そこで今回は、伊勢物語「筒井筒」について、スタディサプリの古文・漢文講師 岡本梨奈先生に解説してもらった。
【今回教えてくれたのは…】
出典:スタディサプリ進路
岡本梨奈先生
古文・漢文講師
スタディサプリの古文・漢文すべての講座を担当。
自身が受験時代に、それまで苦手だった古文を克服して一番の得点源の科目に変えられたからこそ伝えられる「わかりやすい解説」で、全国から感動・感謝の声が続出。
著書に『岡本梨奈の1冊読むだけで古文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『岡本梨奈の1冊読むだけで漢文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』『古文ポラリス[1基礎レベル][2標準レベル]』(以上、KADOKAWA)、『古文単語キャラ図鑑』(新星出版社)などがある。
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『伊勢物語』とは?
平安時代前期に成立した「歌物語〔=和歌がどのような事情で、誰に、どういう心情で詠まれたのかを伝える物語〕」で、全部で125段あります。作者は未詳。
各段の出だしが「昔、男ありけり」となっていることが多く、この「昔男」は一般的に在原業平(ありわらのなりひら)と考えられています。
成人から辞世の歌〔=この世を去る時に詠む歌〕までの一代記です。
恋歌が中心で、様々な女性との恋愛話が描かれています。
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伊勢物語「筒井筒(つついづつ)」の登場人物は?
●男●女(=もとの女)…男と女は幼馴染
●女の親
●河内の国の高安の(=新しい女)
漫画でわかる!伊勢物語「筒井筒(つついづつ)」のあらすじ
出典:スタディサプリ進路
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伊勢物語「筒井筒(つついづつ)」の原文と現代語訳を読んでみよう
昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとに出でて遊びけるを、大人になりにければ、男も女も恥ぢかはしてありけれど、
男はこの女をこそ得めと思ふ。
昔、田舎で生計をたてていた人の子どもが、井戸のそばに出て遊んでいたが、大人になったので、男も女も互いに恥ずかしがっていたけれど、男はこの女を妻にしたいと思った。
女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでなむありける。
女はこの男を(夫にしたい)と思い続けて、親が(他の男と)結婚させようとするが、聞き入れないでいた。
さて、この隣の男のもとより、かくなむ、
そうして、この隣に住む男の所から、このような(歌を詠んできた)、
筒井筒 井筒にかけし まろが丈 過ぎにけらしな 妹見ざるまに
井筒〔=井戸の囲い〕と背比べをした私の背丈は井筒を越してしまったようだなあ。あなたに会わないうちに
女、返し、
女が、返歌をして、
比べ来し 振り分け髪も 肩過ぎぬ 君ならずして 誰か上ぐべき
(あなたと長さを)比べ合った私の振り分け髪も肩を過ぎた。あなたではなく誰のために髪を結い上げようか
など言ひ言ひて、つひに本意のごとくあひにけり。
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さて、年ごろ経るほどに、女、親なく、頼りなくなるままに、もろともに言ふかひなくてあらむやはとて、河内の国、高安の郡に、行き通ふ所出で来にけり。
そうして、数年が経つうちに、女は、親が亡くなり、(生活の)より所がなくなるにつれて、(男は)一緒に貧しくいられようか、いや、いられないと思って、河内の国の、高安の郡に、通って行く所〔=新しい女〕ができた。
さりけれど、このもとの女、あしと思へる気色もなくて、出だしやりければ、男、異心ありてかかるにやあらむと思ひ疑ひて、前栽の中に隠れゐて、河内へ往ぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧じて、うち眺めて、
