離婚した姉の「悲惨さ」を見た
「仕事を持っていない場合、やはり離婚したら結構悲惨なことになりますよね。私の姉がそうだったんです。専業主婦で結婚10年、子ども二人を抱えて、夫の浮気が発覚したとたん、慰謝料ももらわずに離婚してしまった。プライドが傷ついたんでしょうけど、養育費の取り決めもしなかったのは拙速(せっそく)だと思いましたね」そう言うのはミツコさん(38歳)だ。彼女自身、結婚して10年たち、子どもが二人いるがパートの収入では、たとえ離婚しても暮らしてはいかれない。
「夫はとにかく家事育児はしない。今は子どもたちが8歳と5歳になって少しだけ楽になったけど、3歳と0歳の時は本当に大変だった。頼みごとをしても、夫はほとんど忘れますしね。何度も『もう離婚してやる』と思ったけど、姉のことがあったから、今離婚したら損だと思い続けて頑張ってきました」
離婚はしない、夫は「悪人ではないから」
離婚を決意しないのは、夫が「悪人ではないから」だという。「うちは分業だから」と夫が思い込んでいるのは癪に障るが、夫は彼女をバカにした発言はしない。自分勝手なところはあるものの、子どものことを気にかけているのは実感できる。だから離婚とまではいかないのだという。「万が一、姉のように夫に浮気されたら、私だったら高額の慰謝料と養育費をふっかけますね。だって暮らしていかなければいけないんだから」
離婚という文字が頭をよぎることはあるが、現実にはならないだろうとミツコさん自身、思っている。離婚したいと思うことと口に出すこと、さらに実際に離婚することの間には大きな違いがあるのだろう。
「結婚していれば、誰でも離婚したいと思ったことくらいあるんじゃないでしょうか。でも、実際には手続きも財産分与もめんどうでしょう? そういうめんどうなことをめんどうだと思わなくなるほど相手を嫌いにならなければ、離婚という選択をしない方がいいと思いますね」
姉は結局、実家を頼って暮らしている。今でも時々、「離婚なんかしなければよかった」と愚痴っているそうだ。
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私も面倒だと思っていたけれど
離婚は面倒だが、その面倒を超えるほどのことがあれば、女性たちは一気に力を発揮することになる。「職場結婚だったんですが、結婚してから私に対する夫の暴言がひどかったんです。何かというと『おまえは頭が悪い』『脳を使え』って。でも実は私の方が有名な大学を出ているし、仕事でも重要な立場にいた。それがしゃくだったんでしょうね。だから結婚という形におさまって、簡単には別れないと思ったからか、急に暴言を吐くようになった」
ユキさん(40歳)はそう言って振り返った。同僚だった彼と結婚したのは30歳の時。冗談が好きで一緒にいると笑ってばかりだった「仲間」の彼だが、結婚してから「夫」として威張るようになっていった。
「今まで通りの関係でよかったのに、なぜか彼はきちんとした夫になろうといらない努力を始めてしまって。夫が考える『きちんとした夫』の中身って、妻を服従させるということだったみたいです。
今の時代、何を考えているんだろうと思ったけど、そういうのは彼の心に刷り込まれた軸みたいなものでした。単なる友達なら対等だけど、夫婦は対等ではないと思っていたようです。結婚前にはわからなかったことでした」
「きちんとした夫」とは?
彼の実家に行ってみると、義父は縦の物を横にもしない。義母はそんな夫の言いなりで、まったく自分の意見を言わなかった。ユキさんの夫も、それが「いい夫婦」だと思って育ったのだろう。「離婚を考え始めた時、妊娠に気づいて。離婚は産後、考えようと思いました。ただ、私の妊娠中も夫は『病気じゃないんだから、今まで通りメシくらい作るのが当然じゃない?』って。つわりと闘いながら仕事もして家事もやってという生活で、安定期に入ったころ倒れました。医師には過労だと言われた。
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結局、ユキさんの気持ちは出産までもたなかった。夫とこれ以上一緒にいたら、自分が壊れてしまうと感じたからだ。妊娠後期に離婚を決めるのは、これ以上ない「面倒」だったが、それでも離婚しなければ人生が始まらないとさえ思いつめていたという。
「本気で離婚したかったら、この夫から離れたいと思うなら、“面倒”なんて超えますね。自分の心身に危機感を覚えたら、それ以上、我慢しないほうがいいと私は思います」
面倒だから離婚はしない。そう思えるうちは「まだ大丈夫」なのかもしれない。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))