「本当は動くか動かないか考えていた」――。ソフトバンクの宮川潤一社長は11月8日の2025年3月期第2四半期決算説明会で、ドコモのahamo対抗について、こう切り出した。結局は「ちょっと耐えきれなくて動きました」と率直に語り、11月1日からY!mobile(ワイモバイル)、LINEMOの料金プランを刷新する判断を下した形だ。
ただし、宮川社長は過度な料金競争への強い懸念も示した。行き過ぎた値下げは中長期的に本当に良いのかと問いかけ、物価上昇の中で通信料金だけが下がり続ける状況に疑問を投げかけた。「われわれにも取引先や社員がいる」と業界全体の持続可能性を案じる。どこかで動きがあれば他社も追随せざるを得ない状況は続くとしながらも、際限のない値下げ競争への警鐘を鳴らした格好だ。
この対抗策を打ち出すまでの社内の様子も明かした。「毎日の日報で数字が上がってこないので『どうしたんだ』と聞いたら『うちだけahamoに対抗していません』と言われた」という。最終的には対抗策実施を決断したものの、「売られたケンカは買う」という表現からは、必ずしも積極的な値下げ競争を望んでいない姿勢がにじむ。
●「純増だけを追わない」宣言、戦略の転換鮮明に
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宮川社長は「もはや純増だけを追いかける経営ではない」と、戦略の転換も明確に打ち出した。今後は「動かないマーケットを無理にこじ開けるのではなく、ARPUの向上を追っかけたい」という。これは、他社からの乗り換え(MNP)による新規契約獲得を競うだけでなく、1契約あたりの平均収入(ARPU)を向上させることで全体の売り上げ増を目指す方針だ。
とはいえ、純増目標を完全に放棄するわけではない。2024年度は純増数100万件前後での着地を見込んでおり、来期以降も100万件という目線は維持する考えだ。ただし「動かないマーケットを無理にこじ開けに行くのではなく、ARPUの向上につながるような投資を優先したい」(宮川社長)としている。
この戦略は既に成果も見え始めている。Y!mobileからソフトバンクブランドへの移行収支が上期として初めてプラスに転じた。同社は2023年度から投入した「ペイトク」プランを軸に、両ブランド間のすみ分けを進めてきた。容量無制限という魅力がある一方で、PayPay還元というお得の訴求もあり、両方のニーズから新規ユーザーを獲得しているという。これらの取り組みの一環として、ペイトクプランのリニューアルも検討しているといい、時期を問われると「ちょっとナイショです」と笑顔で答えた。宮川社長は、こうした施策を今期下期から順次開始する考えを示した。
●3G停波の対応、年内の巻き返しへ
通信品質の面では、3G(第3世代移動通信システム)の停波に関連した対応の遅れを認めた。「1月末で3Gの停波をする予定だったが、能登半島地震の影響で4月末まで伸ばした。エリアによっては7月末まで引っ張ってしまった」と説明。ただし「その言い訳が終わった時期」として、「12月末までに必ず巻き返せ」と現場に指示を出しているという。
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具体的には、3Gで使用していた周波数帯をLTE(4G)に転用し、トラフィック対策と基地局の増設を進める方針だ。設計のベースが12月以降に完成すれば、「あとはリモートでアンテナの角度調整をするだけ」として、年内での品質改善に自信を見せた。
●全セグメントが増収増益、コンシューマー事業がけん引
2024年度第2四半期(2024年7-9月期)の業績は、売上高が3兆1521億円(前年同期比7%増)、営業利益が5859億円(同14%増)となり、上期として過去最高を記録した。全セグメントで増収増益を達成し、通期業績予想も上方修正している。
主力のコンシューマー事業は売上高が前年同期比3%増、営業利益も4%増と堅調な推移を見せている。モバイル事業の売上高は122億円の増収。2021年度に実施した料金値下げの影響から徐々に回復し、2023年度下期以降は増収基調が定着してきた。
●エンタープライズ事業、AIサーバ需要が好調
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エンタープライズ事業の売上高は4458億円となり、11%の増収。特にソリューション事業が28%増と好調で、法人売上も順調に拡大している。
好調なのはディストリビューション事業を担うSB C&SによるAIサーバ販売だ。外部顧客への売上は5倍に拡大し、特に創薬企業など生成AI活用に積極的な業界からの引き合いが強いという。現在はGPUの供給不足により社内向けが中心だが、「もう少し自分たちが理解したらまとめて買いたいという声もある。これをパイプラインとすると相当な量になる」と、供給が安定すれば外部需要への対応も本格化させる方針を示した。
SB C&Sはエンタープライズ、SBテクノロジー、LINEヤフー、PayPayなどグループ内の案件にも参画する機会が増加。「サブスクリプションのモデルが相当根付いており、ビジネスモデルの転換に成功した企業」として評価している。
●PayPay黒字化、取扱高は7.2兆円に
PayPayの売上高は1765億円と17%増収。取扱高も22%増の7.2兆円となり、四半期ベースで2期連続の黒字化を達成。非通信領域の取扱高は27%増と順調に拡大している。宮川社長は「PayPayは世の中に受け入れられてきた」と手応えを示した。
同サービスはソフトバンクグループ、ソフトバンク、LINEヤフーの3社によるジョイントベンチャーとして始動。「グループ総出で1から事業を起こすという初めての試み」だったが、グループ横断での事業展開の好例となった。IPO(株式公開)については「彼らが判断する」として見守る姿勢を示した。
●次世代社会インフラの整備も進展
全国にAIデータセンターを分散配置する計画も進んでおり、10月末にはNVIDIA H100による計算基盤が稼働を開始。計算能力は従来の5倍となり、国内最大級の規模という。2025年度上期には1万基まで増強する計画だ。
注目されるシャープ堺工場の転用計画については、年末までの最終合意を目指している。「データセンターの用途に使えるかという大きなイシューは、堺市の行政がまとめてくれたのでその懸念はなくなった」という。現在は必要な検査や配線の整理を進めており「触れるもの、触れないものを整理している段階」としている。
●Perplexityに自社開発LLMの採用目指す
ソフトバンクは米Perplexity製のAIチャットツール「Perplexity」をスマホユーザーに無償提供している。これについて宮川社長は「意外と好評。ソースを示してくれるので次の質問が書きやすい」と自身も日常的に利用している様子を語った。
また、同社は4600億パラメーターの日本語LLMを開発。8日に研究開発用途向けに公開した。「Perplexityの選択肢の1つとして利用してもらいたい」としており、今後のAIモデルの選択肢として採用を目指す。「日本でも4000億パラメーターのモデルを作れることを証明したかった」と開発の狙いを説明。来期以降の計算基盤の増強計画も踏まえ、開発のスピードアップを図る方針だ。
コンシューマー向けについては「キャリアの責務として、どこでも使える環境を用意すること」を重視。「今作っているAIをコンシューマーに押し付けるつもりは全くない」とし、まずは通信事業者として基盤整備に注力する考えを示した。
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