そうではあるが、このもとからの女は、不快に思う様子もなく、(男を新しい女の所へ)送り出してやったので、男は、(もとからの女が)浮気心があってこのようなのであろうかと疑わしく思って、庭の植え込みの中に隠れて座って、河内へと行ったふりをして見ると、この女は、たいそう美しく化粧をして、物思いにふけって、
風吹けば 沖つ白波 たつた山 夜半にや君が ひとり越ゆらむ
風が吹くと沖の白波がたつ、その「たつ」と同じ響きの名前がついている竜田山を、夜中にあの人は一人で越えているだろうか。
と詠みけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へも行かずなりにけり。
と詠んだのを聞いて、(男は)この上なく愛おしく思って、河内へも行かなくなった。
まれまれかの高安に来てみれば、初めこそ心にくくもつくりけれ、今はうちとけて、手づから飯匙(いひがひ)取りて、笥子(けこ)のうつはものに盛りけるを見て、心憂がりて、行かずなりにけり。
ごくまれに例の高安(の女の所)に来てみると、(女は)初めは奥ゆかしくよそおっていたが、今は気を許して、自分でしゃもじをとって、(ご飯を)器によそったのを見て、(男は)嫌になって行かなくなった。
さりければ、かの女、大和の方を見やりて、
そういうわけで、例の(高安の)女は、(男が住む)大和の方を見やって、
君があたり 見つつを居らむ 生駒山 雲な隠しそ 雨は降るとも
あなたがいらっしゃるあたりを見続けていましょう。生駒山を、雲よ、隠さないでおくれ。たとえ雨は降ろうとも。
と言ひて見出だすに、からうじて、大和人、「来む。」と言へり。
と言って外を眺めていると、やっとのことで、大和の人〔=男〕が、「(あなたの所へ)行こう。」と言ってきた。
喜びて待つに、たびたび過ぎぬれば、
(高安の女は)喜んで待つが、その度に(男は来ないで時間が)過ぎたので、
君来むと 言ひし夜ごとに 過ぎぬれば 頼まぬものの 恋ひつつぞ経る
あなたが来ようと言った夜ごとに、(むなしく時間が)過ぎたので、あてにはしていないが、(やはりあなたを)慕いながら過ごしている
と言ひけれど、男、住まずなりにけり。
と言ったが、男は、(高安へ)通わなくなった。
出典:スタディサプリ進路
伊勢物語「筒井筒(つついづつ)」の定期テスト対策!ポイントをチェック!
「男はこの女をこそ得めと思ふ」を現代語訳しなさい
「こそ」は強意の係助詞で訳出不要。「め」は助動詞「む」の已然形で、係助詞「こそ」の結びです。
「と」の上の助動詞「む」は意志の意味になりやすく、ここも意志です。
よって、直訳は「男はこの女を得ようと思う」となり、「この女を得よう」は「この女を妻にしたい」ということです。
「あはすれ」(終止形「あはす」)の単語のここでの意味は何ですか
「結婚させる」の意味。重要単語の「あふ」に「結婚する」の意味があり、それに使役の助動詞「す」がついたイメージで覚えると便利です。
「聞かでなむありける」を現代語訳しなさい
「で」は打消接続の働きで「〜ないで」と訳します。この「なむ」は強意の係助詞で訳出不要。
「ける」は過去の助動詞「けり」の連体形で、「こそ」の結びです。
よって、直訳は「聞かないでいた」となり、「(親の言うことを)聞き入れないでいた」ということです。
「くらべこし〜」の和歌は何句切れですか
三句切れ。「肩過ぎぬ」は「(振り分け髪も)肩を過ぎた〔=それだけ年月が経った〕」と訳さないと意味が通じないので、この「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形と考えられます。
よって、ここで句切れている=三句切れです。
「たれかあぐべき」の「か」の意味は何ですか
「反語」の意味。この「か」は係助詞「か」で、疑問と反語の意味があり、どちらの意味になるかは文脈判断が必要です。
「たれ」は「誰」で、「(あなた以外の)誰が上げるだろうか、いや、誰も上げない〔=あなたしかいない〕」という文脈が適切なので「反語」です。
「本意」の読みと意味を答えなさい
「ほい」と読み、「本来の意志、本来の目的、かねてからの望み」の意味。「年ごろ」の意味を答えなさい
「数年間・長年」の意味。「あらむやは」の「やは」の意味は何ですか
反語。「やは」「かは」は反語の意味になりやすい。
あくまでも「なりやすい」だけなので、文脈判断は必要です。
ここは「一緒に貧しくいられようか、いや、いられない」という文脈でおかしくないので反語です。
