10月、すかいらーくホールディングス(HD)が北九州地盤でうどんチェーン「資さんうどん」を展開する資さん(北九州市)を買収した。資さんうどんの全国的な知名度は低いものの、北九州市・福岡を中心に約70店舗を展開しており、福岡県民にとってはなじみの深いチェーンとして知られている。
【画像】どんなメニューがあるの? キッチンカーや店舗前にできた行列、名物の「肉ごぼ天うどん」、がっつり系の丼、人気の「ぼた餅」、充実した定食類(全9枚)
同チェーンはうどんだけでなくそばも提供しており、100種類以上ある豊富なメニューが特徴である。今後は都内と千葉県内に出店する予定であり、すかいらーくHD傘下で関東進出を強化する方針だ。
今回は、なぜすかいらーくHDが九州のうどんチェーンに目を付けたのかを探っていく。
●北九州地盤のローカルチェーン 近年は関西など店舗網を拡大中
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資さんうどんは1976年に開業したうどん店がルーツである。北九州という重工業が盛んな地域柄、夜勤労働者の需要も取り込むべく24時間営業としたのが大きな特徴であり、現在でも店舗の多くが24時間営業か午前7〜午前1時のように幅広い時間帯で営業している。当初はドミナント展開をしていたが、2009年からは下関市や福岡市など、北九州市以外にも出店し始めた。
2015年に創業者が亡くなった後は後継者が決まらず、福岡銀行系のPEファンド、福岡キャピタルパートナーズ(福岡市)に経営権が移った。約40店舗体制となった2018年にはユニゾン・キャピタルが経営を引き継ぎ、2023年11月に関西へと進出。その多くが市街地のロードサイドに出店している。
そして、すかいらーくHDが資さんを240億円で買収。これまでローカルチェーンとして愛されていただけに、インターネット上では「メニューが変わるのでは」など、大資本による買収を懸念する意見も見られた。
●100種類にも及ぶ豊富なメニュー
資さんうどんの味については、出汁が少し甘めで、麺は柔らかいという意見が多い。また、先述した通り約100種類にもおよぶ豊富なメニューが特徴である。
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うどんチェーンとして知られているが「かけそば」や「肉玉そば」のようにそばメニューも数多い。ご飯ものも、競合の丸亀製麺がおにぎり類、はなまるうどんがおにぎり類やミニ丼に限られるのに対し、資さんうどんでは天丼・カツとじ丼など豊富である。
うどんに合わせたトッピングも、天ぷら以外にとんかつやチキンカツ、唐揚げなど揚げ物類を一通りそろえる。1986年から提供している「ぼた餅」も、年間540万個を売り上げるなど、看板商品の一つとなっており、一部店舗ではソフトクリームも提供しているなどスイーツにも事欠かない。ちなみにメニューが重めかつ豊富なのも、肉体労働者のニーズに合わせたためだという。
なお「かけうどん」は380円、「肉玉うどん」は720円と、価格帯は丸亀製麺やはなまるうどんとそん色なく、トッピングなどを合わせても1000円以下で満足感は高いとされる。メニュー数が豊富であることから、想定される競合はうどんチェーンだけでなくそば、牛丼、かつ丼など幅広いといえる。バリエーションが豊富という点では、松屋が近年積極的に出店している牛丼+かつ丼+カレーの複合店に近いかもしれない。
●多角化が大きなカギか
ここからは、すかいらーくHDが資さんを買収した理由を見ていこう。業績推移を見ると、すかいらーくHDはここ数年、苦戦していることが分かる。2019年12月期から2023年12月期の業績は次の通りだ。
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売上収益:3753億円→2884億円→2645億円→3037億円→3548億円
営業利益:205億円→▲230億円→182億円→▲55億円→116億円
グループ総店舗数:3258→3126→3098→3056→2976
コロナ禍の業績悪化から売上収益こそ回復しているが、営業利益の推移は芳しくない。2022年度の赤字は原材料費や光熱費の高騰も影響した。
何より、総店舗数が減少し続けている。10月末時点でガスト1246店舗、バーミヤン362店舗、しゃぶ葉295店舗、ジョナサン163店舗とブランドはある程度分散しているが、そのほとんどがファミレス業態であり、いずれも不採算店の閉店を進めている。
対照的なのが、外食大手のゼンショーHDだ。すき家の他、はま寿司やジョリーパスタ、北米でのテークアウト寿司店など多角化に成功している。既存のファミレス事業が苦戦する中、すかいらーくHDはファストフードに位置付けられるうどん業態に勝機を見出したのではないだろうか。和・洋・中と幅広いジャンルを展開している現状では、新たなファミレス業態を開発したところで勝ち目は薄いとみられる。
すかいらーくHDの傘下となった資さんうどんは今後、2029年までに210店舗まで店舗数を増やす方針だ。新規出店に加え、ガストからの業態転換も進めるという。首都圏では今冬に千葉県八千代市、2025年初頭には東京都・両国で新店をオープンする。前者はロードサイド地域、後者は都市部であり、それぞれの立地で様子見する狙いがあるのだろう。特に両国店は、都内で一気に勢力を伸ばす上での試金石といえる。
現状、うどん業態は丸亀製麺が一強状態だ。資さんうどんは営業利益率が2%という高コスト体質も懸念材料とされており、丸亀製麺の16%と比較するとその差は歴然だ。賃料の高い首都圏で出店するに当たり、メニューの絞り込みが行われる可能性はある。しかしそれは資さんうどんの良さを削ぐことにもつながるため、もろ刃の剣といえる。長所を維持しつつ勢力を拡大できるか、すかいらーくHDの手腕に注目したい。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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