伊藤みどりの「伝説のジャンプ」を継承する女子選手とは? 「元祖天才」が今シーズンの楽しみを語る

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2024年11月06日 10:10  webスポルティーバ

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伊藤みどり流・2024−2025シーズンの楽しみ方
女子シングル編

 ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪のプレシーズンとなる、2024−2025シーズンがスタートした。NHK杯(11月8〜10日/東京)、そして今季の戦いは、五輪へとつながる重要な一戦となる。アルベールビル五輪銀メダリストの伊藤みどりさん(55歳)が、今季、そして五輪シーズンに向けての楽しみを語った。

【花織さんは立場を守るのではなく挑戦している】

伊藤みどり 世界選手権3連覇の女王、坂本花織さん。今季は、フリーのルッツを2本にして、連続ジャンプもこれまで入れていなかった「ダブルアクセル+オイラー+3回転サルコウ」を入れました。ディフェンディングの立場というのは本当につらいものです。自分をブラッシュアップする気持ちがないと、重圧に耐えられません。新しいジャンプに挑戦していくことが自分のモチベーションを保つ方法なのだと思います。

 GPシリーズ・スケートカナダでは、まだ新しいプログラムに馴染めていない様子でした。滑りこなせていない時期って、ショートプログラムはなんとか辻褄が合わせられても、フリーはひとつ歯車が狂うとどんどんミスをしてしまうもの。フリーでは、いくつかミスしただけで2位になってしまいました。

 坂本さんほどの実力があってもミスが許されないという現実を目の当たりにして、火がついたのではないでしょうか。NHK杯までには絶対にミスしないというところまでブラッシュアップしてくると思います。

【百音さんは気持ちと技術がかみ合っている】

 同じくNHK杯に出る千葉百音さんは、本番に強い選手です。19歳と若いですが、仙台から京都の木下アカデミーに移籍し、覚悟を持ってスケートと向き合っているのが伝わってきます。たくさんのトップ選手を見て、自分のガッツに変えているのでしょう。

 自分を振り返ってみても、19歳の頃はちょうど身体的にも精神的にも、波に乗る時期。自分のスケートや自分の立場や戦い方を自覚して、やらされるのではなく、自分から戦えるようになる。百音さんはちょうどその時期を迎えて、技術と心がかみ合っている印象です。プログラムを演じきる力のある選手ですし、素敵な演技が期待できると思います。

 また青木祐奈さんは、この春に大学を卒業し、現役続行を決めた選手。得意とする「3回転ルッツ+3回転ループ」や「ダブルアクセル+オイラー+3回転フリップ」を国際大会で決めて、存在感を示してほしいです。

【陽菜さんのトリプルアクセルが大好き】

 また、日本女子にトリプルアクセルジャンパーが増えてきているのはうれしいことです。なかでも注目しているのは、吉田陽菜さんのトリプルアクセルです。高さと幅と流れがあります。とくに、跳び出しが上手で、踏みきりながら下で回してしまうことがなく、ちゃんと踏みきってから、上がって、そのあと回る、というダイナミックで質の高い跳び方です。

 勢いや高さがある分、タイミングが合わないと、着氷でオーバーターンや転倒も起きやすい。そのリスクもわかったうえで、守りに入らずに跳んでいるところが好きです。演技も魅力的で、来季に向けてさらに成長していくでしょう。

 また渡辺倫果さんは、ショートで1本、フリーで2本のトリプルアクセルに挑戦すると宣言されて、頑張っていますね。やはり今は個性の時代なので、"私の戦い方はこれ"というものを定めることで、気持ちも強く持てますし、自分のスケートを確立している選手の魅力は大きいです。3本そろえるのは大変なことだと思いますが、それでも挑戦する価値を見出している、気持ちの強さがすばらしいと思います。

 一方、樋口新葉さんは今季、まずはダブルアクセルで戦うというのを宣言されています。決意するまでは、すごく自問自答したことでしょう。周りから「あの子は、もう跳べないのかな」という目で見られる怖さは、本当によくわかります。