「けしき」の意味は何ですか
「様子」の意味。「異心」とは、誰のどんな心のことですか
もとの女(=妻)が、自分(=男・夫)以外の他の男性を好きだと思う心「かかるにやあらむ」の「かかる」の内容は何ですか
妻が、自分(=夫)が他の女のところに行こうとしても、不快に思う様子もなく送り出すこと。「前栽」の読みと意味を答えなさい
「せんざい」と読み、「庭の植え込み」の意味。「風吹けば〜」の和歌の修辞技法を説明しなさい
「風吹けば沖つ白波」が「たつ」を導く序詞。「たつ」が「(波が)立つ」と「竜田山」の「竜」の掛詞。
「夜半にや君がひとり越ゆらむ」を現代語訳しなさい
「や」は係助詞「や」で、ここでは疑問の意味です。u段につく「らむ」は現在推量の助動詞「らむ」で、この「らむ」は係助詞「や」の結びであるから連体形です。
よって、「夜中に君(=あの人)は一人で越えているのだろうか」となります。
「かなし」の意味は何ですか
「愛おしい」の意味。「かなし」には、漢字で「悲し」と「愛し」があり、ここの「かなし」は後者です。
「愛し」は「愛おしい、かわいい」の意味。
「初めこそ心にくくもつくりけれ、」を現代語訳しなさい
「こそ〜けれ」が係り結びで、「こそ」は強意の意味なので訳出不要ですが、ここは「こそ〜けれ、……」と文中で使用しているのがポイントで、文中の「こそ〜已然形、……」の時は、「已然形、」の後ろに逆接を補って訳します。「心にくく(心にくし)」は「奥ゆかしい」の意味の重要単語。
よって、「初めは奥ゆかしくつくろっていたが」となります。
「さりければ」の「さり」の内容は何ですか
指示内容は前を指すことが多く、この「さり」は「男が嫌になって(高安に)行かなくなった」ことです。「雲な隠しそ」を現代語訳しなさい
「な〜そ」は呼応の副詞で、禁止「〜するな」の意味。お願い系の禁止なので、正確に訳すと「雲よ、隠さないでおくれ」となりますが、まずは「な〜そ=禁止(〜するな)」をしっかり押さえましょう。
「頼まぬものの」という気持ちになったのはなぜですか
この「ぬ」は未然形についているので、打消の助動詞「ず」の連体形です。「頼まぬ」は「頼りにしない、あてにしない」ということです。
この直前が「ぬれば」で「已然形+ば」となっており、「已然形+ば」には「〜ので・から」と訳す理由の意味があります。
理由説明の問題の際に、該当箇所の直前が「已然形+ば」であれば、その前の部分が原因です。
よって、直前を直訳すると「あなたが来ようと言った夜ごとに過ぎたので」となります。
つまり、男が「来る」と言ってくれたのに、なかなか来ずにむなしく毎日が過ぎていき、何度も裏切られたからです。
古文の対策
出典:スタディサプリ進路
古文を勉強するときは誰の様子を描いたものなのか主語を把握しながら読むと理解が進むよ。
そして、テストに出やすい古文の単元はほかにもたくさんある。
岡本先生が現代語訳とポイントを解説してくれているので、ぜひテスト勉強に役立ててね!
●伊勢物語「初冠(ういこうぶり)」
●伊勢物語「筒井筒(東下り)」
●枕草子「中納言参り給ひて」
●大鏡「花山院の出家」 前編
●大鏡「花山院の出家」 後編
●平家物語「木曾の最期」
\古文に興味をもったキミへおすすめの学問/
●日本文学
古代から現代まで、あらゆる日本の文学作品を学ぶ学問。
日本文学の作品を読み、テーマや文体などの研究を通して、作品の背景となる歴史や文化、社会、人間そのものを研究する。
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●日本文化学
日本独自の文化について研究する学問。
文学、芸術、民族、思想、日本語など、日本文化の特色をとらえ、日本の風土、歴史、社会などとの関連性を研究する。
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●歴史学
日本や世界各国の歴史と文化を研究する学問。
人間の文化、政治、経済などの歴史上のテーマを、それがどのように起こり、どんな意味をもつのか、資料や原典にあたり、実証的に研究、現代に生かしていく。
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文・監修/岡本梨奈 イラスト/梶浦ゆみこ 構成/寺崎彩乃(本誌)