目的は軍事訓練のため? 明治時代からあった修学旅行
最近は修学旅行の多様化が進み、行き先やそこでの体験内容も学校によってさまざまです。ところで、そもそもなぜ修学旅行があるのでしょうか。日本修学旅行協会によると、その歴史は意外に古くなんと明治時代にまでさかのぼるのだそうです。始まりとされるのは、1886(明治19)年、現在の筑波大学の前身である東京師範学校の「長途遠足(ちょうとえんそく)」。行き先は千葉で、移動手段はなんと徒歩でした。
当時の日本は富国強兵の時代だったため、生徒たちが軍隊に倣って遠距離を行進するために行われました。またその行程で文化財や遺跡の見学といった実地での学術研究も行っており、“学び”の要素も取り入れていたようです。
この長途遠足は11泊12日。同協会が発刊している『教育旅行年報データブック2023』によると、修学旅行の平均日数は、中学校は3.1日(2泊3日)、高校は4.0日(3泊4日)のため、今と比較してもかなり長いものでした。
報告書には「1日約28kmの行程は生徒の疲労が大きかったので、今後は20km程度に短縮するべき」と書かれており、過酷な様子がうかがえます。
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修学旅行は授業の一環「特別活動」という位置付けへ
現在の修学旅行は、学校の主な教育活動の基準になる「学習指導要領」の中で「特別活動」として定められています。「国語や社会など一般的な授業と同じ位置づけです。学習指導要領は10年おきくらいで変わるのですが、特別活動についてはあまり変わっていません」と日本修学旅行協会の竹内秀一さん。
小学校だと「遠足・集団宿泊的行事」、中学・高校は「旅行・集団宿泊的行事」とされており、次のように定義されています。
『「(自然の中での集団宿泊活動などの)平素と異なる生活環境にあって、見聞を広め、自然や文化などに親しむとともに、よりよい人間関係を築くなどの集団生活の在り方や公衆道徳などについての体験を積むことができるようにすること」
(※冒頭カッコ内の記述は小学校のみ)』
「学校はこの方針にもとづいて修学旅行を計画します。学びが一番にありますが、同時に、仲間づくりや思い出づくりも大切な要素です」(竹内さん)
「探究学習」で学びが深まる修学旅行
学びが一番といっても、これまでは“思い出づくり”の側面が強調されていた部分もあります。しかし近年は、確実に学びの側面が進化しつつあります。その背景にあるのが「探究学習」。探究学習とは、学生が自ら課題を設定し、情報を集め、整理・分析し、結果をまとめて発表するという一連の学習活動のことです。高校では「総合的な探究の時間」として数年前から必修化され、小中学校でも「総合的な学習の時間」として取り入れられています。
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修学旅行は事前学習、現地での体験、事後学習の一連の流れで進みます。この過程で探究学習を組み合わせることにより、特に事前学習や事後学習が充実しやすく、また現地でも探究学習を意識したプログラムを体験することで、より深い理解が進みます。
神社仏閣を見て「教科書と同じ!」と思ったり、原爆資料館を見て単に「怖い」と感じたりと単なる感想で終わっていたような事後学習も、より深い体験や学びへと変化しているようです。
探究学習を考慮したユニークな体験プログラムが充実
探究学習を考慮した修学旅行向けの体験プログラムは各地で増えています。たとえば姫路城では、実際に城の修繕に携わった職人さんの作業を見学して、漆喰(しっくい)塗り体験をする体験プログラムを始めています。「現地での学びが深まるのはもちろん、地元に戻ってから自分の地域の伝統技術に目を向けるきっかけにもなります」(竹内さん)
長崎の新しい平和学習プログラムでは、従来のようにガイドに案内されて原爆資料館を見学して終わりではなく、その後に平和ガイドや市内のホテルスタッフを交えたグループワークをします。
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ほかにも野生動物との共生をテーマにした体験や、防災・減災学習のための東北・熊本訪問など、探究学習と組み合わせたいろいろな修学旅行が増えているそうです。
ちなみに最近は、修学旅行のコストも高騰しており、保護者の目もシビアになりつつあるのだとか。探究学習で学びが増えれば、保護者のコストに対する納得感も増しそうです。
古屋 江美子プロフィール
子連れ旅行やおでかけ、アウトドア、習い事、受験などをテーマにウェブ媒体を中心に執筆。子ども向け雑誌や新聞への取材協力・監修も多数。これまでに訪れた国は海外50カ国以上、子連れでは10カ国以上。All About 旅行ガイド。(文:古屋 江美子(ライター))