昭和の時代に誕生した「ランクル70」(ナナマル)に試乗してあの懐かしいフィーリングを堪能したあと、次に乗ったのが「ランドクルーザー250」だ。「300」「70」に続いて登場したランドクルーザーファミリーの中核モデルである。先代は「ランドクルーザー プラド」。若い世代のファミリーが住む郊外の戸建ての駐車場でよく見かける(筆者の私見です)人気モデルだ。
大きい! シブい! カッコいい!
プラドは近くで見てもそんなに「デッカイ」とは感じなかったのだけれど、試乗前に駐車場にたたずむランクル250の横に立ってみると「大きいな!」と思った。その理由は、250がランクルのフラッグシップ「300」と同じ「GA-F」プラットフォームを採用しているからだ。ボディサイズは全長4,925mm、全幅1,980mm、全高1,925mm、ホイールベースは2,850mm。幅も高さも300とほぼ同じで、鼻先の長さがわずかに短いだけ。大きいわけだ。
ラダーフレームに乗るボディも、垂直と水平の面と直線を組み合わせたカクカクとしたデザインなので、余計に大きく感じるのかもしれない。カクカクしているといえば、もう少し小さな70も四角いのだけれど、プレスラインのキレがまるっきり違う。角(カド)の先端が少しまあるい70に対して、250はピシッとしていてキレキレだ。昭和世代と令和の最新モデルの世代の差といってしまえばそれだけのことなのだが……。個人的には、70のカタチが取っ付きやすくて好きだ。
ランクル250のメカニズムは?
試乗したのは、最上級グレードで7人乗りの「ZX」。ボディカラーは「アバンギャルドブロンズメタリック」だ。雨が降ったり止んだりという薄暗い試乗日の日中にあって、シブく輝くそのボディカラーはなかなか素敵。最近流行りのくすんだカラーは、おじさんが纏うとそこがさらに強調されてダメだけれど(自虐です)、なぜか若い人にはよく似合う。そんなイメージだ。
搭載するパワートレインは、最高出力150kW(204PS)/3,000〜3,400rpm、最大トルク500Nm/1,600〜2,800rpmを発生する1GD-FTV型2.8L直列4気筒ディーゼルターボエンジン(自然吸気2.7Lガソリン版もあり)に、電子制御8速オートマチック(Direct Shift-8AT)を組み合わせる。燃費は11km/L(WLTCモード)で、尿素SCRシステムで排出ガス規制に対応している。前後のトルク配分をコントロールする「トルセンLSD」を装備したフルタイム4WDシステム(ローレンジ付き)と、ラダーフレームに取り付けた前ハイマウント・ダブルウィッシュボーン式、後トレーリンク車軸式サスペンションで悪路を走破するシステムだ。
3.4Lガソリンと3.3LディーゼルのV6ツインターボに10速ATを組み合わせる300に比べると、排気量、気筒数、トランスミッションの段数の違いから250がワンクラス下に位置していることは明確で、数字が表す通りヒエラルキーがしっかりと構築されている。どちらも縦置きエンジンのため、V6より全長が長い250の直4エンジンにスペースを取られて、ギアの段数が2つ少なくなった、と考えていいのかも。
インテリアは豪華!
インテリアは、シフトレバーの形状が300や70と共通のものである以外は250オリジナルの仕立て。シフトレバー右側にはドライブモード、マルチテレインセレクト(MTS)、クロールコントロール(CRAWL=悪路を一定速度で越える)などの電子制御コントローラー系、レバー手前のコンソールにはZXグレードだけが装備するSDM(スタビライザーディスコネクトメカ=フロントスタビライザーを自動で切り離す)をはじめ、センターとリア(ZX専用)の電動デフロック、H4/L4のトランスファーギア選択レバーなどのオフロード関連モードが整然と並んでいる。こちらも昭和の時代のレバーではなく、それぞれをスイッチで選ぶタイプで、状態が一目で状態がわかるのがありがたい。
コックピットやセンターのディスプレイはフルデジタルで、見やすい表示スタイルを選ぶことができる。グラフィックもキレイ。ステアリングや空調周りの加飾は質実剛健で大袈裟でなく、エクステリア同様に最新モデルらしい新鮮さがある。昭和の時代は遠くなりにけり、だ。
ZXが装備するダークチェスナットカラーの本革シートはなかなか豪華。運転席は8way、助手席は4wayのパワーシート、2列目はリクライニング&タンブル式、3列目は電動で格納/展開できるタイプだ。さすがに3列目は座面が低く(というか、床面が高い)、体育座りを強いられる。
走りにラダーフレームのクセがない!
300とほぼ変わらぬ体躯の250だが、走りは重厚さとは逆で、実は軽くてドライバーフレンドリーな性格を持っていた。ディーゼルエンジンの音は結構室内に侵入してくるけれども音質自体は不快なものではなく、スタート時や、パーシャルから強めの加速をしてみた時の「ガルルルン」というサウンドはボディの動きに比例していて、いい気分で運転できる。
直進性はとても優れているし、ラダーフレームのクルマでコーナーを通過した時に顔をだすグラリ感や、段差を通過した時のボヨンボヨンとした動きが見られず、構えて乗った筆者はちょっと拍子抜けしてしまった。すばらしいというか、ちょっと寂しい(?)というか。他のランクルのような油圧式パワステ(信頼性を重視して採用)ではなく、250はよくチューニングされた電動パワステを採用しているおかげで、どんな場面でも手応えに一定感があって、それが走りのスムーズ感に伝わっているとも思われる。
狭い道路でのすれ違いなどクルマのサイズが気になるような場面では、垂直な面を持つボディサイドと、それがよくわかる縦長のバックミラーのおかげで、道路の端ギリギリまで車体を寄せることができる。視界という意味では、フロントガラスの下端がまっすぐ水平になっていたり、センター部を少し低くしたボンネット形状により見切りがよかったりと、まさにランクルのDNAをきちんと引き継いでいる点はさすがである。
さて、今回乗ったランクル250 ZXグレードの735万円という価格は、300のZXグレード(ガソリンモデル)とほぼ同じ価格帯で、そこをどう考えるかは悩ましいところ。ただし、新規受注停止中の300は、販売が再開される際にはマイナーチェンジも兼ねて価格が一気に上がってしまう、というウワサもあるほどだ。ならば、そして250が気に入ったのであれば、買うために最善を尽くして待つのが一番だと思う昭和男の筆者であった。
原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)