは別)を実現する予定だという。まずは台湾で、そして日本でも原付ミニカーとして販売し、マイクロEVの市民権を獲得してほしいと思うのは筆者だけではないはずだ。
そうなれば、マイクロEVを開発、生産できる企業の需要が高まってくる。日本のモノづくりの力を再び発揮して、海外にもビジネス展開できるようになってほしいものだ。
10年余りの時を経て、再び高まってきたマイクロEVの機運に、期待してしまう。
(高根英幸)
|
|
|
|
Copyright(C) 2024 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。