夫婦でそれぞれの親の介護までする事態に?
「夫の実家も私の実家も個人商店だったんですよ。だから親たちは国民年金しかない。うちなんてお店が潰れて破産状態でしたから、両親は落ち込んで二人とも一時期、病気になったりして本当に大変だったんです」ナツミさん(42歳)が結婚したのは32歳の時。相手は仕事で知り合った男性で、ちょうどナツミさんの両親が病気になり、経済的にも精神的にも弱っていたころだった。
「彼はとても親切で、田舎の実家の店をどうやって始末したらいいかとか、今後の親の生活はどうしたらいいかなど相談に乗ってくれたり、専門家を紹介してくれたりしたんです。そこから付き合うようになって2年後に結婚しました」
夫となってからも彼は親切で穏やか。ナツミさんの収入の2割は両親の生活費として仕送りしているのだが、それについても「できる限りのことはしてあげた方がいいよ」と鷹揚だ。
父親は「娘を頼るのは申し訳ない」と70歳を過ぎた今も、アルバイトで働いている。店を売って借金を返済、小さな中古のマンションを買うことができたので夫婦二人の暮らしはなんとかなっているそうだ。
現在、8歳になるひとり娘がいるが、娘が産まれたころ、今度は夫の両親の生活が危うくなっていた。
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家を失った高齢者の不安定な生活
住むところがなくなった高齢者は、生活もメンタルも不安定になる。夫はすぐに動き、さまざまな人たちに相談した結果、両親はようやく公営住宅に入ることができた。「夫の方も仕送りをしています。私たちの家計は全面ガラス張り。毎月、互いに明細を見せ合って、じゃあ、ここから親たちにはこれぐらいずつ送ろう、家計はこのくらいとその時に応じて決めています。
残業代が少し増えたり、夫に一時金が入った時なども話し合うんです。夫が仕事で成績を上げて一時金をもらった時は、『オレがこれをもらえたのはナツミのおかげだから』と私にも小遣いをくれました」
お金には、人間の欲や業が醜い形で出てしまう。だからこそ、ナツミさんはこうやって話し合えるパトーナーに恵まれたのは幸せだと考えている。
「たまに」のぜいたくが頻繁になりがち
娘の習い事や将来の学費などを考えると、ナツミさんはとにかく倹約して貯蓄を殖やしたいと考えているが、夫は「たまにはぜいたくしようよ」が口癖だ。「あまり外食をしないから、夫の言うぜいたくは、ちょっといい肉を買ってステーキやすき焼きをするというくらいのものなんですが、それが月に何度かとなるとキツいんですよね」
夫もナツミさんも、大手有名企業に勤めているわけではない。夫は中堅企業、ナツミさんはとある士業が数人で集まって作った事務所勤務だ。それぞれ、周りの人間関係に恵まれて働きやすい職場だが、収入という点では多少の不満はあるという。
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何かというと「娘が喜んでる」「娘のため」と言い訳するのが夫で、それを聞くと反対できなくなるのがナツミさんなのだ。
「店が閉店するころ、父はカードで相当キャッシングをしていたみたいなんです。だから両親ともに、カードの使い方には気をつけろと口うるさいくらい言う。夫はいつも“ぜいたく品”をカードで買ってくる。日常の生活にカードは使わないのが私たちの取り決めなのに、それも平然と破る。そこが気になっています」
夫のカード決済日は戦々恐々
カードを使う時は現金を払わないが、翌月の引き落としで「ヤバい」と夫がつぶやくのを聞いたこともあり、ナツミさんは戦々恐々としている。「お金がなくなって、返せる見通しも立たないころの両親は本当に怯えるように暮らしていた。私たちだって、いつああなるかわからないよと夫には言うんですが、夫は『今のうちだけだよ、生活を楽しむことができるのは』って。
娘が大きくなれば巣立っていくわけだから、それも分かるんですが……。それでも私は怖いなと思っています。怖がっていたら、日々を楽しめないという夫の言い分も理解できるけど」
お金は怖い。それが分かっているナツミさんだからこその心配なのだろうが、彼女なら夫が万一、暴走しそうになっても止めることができるのではないだろうか。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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