シリーズSDGs「地球を笑顔にするウィーク」です。ゾウが特別な存在とされるタイでは今、人間とゾウの間で軋轢が大きくなり、「共生」が難しくなっています。テクノロジーでその危機を乗り超えられるのか、現場を取材しました。
およそ3500頭の野生のゾウが生息するタイ。近年、ある問題が深刻化しています。
記者
「ゾウへの注意を呼びかける看板が街のいたるところにあります」
野生のゾウが保護区の森を出て農地を荒らす被害が急増しているほか、人間との衝突も頻発しているのです。背景には、過度な森林開発や気候変動の影響があるとみられ、ゾウが暮らせる自然は失われつつあると指摘されています。
東部・チャンタブリー県で暮らすサン・ゲーシーさん。今年8月、夫のブッダーさんが自宅の裏庭に現れたゾウに襲われ、命を落としました。
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サン・ゲーシーさん
「ゾウは夫を踏みつけ、投げ飛ばした。私は大声で泣き叫んでいました」
エサを求めて、夜中に保護区を出たとみられるゾウ。居合わせたブッダーさんはゾウに踏みつけられ、ろっ骨が肺に突き刺さりました。
サン・ゲーシーさん
「夫のことを話すと涙が出てきます。寂しくてたまりません」
タイでは2018年以降、観光客を含む少なくとも150人がゾウに襲われ、亡くなっています。また、報復などとして、ゾウが人間に殺されるケースも後を絶ちません。
悲劇を防ぐため、新たな対策も始まっています。クイブリ国立公園では、ゾウを監視する28台のカメラを設置。AI=人工知能を使って、ゾウを自動的に検知・追跡するシステムの運用も試験的に行われています。
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住宅地に向かうゾウがいれば、パトロール隊や近隣住民などに無線や通信アプリで警告します。
記者
「赤外線のドローンを使ってゾウを探しているんですね。2頭いる?2頭いるんだ」
取材中、私たちのすぐ近くに、あわせて6頭のゾウが現われました。30人ほどのパトロール隊が急行し、ゾウを追いかけます。
記者
「大きな声を出してゾウを追い払っていますね」
使うのは銃ではなく、火薬です。暗闇の中、音を鳴らし、ゾウを傷つけないように威嚇します。
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6頭とも保護区に返すことができました。
ほかにも、保護区内に人工の水場や草地を120か所以上つくるなど、森を出なくても暮らせる環境整備を進めたことで、ゾウによる被害は大幅に減っているということです。
クイブリ国立公園 アッタポン所長
「ゾウを適切に管理し、観光収入にもつながるシステムをつくることで、人々との(持続可能な)共生ができる。危機的な状況をチャンスに変える仕組みを広げていきたい」
タイが直面するゾウと人間の「共生」という大きな課題。自然と命を守るための模索が続いています。