 それでも封印するからには「ダブルアクセルでも私は勝てるんだ」ということに、自分を納得させなきゃいけないし、結果を出さなければならない。今季の新葉さんからは、その吹っきれた強さが感じられます。

 それを早くも実証したのがGPシリーズ・スケートアメリカでの優勝です。3回転ルッツまでを確実に降りるだけでなく、身のこなしが何と言ってもうまいです。動作の一つひとつに無駄な動きがなく、全体の動きに流れがあるので、振り付けが取ってつけたようにならない。新葉さんはどこをとっても絵になります。新境地に注目しています。

【同門の松生さんに継承されたスピード感あるジャンプ】

 私と同じ山田満知子先生の門下生として長年注目してきたのが、スケートカナダ2位になった松生理乃さん。彼女はとにかく努力家です。スケートカナダは、ショートでは大きな大会に出る怖さを知り、フリーではそれを乗り越える心を学び、大きな経験になったと思います。

 山田先生の門下生は、何を置いてもまずスピード。スピードがないと先生に怒られちゃいます(笑)。私の時代から、ジャンプはスピードを出して飛距離につなげる跳び方です。女子にとってスピードのなかで跳ぶのは高い技術が必要ですが、それが成功したときにはすごく高く評価される。松生さんも、スピードとディープエッジを使って大きく跳んでいくので、伝統が継承されているなと感じています。

 また、三原舞依さんは、本当にシンデレラという感じで、可憐で女性らしいスケーティングが魅力です。2年前にはGPファイナルで女王にもなり、国際的にも高い評価を得ています。洗練されたスケーティングをもっと伸ばして頑張ろうという気持ちが伝わってきて、応援したくなる選手ですね。

【五輪プレシーズンの世界選手権には3枠取れる選手を】

 昨季の世界選手権(モントリオール)は、坂本花織さんが優勝、千葉百音さんが7位、吉田陽菜さんが8位。3人で協力して取った「今季の3枠」ですね。そして今季の世界選手権(ボストン)は、五輪の枠取りがかかります。日本代表選びは、国際大会で結果を出せることを意識しながら選考するので、GPシリーズで海外のジャッジから評価されておくことが大切です。

 私の場合、アルベール五輪前年の世界選手権が4位だったことで、五輪の日本女子枠を2枠にしてしまい、五輪代表争いはとてもプレッシャーを感じました。狭き門を皆が競う空気感は、2枠と3枠では全然違います。

 印象的だったのは、スケートカナダ後の松生さんの「私もオリンピックに行きたかったんだな」という言葉。言葉にしていなくても、誰もが心の奥では五輪を狙っているもの。今の日本女子は全体のレベルが高く、ちょっとしたミスでも順位が入れ替わるので、来季の五輪に向けて緊張感ある戦いが続くでしょう。

 また五輪や世界選手権だけがすべてではない、ということも忘れてはなりません。どんなに頑張っても、行けるのは3人のみ。今は、アジア大会や四大陸選手権など国際大会がたくさんあります。それぞれの舞台で自分をアピールして、皆に見てもらえることをモチベーションに、より魅力的な選手に育っていってほしいと思います。

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【プロフィール】
伊藤みどり いとう・みどり 
1969年、愛知県生まれ。6歳からフィギュアスケートの競技会への参加を開始し、小学4年の時、全日本ジュニア選手権で優勝し、シニアの全日本選手権で3位。1985年の全日本選手権で初優勝し、以後8連覇。1988年カルガリー五輪で5位入賞。同年には女子選手として初めてトリプルアクセルを成功させる。1989年、世界選手権で日本人初の金メダルを獲得。1992年アルベールビル五輪で銀メダルを獲得後、プロスケーターに転向。その後、アマチュアに復帰し1996年の全日本選手権で9回目の優勝を果たしたのち引退。現在は指導や普及に努めながら、国際アダルト・フィギュアスケート選手権にも出場し部門別優勝も果たしている。

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