トヨタ自動車の本格クロカンモデル「ランドクルーザー」には、フラッグシップとなるステーションワゴン系の「300」、日常用途をカバーするライトデューティー系の「250」(プラドの後継モデル)、ヘビーデューティー系の「70」という3系統がある。このたび、めでたく全3モデルの試乗を完遂できたので、何が違うのか、自分ならどれを選ぶのかなど、いろいろなことを考えてみた。
最大、最強のランクルは「300」
現行の「300」は「世界中のどんな道でも運転しやすく、疲れにくい走りを実現する」ことが開発の狙いで、その信頼性、耐久性、悪路走破性は世界最高レベルだ。乗ったのは今からちょうど3年前のことだった(そのころは、まだ販売中止になっていなかったはず)。
エンジンは3.4LのV型6気筒ツインターボディーゼルと3.5LのV6ツインターボガソリンが選べる。これも一族の中で最強だ。10段ダイレクトシフトATのギアの数も最多である。
ボディも3モデルで最大。運転席に収まると、目の前で盛り上がるボンネットのパワーバルジに気後れしないよう、気合を入れてドライブする必要があったほどだ。
一方で、こうしたでっかいクルマを操縦するという満足感は半端ない。アクセルペダルを踏み込めば「ガルルン」というV6エンジンの野太い排気音が響き、2.5tの重い巨体(それでも先代から200kgのダイエットを果たしている)を豪快に加速させていく。
高速ではラダーフレーム特有のユラリ感やゴツゴツ感を伴う走りとなるけれども、それがまたいい。耐久性を考えて搭載された油圧式パワーステアリングのクセともいえる。
もう少しスポーティーさのある「300」が欲しいなら、高価にはなるが「GRスポーツ」を選ぶという手もある。フロントグリルにはホワイトの大きなレタリングで「TOYOTA」のロゴが入り、ホイールやボディ下部をブラックにすることで精悍さが増している。油圧パワステには電動アクチュエーターを追加。足回りも専用だ。まさに砂漠の王者という仕上がりである。
とにかく、最高のランクルを手に入れたいなら「300」一択。ただし、注文が可能になっても納期はかなり先になるはず。オーナー自身の“耐久力”も必要になってくる。
「250」はモダンなランクル
ライトデューティー系とされる「ランクル250」だが、実はプラットフォームは「300」と同じ「GA-F」だ。エンジンの排気量と気筒数(2.5L直4)、ATの段数(8速)などで300には少し差が付けられているけれども、実は設計年次が最も新しいので、いろんな部分がモダンになっている。
最も大きいのは、ラダーフレームのクセがしっかりと改善されている点。走ってみると、あのフワリ感や突き上げ感は影を潜め、今時の乗用車っぽいスムーズな走りを実現していることがわかる。電動パワステを積極的に採用したことで、自然な走行感覚を得ることができているのだ。
直線を多用したエクステリアや整然と配置されたインテリアの操作部なども、今時のクルマらしいモダンさがある。先代プラドが持っていた普通車感は薄れているけれども、トヨタがうたう「ランクルの中核モデル」らしい実力を備えた最新クロカンモデルだ。
昭和の魅力をたたえる「70」
初代「ランクル70」が発売されたのは、今を遡ること40年前の1984年、つまり昭和59年のことだ。2004年に一旦生産を終了し、2014年に30周年モデルが1年間だけ登場。そして2024年にカタログモデルとして完全復活した。
長きにわたって作り続けられている理由は、「70」が持つ悪路走破性と耐久性、整備性に尽きるわけで、中東の砂漠や道なき道のアフリカ奥地などで活躍する話は有名だ。
最新の環境性能を得たことで再び搭載できたディーゼルエンジンは、2.8Lの直4ターボ。そして強靭なラダーフレームに取り付けたリアサスは、今や貴重なリーフリジッド式だ。先代の6枚から2枚に減らした板バネは、乗り心地を改良しつつ耐久性を確保したもの。段差を通過する際にボディが揺すられるのは初和のクロカンらしいところで、同世代のドライバーなら思わず「コレだよね」とニヤリとしてしまうはずだ。一方で、直進性は改善されていてまっすぐに走る。
四角いボディに丸目のヘッドライト、アナログ式のメーターパネル、キーを差し込んでひねるいにしえのエンジンスタート、スライドレバーとダイヤルの空調部、手で引き伸ばすラジオのロッドアンテナなど昭和の装備を満載しているが、それが新型車として手に入るというのは本当にすばらしい。それらに憧れて手に入れるのはもちろんアリだけど、走りには結構なクセがあるので、そこはしっかりと理解してから購入を決断してほしい。
こうして3台を乗り比べてみると(オンロードのみでオフロードは走っていない)、それぞれに個性があって、そこから好きなクルマを選べる環境にあることには素直に感謝の言葉を申し上げたい。そして、この中で自分が1台だけ選ぶとしたら、結論は「70」となる。ほかの2台と比べると破格な480万円という価格だけが理由では決してないですよ。
原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)